百六十五話 砦を攻めるには、まずは情報からです
街道の砦を塞ぎ、トンネルにも岩壁を設置した後、一度キルティの屋敷に戻った。
川沿いにある砦について、よく知っている人に話を聞くためだ。
キルティに案内されて会うことになったのは、湖や川で漁をして暮らす人たちの取りまとめ役。
会ってみると、黒い髪の毛で同色の先が折れた犬耳がある、男性だった。
年齢は三十代だろうな。身長が高くて、体つきががっちりしている。
その彼に、キルティが告げる。
「神遣いさまに、貴方が知る砦の全てを伝えてあげて」
「は、はい、もちろんですとも」
緊張した面持ちの男性が、砦のことを語り始める。
それで、川の砦のことが段々と分かってきた。
砦があるのは、険しい連山近くの川縁。
しかし、里を囲む山の外側ではなく、内側にあるそうだ。
「街道の砦より先にできたと、漁師間の昔話では聞いております。大昔は山の外と内を行き来するには、川しか交通手段がなかったそうで」
里の存在を秘匿しつつ、川を行き来する人を監視し、必要とあれば拘束するための砦だ。
山の外側に作っては、どうしてあんな場所に砦があるのかと、通りかかった人に注目されてしまいかねないため、内側に作られたらしい。
「その砦に行くには、川を下っていくのが一番簡単なんですが」
「川の監視のために作られた砦だけあって、すぐに察知されてしまうわけですね?」
「はい。まさにその通りで」
船で行く以外の方法だと、未舗装の川縁を歩いていくしかないらしい。
舗装していないのは、道があれていた方が、砦に駐屯していた人たちが守りやすいためだろうな。
それに、砦の人は船を使いたい放題だ。なので、わざわざ新しい道を作る必要もなかったはずだ。
「以前は聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの兵士が監視していたので、船でいけないということはわかります。しかし、いま占拠しているのは野盗なのでしょう。ならつけ入る隙がありそうなものですが?」
「それがですね。砦には槍みたいに太い矢を放つ、馬鹿でかい弓がありましてね。それを占拠した野盗らしきやつらも、使っているもんで」
その大きな弓――たぶんバリスタだろう――に狙われたから、昨日は砦に近づくことを諦めて、引き返してきたらしい。
防衛兵器をそのまま残しておくなんて、不用心だな。
手間がかかっても、砦から外して持っていくものだろうに。
いや、待てよ。
『ワザと置いていった』という可能性もあるな。
川の砦の指揮官が、ジャッコウの里から得る利益を独占するため、子飼いの傭兵を砦に入るよう要請。拠点を防衛しやすくするために、バリスタは設置したままにしておいた。
この筋書きなら、砦に防衛兵器が残っている理由に説明がつく。
もしかしたら、砦の指揮官が無能で、撤去と再設置の手間を惜しんで、置いたままにしたのかもしれないけどね。
どちらにせよ、砦にバリスタがあるとなると厄介だ。
川に渡す小舟だと、至近弾で横転しかねない。
こうなると荒れ野を進んで、砦に向かうしかないんだろうけどなぁ……。
「歩いていくと、何らかの問題があるんですよね?」
断定的に聞くと、漁師の男は頷いた。
「とても日数がかかります。その上、出入り口が川に面した一つしかなくて」
詳しく聞くと、砦から川に伸びる桟橋しか、入口が接していないそうだ。
では回り込んで橋に行けばいいと思うが、そうは問屋が卸さないらしい。
「砦の周りは治水工事がされており、森が開けています。なので桟橋付近は、物見台から丸見えになってるんで」
「一方的に攻撃される上に、隠れる場所がないと」
これは困った。
もし桟橋から入口についたとしても、きっと分厚い扉が待ち受けているはずだ。
聞いて対策を考えるほど、難攻不落な要塞のように思えてくる。
逆に、こちらが再占領できたら、今後は安泰ともいえるけどね。
うむむっ。手がないわけじゃないけど、どうしたものか。
水中呼吸の魔法で桟橋まで泳いでいくか、それとも植物を成長促進する魔法で砦の付近を藪に変えようか。
砦の壁を土魔法で崩したり、岩壁の魔法で防御壁を張りつつ接近するという手もあるな。
フロイドワールド・オンラインで砦攻めの経験がいくつかあるので、どれかが流用できないだろうか。
「いくつか質問したいことがあるのですが、構いませんか?」
「はい。答えられるものでしたら、なんだって答えますとも」
過去ゲーム内でやった作戦が可能か、漁師の男に川と砦周りの地形を詳しく尋ねていく。
するとどうやら、かなり厳重に地盤工事と治水対策がされているそうだ。
川の流れを曲げて水攻めや、地盤を崩して壁を壊したりするには、その工事された部分を壊さないと無理だろうな。
他にもなにか知らなければいけないことがないか、さらに詳しい話を聞き続ける。
漁師の男が辟易とした顔に変わった頃に、ようやくこれならいけるという策が決まった。
さてと、エヴァレットたちとジャッコウの民の協力が必要になるから、まずはキルティとお話合いをしないといけないな。
短いですが、切りがいいので、この時点で区切らさせていただきました。
 




