百六十二話 癒しの時間は必要なものです
今回は性的な話なので、嫌な人は見ないことを推奨します。
エヴァレット、ピンスレット、アフルンが先に湯あみ――つまりお風呂に入ることになった。
その間に、俺とアーラィの男性陣は、部屋に通されることとなる。
一人一部屋宛がってくれるようで、一人でキングサイズっぽい大きなベッドの上に座る。
せっかく一人の時間ができたからと、ステータス画面を開き、新しい情報がないか調べ、今後の展開に使えそうな魔法を探す。
作業の間、ニヤニヤ笑いをしていたキルティが何かしてこないか警戒していたのだけど、特にはなかった。
変だなと小首を傾げていると、部屋の扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
声をかけると、扉が開き、メイドが一人立っていた。
「お連れ様たちの湯あみが終わりました。ご使用可能でございますが、神遣い様はいかがなさいますか?」
エヴァレットたちが上がったのなら、俺もお風呂に入らせてもらおうかな。
この世界に来てから、お風呂らしいお風呂には入ったことないし。
「では、入らせてもらおうと思います。案内してくれますか?」
「かしこまりました。手ぶらで構いませんので、こちらへ」
メイドの案内に従って歩いていくと、アーラィと合流した。
彼の前にもメイドが一人いるので、目的地は一緒だろう。
ここで、俺がアーラィをこの場所に連れてきた、彼には隠してある理由を思い出した。
アーラィには聞こえない小声で、先導してくれているメイドに声をかける。
「ちょっといいでしょうか?」
アーラィにいい夢を見せてあげて欲しいので、その相手を宛がって欲しいと伝える。
すると、分かってますという頷きが帰ってきた。
どうやら、俺が提案するまでもなく、そのつもりだったようだ。
なら安心だ――って、ぜんぜん安心じゃない!
アーラィに対してそうするつもりってことは、俺に対しても同じってことだろう?!
急にお風呂に行きたくなくなった。
けれど、俺が拒否を口に出す前に、もう到着してしまっていた。
「こちらが湯あみの部屋です。中で服をお脱ぎになり、そのまま奥へお進みください」
ここまできては逃げられないと、俺はアーラィと共に中に入る。
中にはまた別のメイドが居た。
俺たちが脱いだ服を回収するためだろう。
けど、俺にはステータス画面があるので、脱いだ服はアイテム欄に入れることにしようっと。
それで服を脱ぎ始めたのだけど、メイドがじっとこっちを見ていて脱ぎにくい。
アーラィも同じようで、俺の後ろに隠れるようにして、こっそりと脱いでいる。
でも、最終的には脱いだローブをそのメイドに渡すので、裸を見られるのは避けられないと思うんだけどなぁ。
まあいいかと、俺は服をアイテム欄に入れて、先に奥に進む。
俺から服を受け取ろうとしたメイドは、伸ばしかけた手をさ迷わせた後で、アーラィに伸ばしなおした。
「お服の洗濯をいたしますので、お預かりしますね」
「えっ、あ……」
アーラィが咄嗟に脱いだ服で体を隠そうするが、メイドはその前にさっと取り上げてしまう。
体を隠す布を取られて、アーラィは四つの腕で体を隠した。
二つが股間を、一つがお尻の間を、最後の腕はなぜかお腹周りを隠している。
その恥ずかしがっている姿が微笑ましいらしく、メイドの顔がほころぶ。
逆にアーラィは、笑われたと思ったのか、一層赤面して固まる。
このままだと動きそうもないので、俺は引き返してアーラィの背を押し、奥へと向かった。
「ここは湯あみする場所なんですから、恥ずかしがる必要はないんですよ。女性に見られたとしても、どうどうとしていていいのです」
「それは、そうだとは思うのですけど……」
思春期の青年には難しいかと思っていると、急に空気に湿気が感じられた。
顔を先に向けると、胸元と腰元に手ぬぐいっぽい布を巻きつけただけの女性が二人、木製の扉を開いて待っていた。
片方は少し若めのうさ耳で、他方は胸の大きな牛角と耳が頭にある。
「この中にどうぞ」
うさ耳女性に案内されて入ると、そこはサウナだった。
焼けた石が入った竈や部屋内の湿度がすごいことから、元の世界で見たサウナとは少し違っているな。
俺とアーラィが珍しそうに中を観察していると、扉を開けていた女性たちが中に入ってきて、扉を閉めた。
そしてこちらに笑顔を向けてきた。
「お連れ様たちと同じように、お二人とも湯あみは初めてのご様子ですね」
うさ耳女性の言葉に、俺は頷く。
「はい。前に来たときは、このような部屋はなかったと思うのですが?」
