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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
169/225

百七十話 赤い骸骨には真っ赤な階段がお似合いですよね

 レッドスカルが一歩踏み出すと、野盗たちは一歩後ろに下がる。

 しかし石段にいる関係で、後ろが詰まって下がるのが遅れた。

 その間に、レッドスカルがさらに近づく。

 野盗たちは人が詰まった階段を下がるに下がれない。

 両者の距離は秒ごとに縮まり、すぐにレッドスカルの武器が届く間合いになった。


「カタタタカチチチ」


 獲物を手にかけることができる喜びを表すかのように、レッドスカルの顎が鳴る。

 その姿に、お頭が大声を上げる。


「全員階段の下までいくぞ! 一歩ずつ、ゆっくりでいい!」


 言葉通りに、野盗たちは一歩ずつ階段を下り始める。

 けど、レッドスカルの近づく歩みのほうが早い。

 かといって、襲い掛かりにいけば、先ほど殴り飛ばされた人の二の舞だ。

 進退窮まって、お頭の横にいた野盗が、破れかぶれに前に飛び出す。


「うおおおおおおおおお!」


 防御を捨てた特攻に、レッドスカルは顎を鳴らしながら、手の剣を振り上げる。


「カタタタタタタ――」


 剣を振り下ろそうとして、レッドスカルは直前で停止した。

 このまま攻撃したら、野盗は死ぬ。それでは『無力化しろ』との俺の命令に、背くことになると考えたからだろうな。

 あの兵士っぽい人さえ生きていればいいので、そこまで気にしなくてもいいのになと、律義さに思わず苦笑いしてしまう。

 その間に、飛び出した野盗や、レッドスカルの腰骨に抱き着いていた。


「おおおおおおおおおお!」


 そのまま力任せに、押し倒そうとしている。

 なるほど、レッドスカルは骸骨だ。

 骨だけの軽そうな見た目なので、倒せそうに見えるよな。

 ところがどっこい、そうはいかないのだ。

 レッドスカルは腰を抱く野盗の服を片手で掴むと、そのまま上へと持ち上げていく。


「カタタタカチチチチ」

「なんだ、どうして!?」


 持ち上げられた野盗の手が、レッドスカルの骨の上を滑っていく。

 腰骨から背骨にいき、やがて手放してしまった。

 持ち上げた野盗の顔を、レッドスカルは暗い眼窩でのぞき込む。そして顎を鳴らしながら、地面に向かって投げ落とす。


「カタタタタタタ」

「待った待っ――ぐえぁ」


 うつ伏せに地面に叩きつけられ、その野盗は潰されたカエルのような鳴き声を上げて、動かなくなった。

 体の全面を打撲して、呼吸困難になっているんだろうな。もしかしたら気絶しているかもしれない。

 けど、この野盗の奮闘のお陰で、他の野盗たちは階段をゆっくりと降りられていた。

 レッドスカルは彼らを追い、石段へと踏み入る。

 その光景を欄干から見てた俺は、レッドスカルに詳しい指示を出すべく、砦の外に出ることにした。


「自由の神よ。我が靴に虚空を跳ぶ力を与えたまえ」


 軽く跳躍して欄干の外へと躍り出る。

 そしてそのまま、砦前の地面に降り立った。

 地面に転がっている野盗二人を、縄で縛ってから、砦に振り替える。


「それじゃあ、情報を持ってそうな人を捕まえてきますので、お留守番よろしくお願いしますね」


 エヴァレットたちが手を振って了解を示したので、俺はレッドスカルを追って石段へと踏み入る。

 階段の中腹で、野盗たちとレッドスカルが攻防を繰り広げていた。

 いや、攻防じゃないか。レッドスカルの猛攻を、野盗たちは横並びになった二人で防いでいるだけだしね。


「カタタタタタタ」

「ぐっ、くそっ。骨が剣で削れねえ!」

「片腕だけの攻撃なのに、なんて力だ!」


 レッドスカルは剣を握っていない腕だけで、相手を殴りつける。

 野盗二人は剣で必死に防ぎつつ、後続が引くたびに、一歩ずつ階段を下りて行っている。

 なかなかに粘るな。野盗の中でも、実力者が殿に残ったということだろうか。

