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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
159/225

百六十話 久々に来ましたジャッコウの里に

 十数日かけて、ジャッコウの里に街道を使って入る関門である、砦にやってきた。

 ここまでの道中で、各地に戦乱の気配が満ちている状況を見てきたのだけど、それはまず置いておくとしよう。

 気にするべきは、目の前の砦に人の気配がないことだ。

 それどころか、ジャッコウの里に続く門が、開け放たれている。


「エヴァレット。この砦には、常に人がいるんでしたよね?」

「はい。この場所に迷い込んだ人を追い返すべく、常に見張りがいるはずなのですが……」


 不思議に思いながら、開いている門から中に入る。

 誰かに攻め落とされたのかと考えたけど、争った形跡や、略奪のあった痕跡はまったくない。

 警備する兵たちが、自分から門を開け放って、自ら出て行ったのかな?

 状況が分からないので、とりあえず開けっ放しの門は、閉じておくことにした。

 ジャッコウの里の人が外に出ている可能性もあるので、閂はかけずに押せば開くようにする。

 これで一見するだけなら、砦が閉じているように見えるだろう。

 砦の中を通り、山に作られたトンネルを通る。

 やがて、ジャッコウの里がある、クレーター状の地形の中に出た。

 遠目で見る限りでは、ジャッコウの里の建物は壊されていないし、周囲の畑には収穫を待つ作物があり、とても平和な感じだ。


「砦は、もぬけの殻だったんですけど……」

「里はのどかな風景のままですね」


 俺とエヴァレットが言った後、馬車にいる全員がそろって、理屈に合わないと首を傾げる。

 砦に人がいないということは、何らかの事態があったはずだ。

 なのに里に変化はなさそう。

 そのちぐはぐさ加減が、どうも不思議で仕方がない。


「とりあえず、里の中心部へ向かいましょう。その道中で、何かがわかるかもしれませんしね」


 馬車を進ませ、街道沿いに移動する。

 一時間二時間と走らせてみたものの、特に変わったものは見当たらない。

 ちょうど休憩時間なのか、畑にも人が居なくて、誰かに尋ねるという事も出来ていない。

 何事もなく中心地に着きそうだなって思っていたとき、ちょうど家から出てきた女性を見かけた。

 獣人らしい特徴がある見た目なので、ジャッコウの里の住民であることは確定だろう。


「すみません! ちょっとお尋ねしてもいいですか!?」


 大声で呼びかけると、その女性はこちらを見て、朗らかな笑顔を浮かべて近づいてきた。


「はい、なんでしょうか? その姿からすると、神官さまのようですけど?」


 おっとりとした口調の彼女に、俺は砦のことを伝えて、事情を尋ねた。


「ああー、あの砦のことですか。なんでも、偉い人から帰還命令というものが出されて、兵士の人たちは帰っていったみたいですよ」

「帰っていったって、砦に誰も残らなかったのですか?」

「はい。この里を守る価値がなくなったからと、全員が引き上げたそうですよ」

「そうなんですか。教えてくださって、ありがとうございました」

「いえいえー」


 おっとり口調の女性は、一礼すると近くの麦畑へ入っていった。

 俺は馬車を再び走らせつつ、里の中心に行くまでの暇つぶしに、荷台にいるみんなに意見を募ることにした。


「さっきの話、どう思いました?」


 全員が少し考え、最初にアフルンが手をあげた。


「本当に、この里に価値がなくなったんだと思うわぁ。ここは媚薬だけが特産って話だし、他の場所でよりいい媚薬が作れるようになったんじゃないかしらぁ」

「媚薬作りが得意な神が復活し、ある村がその神を崇めるようになったと考えれば、筋は通りますね」


 俺が理解を示すと、アーラィがおずおずと手を一つ上げる。


「あのぉ、兵力を集めるためじゃないかなって、思います」

「どうしてそう思ったのですか?」

「各地で戦乱が起きそうになって、旧来の聖大神の勢力が、砦の兵士たちを引き上げさせたんじゃないかなって。別の神を崇めているマニワエドさんが、遠征軍を握ってますから。対抗するために、少しでも国軍の人数を増やしたいんじゃないかなって」


 ふむふむ、それもあり得る考えだな。

 国軍は真・聖大神の一派との戦闘に入っているから、少しでも手勢を多く確保しておきたいのは、理解できる話だ。

 他に意見がないかと目を向けると、ピンスレットが元気に発言する。


「きっと、この場所を占拠したいって人が、裏から軍務に手を回して兵士を引き上げさせたんだと思います! それでその人が里を支配して、媚薬を独り占めする気なんですよ! そして愛しい人に使って、自分一人だけを愛するように仕向けるに違いありません!」