「町の中に共同の湯あみ場がございまして、今まではそちらを使っておりました。この部屋は里長さまが、体調が回復された後に、必要だからと作られました」
「愛しい人との再会するときに、より美しくいたいと願ってのことです」
その人が誰を指すのかを察して、つい頬が引きつりそうになる。
言及は避けて、サウナを楽しむことにしようっと。
「えーっと、この湯あみ場は初めてですので、手ほどきをお願いしてもいいですか?」
「はい、もちろんですとも。体をピカピカに磨き上げて御覧に入れます」
「そちらのボクは、わたしがしてあげるからね」
「え、あ、はい。よろしく、お願いします……」
牛角女性に微笑みかけられて、アーラィは顔を真っ赤にしてうつむく。
恥ずかしがっているだけかと思えば、相手の豊かな胸をチラチラ見ているな。そして、股間を押さえている手に力が入っているようにも見える。
うんうん、健全な男子だと安心するなぁ。
うさ耳女性に目もくれないあたり、少し年上の女性が好きなのかもしれない。
ほっこりとした気分になりつつ、俺に応対してくれる女性に導かれて、段になった棚のような場所に腰掛ける。
程なくしてアーラィも、俺の隣に座った。
「では、少し熱くしていきますね」
うさ耳女性が、壺にある水を柄杓ですくい、竈の中で赤くなっている石にかけた。
炭酸が抜けるような、しゅわっと音がした。
続いて、猛烈な熱さの湿気がこっちにくる。
俺はトランジェの肉体のお陰で、薄っすらと汗をかくぐらいで済んだ。
けれど、アーラィは一気に体が赤くなり、汗が各所から吹き出ている。
女性二人も、全身にしっとりと汗をかき、薄明りが照り返ってなまめかしく見える。
「こちらのボクには少し熱かったかしら」
「逆に神遣いさまには不十分だったみたいですね。神遣いさま、上の段に上がってもらえますか?」
段を移動すると、熱さが上がった気がした。
そういえば、熱気は上に、冷気は下にいく特性があるんだったっけ。
考えをしている間に、こちらの体も汗を噴き始めた。
やがて、髪から汗が滴り落ちるぐらいになると、うさ耳女性が近寄ってきた。
「ではまず、垢こすりから参りますねー」
ニコニコと笑いながら、俺の体を強めに撫でさすっていく。
素手かと思いきや、少しザラザラとしているので、砂か塩でも手に握っていたらしい。
フロイドワールド・オンラインから転移した体なので、垢が出るのかちょっと不安に思っていたが、ちゃんと出てきた。
でも、本当に少しだけだ。
「神遣い様だけあって、身綺麗ですね。ほとんど垢が出ませんね」
うさ耳女性は少し残念そうに言って、こりたの腕から胸に、胸から腹に、腹が終われば背に、垢こすりする手を移動させていく。
マッサージ効果もあるようで、体の血流が良くなって、コリがほぐれてきた気がする。
視線を牛角女性に向けると、アーラィの体を熱心に手で擦っていた。
成長期だけあって新陳代謝が活発なのか、かなりの垢がとれているように見える。手が四本あるから、そのせいかもしれないか。
そうやって観察していると、アーラィが股間を押さえて隠そうとするたびに、牛角女性がやんわりと制して隠させないようにしていることに気付く。
「垢こすりをする邪魔になるから、ねっ?」
優しげながら、有無を言わさない響きの声に、アーラィは従ったようだ。
その様子を楽しく見ていると、うさ耳女性の手が俺の足に伸びてきた。
「あのぉ、これは垢こすりとは呼べないのでは?」
「ふふっ。少しぐらい役得があっても、いいとは思いませんか?」
そういうことならと黙っていると、下段にいるアーラィから短い悲鳴のようなものが聞こえたが、俺は感知しないことにした。きっといい夢が見られるだろう。
なんて思っていると、うさ耳女性の手が俺の足の付け根に。
「安心してください、ちゃんと綺麗にするだけですから。垢こすりが終わったら、次は香油を体に塗っていきますよー」
うさ耳女性の手が動きだし、丁寧な指使いで洗われていく。アーラィの方とは違い、本当に垢こすりだけをしてくれる。
そうして垢こすりが終わると、ぬるま湯で全身を洗い落とされた後で、香油が全身にまんべんなく塗られていく。
塗り残しがないよう、丁寧に執拗に。
それが終わって、ようやく湯あみは終了となった。
「またのおこしを、お待ちしておりますね」
うさ耳女性の微笑みと言葉に見送られ、部屋を案内してくれたメイドの人に連れられて、部屋に戻ることになった。
こうして身綺麗にされた理由は、たぶん近い未来に分かるんだろうけど、あえて考えないことにしたのだった。




