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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
168/225

百六十九話 砦の再制圧まで、あと一歩というところです

 砦を巡って、中に残っていた野盗たちを、一人ずつ殺していく。

 単独でいるなら、刃物を使っての暗殺。

 複数でいるなら、一人ずつ呼び出すか、または静かに殺せる毒薬を活用する。

 あらかた殺し終えたら、ダブルチェックの意味を込めて、隅から隅まで生き残りがいるか砦の中を探す。

 ここで一人でも殺り逃していたら、外に出ている野盗が戻ってきたとき、扉をあけられてしまう可能性が残る。

 そのためにも、入念に一か所一か所調べていった。

 俺は隠し通路や隠し部屋がないか、エヴァレットは自慢の聴力を生かして探す。

 結果、この砦を使っていた兵士のものらしき、隠されていたヘソクリや物品を発見した。

 きっと、隠した本人もどこに隠したか忘れてしまって、取り残されたものに違いない。

 お金はもらうことにして、物に関しては同じ場所に戻しておいた。

 兵士が手に入れられる程度のものなので、あってもなくてもいいしね。

 そして意外なことに、隠し通路は存在しないようだった。

 外に通じる逃げ道を作ると、逆にたどって侵入される恐れもあるので、それを防ぐためだろうな。

 もしくはこの砦を設計した人が、難攻不落だと自信を持って、あえて隠し通路を作らなかった場合もあるかもしれない。

 なんにせよ砦の出入りは、あの重たい扉を開けないことには不可能だと分かっただけでも収穫だ。


「時間が経ちましたし、アフルンたちと合流しましょう」

「それが良いと思います。砦の外から聞こえてきた戦闘音が止みましたので、野盗が戻ってくると思いますし」


 エヴァレットの言葉からすると、スケルトンたちはやられてしまったらしい。

 レッサーじゃないスケルトンは、この世界の住民たちにとっては、それなりに強い相手だったはず。

 それを倒すという事は、野盗たちは強い部類に入る人たちだったようだ。

 ま、どれほど強くても、数十人ぐらいの規模で砦の扉を破壊することは物理的に無理なので、心配する必要はないけどね。

 でも、のんびりともしていられないのも事実。

 少し足早に、アフルンたちに合流しよう。

 待ち合わせ場所に行くと、既に三人は待っていた。 

 俺たちの姿を見て、まずピンスレットが俺に抱き着いてくる。


「ご主人さま。ちゃんと、誰も残ってないか確かめてきました!」

「よしよし、偉い偉い」


 懐く家犬にやるように、ピンスレットの頭を少し荒めに撫でる。

 嬉しそうにきゃっきゃと笑う姿を横目に、アフルンとアーラィに視線を向ける。


「これのお陰で、楽々だったわぁ」


 アフルンが掲げて見せてきたのは、求められて俺が渡した数本の猛毒入り高級ワイン。

 その全部が空になっているようだ。

 きっと、体の匂いで呆然とさせて、ワインを飲まさせたんだろうな。

 まだ少女と呼べる年齢なのに、ハニートラップを使いこなすなんて、恐ろしい子!!

 そんな驚きを得た一方で、アーラィが四本の手に握っている剣に、血のりは全くついていないことが気になった。


「いえ、その。戦う機会がまったくなくて……」


 バツが悪そうに言いながら、視線がアフルンの手元の酒瓶へ。

 どうやら全ての野盗を、アフルン一人が毒酒で殺し尽くしてしまったようだ。

 ……アフルンの匂いに惑わされないよう、これからより注意しようっと。

 それはさておき、砦の奪還はこれで成った。

 あとは野盗の首魁と会話をして、黒幕が誰かを聞かないといけない。

 噂話を聞いて、野盗が独自にやってきたならそれでよし。単純に殲滅しよう。

 誰かから要望を受けてきたのなら、その誰かが何者か詳しく話を聞かないといけないよな。

 

