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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
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百六十八話 演技をもって、砦を落としにかかりましょう

 石段を駆け上ると、砦の重そうな扉が閉まりかけていた。


「待ってぇー、閉めるのを待ってくれぇ~~」


 情けない声を演じながら、扉を閉めようとしている人たちに声をかける。

 すると案の定、彼らは作業の手を止めてくれた。


「おいおい、どうしたよ。急いで戻ってきて、忘れ物か?」

「でもよ。船は全部行っちまったようだぞ。どうするんだお前ら?」


 こちらを仲間だと疑っていない様子で、五人の男性が門の隙間から外へでてきた。

 真夜中で暗いということともあるだろうが、砦側の誰にも発見されずに、敵がここまでくるなんて考えもしていないに違いない。

 ふふふ。敵だと疑われていない状況と、扉がまだ開いている状態とはな。砦の攻略がだいぶ楽になった。

 心ではほくそ笑みながら、顔では困り果てた表情を浮かべる。


「それがよぉ、生け捕りにした後で縛る縄をどうして持ってないって、どやさてよぉ。縄を取ってきて、泳いで川岸にこいって、言われちまったよぉ」


 固有名詞を省くことで、こっちの言葉が誰を指すかを、相手側に誤認させるテクニックで説得する。

 扉を閉めようとしていた男たちは、納得したような顔になった。


「ああ、この砦にいたっていう、あのいけ好かない兵士に目をつけられたのか。ご愁傷さまだな、おい」

「聞いた話じゃ、この先の隠れ里にいるのは、少し変わっているだけの獣人だろ。生け捕りなんてしても、身代金は期待できねえってのになぁ」

「えへへっ。そうなんですよぉ。困っちゃってぇ」


 気弱そうに見えるよう微笑みつつ、エヴァレットたちと共に扉を通ろうとする。

 彼らも同情してくれて、通れと道を開けてくれた。

 このまま砦に入れれば、後はどうとでもなるな。

 そう気を緩めたのがいけなかったらしい。

 彼らの一人に、呼び止められてしまった。


「おい、ちょっと待て」

「はい。なんでしょ?」


 その一人は、少しアフルンより大きいくらいの、背の低い人だった。、

 なぜ呼び止められたのか分からずにいると、彼は俺ではなくアフルンをしげしげと見始める。


「オレっち以下の身長のやつがいるなんて話、聞いたことがないんだよなぁ」


 なんだそんなことかと、出まかせの言葉を紡ごうとして、他の野盗のハッとした表情を見て止めた。

 どうやら、この人が仲間内で一番背が小さいことは、共通認識として持っていたらしい。


「ちょっと待て、中に入るな」


 異常だと思われたようで、俺たちの前に一人立ちふさがった。

 強行突破してもいいけど、そうすると砦に残った人たちが武装してやってきそうだな。

 さてどうしようと決断しようとして、俺の後ろでアフルンが何かしている声がかすかに聞こえてきた。


「ふぅぅー……。ねぇ、この体のどこか、おかしいのぉ?」

「お前、おん、な……おかしいって、なんの、ことだ?」

「貴方がさっき、言いがかりつけてきたんじゃないのぉ」

「言いがかり、ってなんだ。オレっちは、なにを言ったんだ?」


 アフルンの小声の問いかけに、ぼおっとした声で背の低い男が返答している。

 どうやらアフルンお得意の、相手の意識を操る匂を使っているらしい。


「なら、何もおかしいことはないのよねぇ?」

「そう、だな。変なことは、ないな」

「なら、勘違いだったって、あの人たちに伝えなくていいのぉ?」

「伝えなきゃな、勘違いだって……」


 アフルンの言葉に応じる形で、背の低い男は大声を出す。


「すまねえ、勘違いだったー! こいつ、オレっちよりも背が高かったー!」


 酔客の叫びのような、ちょっと調子はずれな大声だった。

 けど、他の野盗の人たちは変だとは思わなかったらしい。

 むしろ、背の低い男がサプライズな冗談を言ったと受け取ったようだった。


「んだよー。脅かせるんじゃねえよ」

「いやまあ、気持ちはわかるけどな。砦の占拠なんて大仕事やるなんてと意気込んでいたのに、やってみると暇で暇でしょうがねえしな」

「いま砦は異常事態だけど、ここまで敵がやってこれるはずがないから、砦の守りを言い渡されたこっちは気楽なもんだしな」 


 疑いが晴れた顔をして、俺たちを扉の中に入れてくれた。


「お前ら、急いで縄を取りに行けよ。お前らが出て行かないことには、扉が閉められないからな」


 笑顔での言葉に、俺も笑顔を返す。

 彼らの後ろに、エヴァレットたちがこっそりと近づいていることを見ながら、とびっきりのうさんくさい笑顔でね。


「いやいや、閉めてくれていいですよ。というか、閉めてくれないと困ります」

「はぁ?」

  