 桟橋の船はバリスタで壊したので、野盗たちは袋のネズミのはずだけど。泳いで逃げられると、探すのは骨だしな。

 ここでまごついては、いられないよな。


「レッドスカル。その二人は斬り殺していい」

「カタ、ガタタタタタタ!」


 歓喜の雄たけびのように、レッドスカルの顎が高らかに鳴った。

 その次の瞬間、右手にある白い剣身の大剣が振られる。

 野盗たちは剣で防ごうとするが、二人とも武器ごと斜めに両断されてしまった。

 信じられないという顔で、血と臓物を石段にまき散らして絶命する。

 レッドスカルは返り血を骨の身から滴らせながら、臓物を踏みつぶして階段を下りる。

 すると、再び野盗が二人、立ち塞がった。


「畜生。やりやがったな!」

「だが、命に代えても、この先にはいかせない!」


 今度の二人は盾持ちだ。攻撃という選択肢をなくして、防御に徹する構えを見せている。

 レッドスカルは彼らと対峙しながら、こちらに顔を向けてくる。

 俺の許しを待つ、猟犬のたたずまいだ。

 指示を下すのは早い方がいいだろうと、立ちふさがる二人の顔を確認する。どちらも、あの兵士ではない。


「そいつらも、殺していいですよ」

「カタタタタタ」


 了解とばかりに顎を鳴らし、レッドスカルは下から上へと剣を振るう。

 この一撃で、野盗の片方は盾を手から吹っ飛ばされ、無防備な状態になった。

 仲間のピンチに、すかさずもう片方がフォローに入り、レッドスカルの剣に盾を押し付ける。


「食い止めるから、新しい盾を貰ってこい!」

「悪い、頼む! だれか、盾をこっちに投げてくれ!」


 盾を失った方が、階段の先にいる仲間に声をかける。

 レッドスカルは剣を振るおうとするが、周囲が岩の壁であることと、盾のある野盗に抑え込まれて、思うように動けないでいる。

 俺は意地悪く指示は出さずに、どうする気か観察する。

 レッドスカルは片手から両手持ちに変え、力任せに盾持ちを押し込んでいく。


「ぐぅうぅ、くそ、なんて力だ」


 野盗は吹っ飛ばされないように踏ん張り、渾身の力で押し返している。

 けどその努力は実らず、どんどんと背中がエビ反りになっていった。

 この体勢になってしまうと、後ろに跳んでの仕切り直しはできないな。

 野盗は必死に耐えるが、やがて堪えきれなくなった。


「くぅそおおおおお――がごぇ」


 仰向けに押し倒されて悔しげな顔をする野党の顔を、レッドスカルは骨の足で踏み潰した。

 あまりに力が入ったのか、血と頭蓋骨が方々に飛び散り、石段がひび割れている。

 その光景を、新し盾を手にした野盗が目前に見て、真っ青な顔になった。


「ひっひいい。こ、こいよ。た、たたた、戦ってや、やるから――」


 なけなしの勇気を振り絞って盾を構えるが、腰が引けている。

 そんな体勢で耐えられるはずもなく、レッドスカルの渾身の一撃で、頭を割られて死体となった。

 あっさりと四人が死に、返り血を滴り落とす骨の化け物に、野盗たちはとうとう音を上げる。


「くそっ、なんでこんな化け物を使役できるやつがいるんだ!」

「逃げるんだよおお! 早く階段を下りやがれ!!」

「下りたって船はないんだぞ! 冷たい川を泳いで逃げろってのか!!」


 ぎゃんぎゃんと喚きながら、我先にと階段を降りようとする。

 生き残りをかけて必死だなと感心しつつ、ああも詰まっていると、話が聞けそうな兵士の姿を確認するだけでも難しい。


「ふむっ。レッドスカル。最後尾を一人ずつ引きはがしてください。殺すかどうかは、その都度支持しますので」

「カタタタタタタタ」


 支持を受けて、レッドスカルが最後尾の襟首を捕まえて引っ張り、こちらに顔を確認させてくる。


「これは外れですね。殺していいです」

「カタタ」

「待って、やだやだああああ――」


 手に掴んだ野盗の頭を、レッドスカルは岩の壁に叩きつける。

 スイカでやったかのように赤い汁が方々に飛び散り、頭が半分の厚みになった野盗が階段に転がった。