「エヴァレット、外の野盗たちはいまどの辺りに居ますか?」

「川に向かって歩いているようですね。倒したスケルトンの骨で、音を鳴らしているので、場所を聞き失うことはないと思います」

「となると、まだ少し時間がありますね。空いた時間で、砦内の死体を片づけておくとしましょうか」

「ご主人さま。せっかくなんですから、外の人たちに仲間の遺体を返してあげたらどうでしょう!」

「死体運びが終わったら、水浴びでもしたいわぁ。古着だからどうしても、匂いが気になっちゃってぇ」

「三と四本目の腕を出すために服を斬っちゃったので、いつもの服に着替えたいです」

「そういうことなら、死体運びをさっさと終えてしまいましょう」


 ということで、俺たちはもうひと働きすることにしたのだった。






 野盗が戻ってきたことは、音ですぐわかった。


「おい、テメエら! さっさと開けねえか!!」


 獣の咆哮のように大きな声に、扉を殴り壊すような大きなノック。

 なんというか、荒くれものって感じがお似合いの行動だな。

 俺は門の直上の欄干から身を乗り出し、下を見る。

 二十人ばかしの野盗たちが、閉めた扉の前に集まっている。


「おい! 寝てんのか!! 起きて扉を開けやがれ!!」

「おーい、早く開けろー! このままじゃ、お頭が扉を殴り壊しちまうぜー!」

「あははっ、そいつは大変だ。その前に開けろー」


 ある野盗の冗談に笑いながら、お頭と呼ばれた人と共に、他の人たちも扉をたたき始めた。

 手で、足で、倒したスケルトンの骨で、音を鳴らす。

 いい加減喧しいのでやめさせたいのだけど、彼らは俺に気づく様子がない。

 声をかけようかとも思ったけど、周囲を見て、演出にいいものを見つけた。


「自由の神よ。薪を燃やすにふさわしい、些細な火を起こしたまえ」


 呪文を唱えながら、杖を欄干にある松明に向ける。

 着火の魔法が程なく発動し、篝火が起きた。

 そこでようやく、扉の前にいる野盗たちがこちらに顔を上げた。


「おい! 不要な灯りを点けるんじゃ――誰だテメエ!!」


 お頭が叫ぶと、他の野盗たちもざわめき始めた。


「あの格好、神官か? 頭に耳がないから、この先にあるっていう獣人の里の奴じゃなさそうだが」

「そんなことより、どうやってあいつは中に入ったんだ?」

「そうだな。オレたちが砦にいたときも、出て行ったときも、帰ってくるときも、あんなやつ見たことなかったが……」


 不思議そうにする彼らに、端的に状況を伝えるために、傍らに控えているアーラィに身振りする。

 アーラィが死体の一つを持ち上げ、欄干の先に出し、手放した。


「何か落としたぞ、避けろ!」


 すぐに湿った落下音がして、野盗たちのざわめきが大きくなる。


「おい、こいつは中に残した?! やろう、オレたちの仲間を!!」

「血が出てこねえってことは、いま落として死んだんじゃねえ。死体を落としたんだ!!」


 ざわざわと騒がしくなる中、お頭だけは変に冷静だった。


「おい、テメエ。こんなことして、どうなるか分かっているんだろうな?」


 話を向けている先が俺のようなので、答えてやることにした。


「私は砦の中で、貴方たちは外です。さてこの状況で、そちらがどうにかできるのですか?」

「できるかできねえじゃねえよ。やってやるって言ってんだ! いまワビを入れるなら、半殺しで許してやるって言ってんだ!」

「話になりませんね。それっぽっちの人数で、この扉を打ち破れるとでも? 曲がりなりにもこの砦を使っていたのなら、それが不可能なことぐらいわかりそうなものですけどねえ」


 煽り気味の言葉をかけると、野盗たちが動揺する。

 けど、お頭はニヤリと笑った。


「ははっ。状況が分かっていねえのは、この場で詰んでいるのは、オレら側じゃねえ。テメエの方だ」

「ほほぅ。面白い冗談ですね。ならその、詰んでいる状況とやらを、お聞かせくださいな」

「いいか、耳かっぽじってよく聞きやがれ。テメエが何人連れて、どうやって砦に入ったかは知らねえがな、その砦はこの道を通り、船を使わねえと外に出られねえんだ」


 当たり前のことをもったいぶって言ってきたことに、小首を傾げる。


「はい、それがどうかしましたか?」

「分かってねえな。つまりテメエは、オレらが扉の前にいる間、補給が一切できねえってことだ。そして逃げることもな!」

「……はい??」

「だがオレらは違う。補給物資を乗せた船が定期的にやってくる。それを受け取って食えば、テメエよりもここに陣取ることができる!」


 ……お頭が語る論点がわからない。

 なんで俺が『補給』と『逃走』の心配をすると、彼は思っているのだろうか。

 扉の前に陣取る気でいるらしいが、こちらがそちらに『攻撃』をしないという結論は、どこから出てきたのだろうか。

 本気で理解不能で、隣のアーラィに顔を向ける。

 彼もよくわかっていない顔をしていた。

 けど理解できていないのはこちら側だけで、野盗たちは納得したようだ。


「お頭はやっぱり頭がいいや! オレらがここにいるだけで、あいつは籠城するしか手がねえってことですね!」

「あいつが砦の中の物を食べつくすまで、待っていれば勝てるって寸法っすね!」


 野盗たちが口々にお頭を持ち上げているが、冗談で言っているんだよな?