 何を言っているんだという顔の彼らの喉を、エヴァレットたちが武器で深く斬り裂く。

 アーラィに至っては、服の内に隠していた二対目の腕を使って、二人同時にやっていた。

 四人が間抜け顔で即死。荒事に慣れていないアフルンが仕留めそこなった背の小さな男だけ、まだ息があるようだった。


「げほっごぼっ、お、おまえ、まさ――ごぼ」


 斬られた痛みで自分を取り戻したらしく、こちらを憎々しげに睨んできた。

 すかさずピンスレットが、彼の首を斬り飛ばす。

 地面を転がる顔に向かって、俺はあえて答えてあげた。


「はい。貴方が疑ったように、私たちは貴方たちの敵ですよ。そして、この砦を落とす気でいます」


 言った後で周囲を見回し、詰所を見つけた。


「まず、あの中に死体を隠して、私たちが侵入したことの発覚を遅らせます。その後で、砦の扉を閉めて開かなくしますよ」


 全員で急いで死体を搬送し、扉を閉めて閂を三本かける。

 これでもう、外から中に入る手段はない。

 それこそ、丸太を十数人がかりで運んで当てる、攻城槌を使わない限り無理だ。

 いやまてよ。丸太を抱えて巨石の石段を通るのは、階段の広さ的に無理だな。ああ、あれって攻城槌を扉に使われないための設計でもあったんだ。

 この砦を作った人の有能さに感じ入りながらも、それを生かすにはこの野盗たちは能力が不足しているようにしか思えなかった。





 一度中に入れば、後はこちらの思うがままだ。


「よお。戦いはどうなっている?」


 俺は物見やぐらの上にいき、監視者の男に声をかける。

 彼はぎょっとした顔をして、こちらが企んだ顔で陶器瓶と杯を掲げているのを見て、ニヤリと笑い返してきた。


「おいおい、酒なんてどこから持ってきたよ。食糧庫は見張りがいて、盗めねえだろう?」

「こっそりあちこち調べていたら、寝床の一つに隠し場所を見つけてよ。中にこれが入っていた。だからよ、ここでこっそりと飲もうと思ってな」

「へへっ、そいつはいいや。オレにも飲ませてくれるんだろ?」

「もちろんさ。口止め料に、半分やるよ」


 杯を握らせ、瓶の蓋を抜いてから注いでいく。


「気前がいいことだな。おっとっと、そのぐらいで」

「ほいよ。それじゃあ、砦に挑戦してきてくれた、間抜けどもに」

「間抜けに、乾杯だ」


 監視者がぐっと杯を開けるのを、俺は杯に口をつけただけの状態で見ていた。

 そして飲むふりをしながら、男が差し出してきた杯に、もう一杯注いでいく。


「くあぁ~、いい酒だな。隠してあったのもわかるってもんだ」

「そりゃあ、いい酒だよ。人生最後に飲んだものが安酒じゃ、あんまりだしね」

「あん? なにいって――がっ、ぐがうぐぐぐ……」


 急に胸を押さえて苦しみだし、男は物見やぐらの床に倒れた。そして苦しそうに呻き、少しして死んだ。

 それを見届けて、俺は自分の杯の酒を男に浴びせ、瓶は蓋をしなおしてからアイテム欄に仕舞う。

 表示されたアイテム名は『猛毒入り高級ワイン(半量)』。

 このワインは、フロイドワールド・オンラインで暗殺関係のクエストを受けると、殺害する側でも防衛する側でも手に入れることのできるもの。

 でも先ほどの男が苦しんでいた様子を見てわかるように、即死させるタイプではない。

 なので、毒消しや神官職などの回復役がいればほぼ死ぬことがないため、微妙に使い勝手の悪いと評判のワインだったっけ。

 そんなワインなので、ダース単位でアイテム欄に死蔵してあるけど、今回一本の半分がようやく消費された。

 本来の意味で使われて、このワインも本望に違いない。

 さて、空の瓶を男の横に置いてっと。これで隠し持っていた酒を飲んでたときに起きた、突発的な自然死に偽装完了っと。

 物見やぐらの監視が無力化できたので、これから砦の中で異常が起きても、誰かに発見される確率がぐっと減った。

 あとはこっそりと、砦の中にいる人を始末していけばいいな。

 そこでふと、視線を砦の正面――草むらのある報告へ向ける。

 茂った草を進む影に向かって、野盗の集団が川岸から猛進している姿が目に入った。


「せいぜいスケルトン相手に頑張って戦え。終わったときには、お前らに帰る砦はないがな」


 なんて、つい高いところにいてキザな独り言を呟きたくなった。

 言ってしまった後で、ぷっと自分を笑う。

 我ながら似合わない台詞だなって思いつつ、物見やぐらから下りる。

 周囲の警戒をしてくれていたエヴァレットたちと合流し、これから本格的な野盗狩りを始めるとしよう。

 軽く打合せし、必要なものを渡したら、二人一組で行動開始。俺とエヴァレット、アフルンとアーラィに分かれる。

 その後、エヴァレットは耳がいいので、さっきの独り言が聞かれていたかもと気づく。

 それは、新たな犠牲者が一人生まれ、彼女から期待される目を向けられたときだった。

 


明日はまた、更新をお休みします


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