 同じことを、次から次に行っていく。


「それも違います。そっちもです。それまた違いますね」

「カタ、カタタ、カタカチチ」


 岩の壁に、放射状の赤い芸術作品が、次々に描かれていく。

 足元の階段も赤く染まって、絨毯のような有様だ。

 こうやって一人ずつ数を減らしていき、やがて桟橋まで到着した。

 橋の上に残っている野盗は五人。

 お頭の他には、見知った顔はない。つまり、あの兵士がいない。

 どういうことかと思っていると、階段の方からうめき声が聞こえてきた。

 振り返ると、階段の上でうごめいている、数人の野盗の姿が目に入る。

 おかしいな。レッドスカルのあの顔面叩きつけで、生き残るはずがないのに。

 不思議に思ってよく観察すると、生きている人たちは手や足、そして背中を押さえてうずくまっている。

 どうやらレッドスカルではなく、逃げる最中に階段で転んだり、誰かに踏まれて怪我をしたらしい。

 立って逃げている野盗の最後尾を捕まえてきたから、階段に転がっている人の生死は見てなかったな。

 盲点だったと思いながら、レッドスカルに命令する。


「いま一番左にいる、野盗の頭は生け捕りにしてください。他は殺していいですよ」

「カタタタタタ」

「うおおおおおお! 殺されてたまるか!!」

「ここで生き残れば、兵士としての生活が待ってるんだ!」


 戦う音を背に、俺は階段へと戻る。

 そして生きている人を一人ずつ確認していき、脛が折れ曲がった兵士を見つけた。


「こんばんは。ちょっとお話聞かせてくださいな」

「ぐうぅ、だ、だれが――があああああああああ!!」


 生意気言うのはわかっていたので、折れた脛を踏みにじってやった。


「私の知りたいことを話してくれたら、この砕けた脛を治して差し上げてもいいですよ」

「こ、こんなことをしても――え、おい、止め、ぐおおおおおおおおお!!」

「ほら、話しましょうよ。痛いでしょ、痛いですよね? 痛い場所を、治したいと、思わないのですか?」


 一言区切るたびに、一回踏みつける。

 すると、一分も経たずに兵士は白旗を振るった。それも涙と鼻水に塗れた顔でだ。


「うぇぐ、わかっだ。はなじまず、はなじまずがら、やめでぐだざいぃぃぃ」

「うんうん、素直なのはいいことです。でも、足を直すのは、知りたいことを喋ってくれた後にしますからね」

「それでいいでず。だがら、もう踏まないでえぇぇ……」


 腫れあがった足をかばうように、兵士は体を丸める。

 ちょっとやり過ぎたかなと思わなくはないけど、これで話が進むので良しとしよう。

 それにきっと自由神なら――


『自由神ちゃんくんの信者なら、何をしたって。お~る、おけ~~★』


 ――って、どんな真似も笑って許してくれるに違いないしね。

 さてとって兵士を持ち運ぼうとしたら、階下からレッドスカルが戻ってきた。

 肩には野盗のお頭が、手足の関節を折られた状態で乗せられている。

 けど、俺の前にいる兵士と根性が違うのか、レッドスカルの頸椎に噛みついて、どうにか一矢報いろうとしていた。


「えーっと、剣は私が持ちますから、この男も引きずって砦まで行ってくれませんか?」

「カタタ」


 レッドスカルは命令通り、俺に白い剣を渡すと、足の折れた兵士の襟首を掴む。

 そして階段の上へと引きずっていく。


「ぎゃっ、止め。石段が、石段の角が!」

「ふぐぐぐぐ、がりがりがりがり」


 泣きわめく兵士と、諦めずにレッドスカルの首を齧り取ろうとする野盗の頭。

 その様子を見ながら、俺は目の前の骸骨のように、赤く染まりきった石段を登り始めたのだった。 

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[一言] 「ふむっ。レッドスカル。最後尾を一人ずつ引きはがしてください。殺すかどうかは、その都度支持しますので」 支持>指示
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