 ――いや、あの顔は本当にそう思っている顔だな。

 おいおいと思っていると、こちらと同じような顔をしている人を見つけた。

 他の野盗たちより、若干身なりと装備が良さそうな、三十前半の男性。

 唯一違うという点から、彼が『いけすかない兵士』という人じゃないかとあたりをつける。

 案の定、彼だけがお頭に苦言を言い始める。


「悠長なことをしていたら、あちら側の増援がくる可能性が――」

「そうなるなら、あんたの上が増援を先に寄越してくれりゃいいだろうが。なんなら金さえ寄越してくれれば、こっちが伝手を頼って人数を集めたっていい」

「そんな! 貴方たちに報酬を払うのは、砦を占拠している場合という約束。それ以外なら、一銅貨たりとも渡しません」

「金を払う気がないなら、黙ってろ。テメエはオレらの仲間じゃねえ。金づるの小間使いだってことを忘れるんじゃねえ」


 まともな意見だったのに、あっさりと退けられてしまった。

 可愛そうに。

 可愛そうだから、お頭じゃなくて、色々と事情を知っていそうなあの人を残そう。

 常識人っぽいから、こちらの脅しにも簡単に屈するだろうしね。


「話は分かりました」


 俺が告げると、お頭は表情を輝かせる。


「分かったのなら、さっさと扉を開け――」

「貴方の話が本当かどうか、試してみるとしましょう」


 俺が手を振り上げると、ギリギリと弦が巻かれる音がし始める。

 野盗たちが動揺する。


「テメエら、門から離れて石段まで下がれ。あそこなら、左右からの矢で狙い撃ちにされずに済む!」


 お頭の言葉に従い、野盗たちは挙って巨石を掘って作られた石段の中に身を隠す。

 けど、やっぱりここの砦の設計をした人は優秀なようで、俺の位置からだと狙えるようになっている。

 ま、エヴァレットたちにバリスタで狙ってもらっているのは別なので、彼らにとってそれだけは安心材料だろう。


「放ってください」


 手を振り下ろしながらいうと、二基のバリスタから槍のような矢が飛び出した。

 飛んでいく先に、桟橋。

 やがて大きな矢の片方は、そこに係留されていた小舟に突き刺さった。

 衝撃で小舟が真っ二つに折れ、水面に沈んでいった。

 外れた方の矢は川へ飛び込み、発生した波紋が残った小舟を揺らす。

 その光景に、野盗たちから焦った声がでる。


「お頭、まずいですよ。このままじゃ、船が全部ダメになっちまう!」

「船の一つや二つ、好きに撃たせてやれ。焦ったオレらが船に乗って、逃げるのをまってやがるんだ。川に出たほうが大弓に狙われる!」


 野盗たちはなるほどと納得したが、いけすかない兵士の人は違った。


「船がなくなったら、援軍どころか補給物資をねだりにもいけませんよ。ここは危険を冒してでも、船は死守するべきだと――」

「そうか。ならテメエがやれ。止めやしねえ。大弓と普通の弓で、体に穴が開くと思うがな!」


 言い争う声が聞こえるが、その間にバリスタの第二射が発射された。

 また小舟が一つ沈んだ。

 野盗たちが身を潜め、事態を正確に理解している兵士の人が手を打てずにいる中、第三射、第四射。

 これで小舟は一つ残らず川の中だ。

 狙う相手がなくなって、こちらの攻撃が終わる――と思ったら大間違いなんだな、これが。


「我が神よ。怨嗟により赤く濡れた骨の戦士を、我が元に遣わせていただきたい。代わりに、暴れるにたる場所を用意いたします」


 俺が杖を振り上げながら呪文を唱えると、階段に隠れる盗賊と扉の間に、黒い円が発生する。

 そこから一匹の、真っ赤な骨をしたスケルトンが現れた。

 手には人間大の肩甲骨を削って作ったかのような、大きな白い剣が握られている。

 その赤いスケルトン――『レッドスカル』は、階段に隠れている野盗たちを見て、口をカタカタと揺らし始めた。

 それを確認してから、俺は命令を下す。


「奴らを無力化しろ」

「カタカタカチカチ」


 顎と歯を鳴らしたレッドスカルは、ゆっくりと石段へと向かう。

 すると野盗の一人が飛び出してきて、斬りかかっていく。


「動く骨ぐらい、さっきもたおし――ぼぎょッ!」


 レッドスカルが骨の腕を横に振るうと、その野盗が吹っ飛んだ。

 そして、砦の斜面を転がり落ちて行った。


「カタタタカチチチ」


 次の獲物を求めるように、レッドスカルは石段に暗い眼窩をむけ、また一歩踏み出したのだった。


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