「……ピンスレットは、想像力が豊かですね」


 多分に彼女の願望が含まれていそうな意見に、俺はそう返すだけで精一杯だった。

 このどれかが当たっているのか、それとも全て外れているのか。

 ジャッコウの里の里長であるキルティなら、きっと知っているだろうと、馬車を少し早めて中心部に急ぐことにしたのだった。




 中心部にやってきても、人々の様子はのどかなままだった。

 働く人はのんびりと働き、休む人は道路脇のベンチで日向ぼっこをしている。

 世界が戦乱に向かっているというのに、この里の中は平和そのものといった感じだ。

 住民の中には、俺の顔を覚えていてくれた人もいるようで、にっこりと手を振ってくれることもある。

 俺は会釈で挨拶を返しつつ、馬車を前に進ませていく。

 やがて中心の湖近くに到着し、縁にある道に沿って移動する。

 程なくして、キルティの屋敷に到着した。

 閉ざされた門の前で、中に声をかけようとして、その前にメイド服の人が屋敷から数人でてきて門を開けてくれた。


「お久しぶりです、トランジェさま。キルティさまが、中で首を長くしてお待ちです」


 どうやら、俺がこの里に来た知らせは、とっくに届いていたらしい。

 ま、ことさら身を隠して進んできたわけじゃないから、キルティが知っていても変ではないけどね。

 メイドの一人に馬車の手綱を渡して、俺はエヴァレットたちとともに、屋敷の中へと入る。

 廊下を進んでいると、前より掃除が行き届いているなと、内装を見て思った。

 きっと、キルティの体調が万全になって看病する必要がなくなって、メイドの人たちが本来の働きにまい進できるようになったためだろうな。

 そんなことを思いながら、キルティの執務室の前まできた。

 メイドの人が扉をノックして、中に声をかける。


「トランジェさまと、そのお供の方がお着きです」

「入ってもらって」


 久しぶりに聞くキルティの声に、懐かしさを覚えた。

 その端的な了承の言葉を受け、メイドが執務室の扉を開ける。

 湖面が見えるガラス窓をバックに、執務机についているキルティの姿が見え――ん?

 なにか変だと思いながらも、執務室の中に足を踏み入れる。

 俺の姿を見るため書類から視線を上げた顔は、間違いなくキルティのものだった。


「お久しぶり。待っていたよ、ボクの愛しい神遣いさま~」

 

 席を立ち、こちらににこやかに歩み寄って、抱き着こうとしてくる。

 その姿を見て、違和感が何だったか理解した。

 以前と違い、キルティの胸が明らかなほど豊かになっているんだ。

 現に、俺に抱き着いたときに、柔らかなものが押し潰れる感触が伝わってきたしね!

 キルティの柔らかさと匂いに、性欲が刺激されるが、努めて浮かべたうさんくさい笑顔で覆い隠す。


「お久しぶりです、キルティ。どうやら、とても健康そうですね」

「あ、分かっちゃう~? ふふ~ん、どうよ、この胸とお尻。煙止めてから食事が美味しくてバクバク食べてたら、一部の発育が良くなっちゃってさー」


 にやにやと笑いながら、キルティは自分の胸を腕で寄せて上げつつ、くびれた腰元を曲げてポーズを取った。

 正直、服の上からでも眼福ですと、言いそうになる。

 けど、俺もこの世界に来てから十二分に女性の経験を積んできたので、そこまでがっつく心地にまでは至らない。


「健康的でとてもいいと思いますよ。そうそう、こちらの同行者の紹介をしますね」

「うわ~、前より一層手強くなったよ……。それでそれで、そちらの人たちが、神遣いトランジェさまの従者の人たちなのかな?」


 途中でコロッと態度を変えて、興味深そうな視線を、ピンスレット、アフルン、アーラィに向ける。


「順に説明しますね。こちらがピンスレット。私に仕えることを生きがいにしている、少し変わった子です」

「はい、ピンスレットです! ご主人さまの好きな気持ちは、誰にも負けません!」

「次に、アフルンです。この子は、ジャッコウの民のように、少し変わった体臭を放つことができる子です」

「トランジェさま。そこは香りと言って欲しいわぁ。体臭だと、臭いみたいで嫌だわぁ」

「あははっ。えっと、最後に。彼がアーラィ。見ての通り、腕が四本ある男の子です。見た目は少し変わってますが、とてもいい子ですよ」

「は、初めまして、アーラィです!」


 紹介した三人を、キルティはもう一度眺め、にっこりとほほ笑む。


「始めまして、お三人さん。ボクがこのジャッコウの里の里長をやらせてもらっている、キルティだよ。こう見えて偉いから、崇め奉るようにー」


 エッヘンと胸を張っての自己紹介に、エヴァレットがキルティの後ろ頭を平手でたたいた。


「あたっ!? もう、なにするのさあー」

「この人はすぐ調子に乗る子猫です。なので、ほどいい冷たい態度で相手をするように。あまり丁寧に扱うと、際限なく図に乗ってしまう」


 エヴァレットの言葉に、ピンスレットたちはなるほどと頷く。

 そのことに、キルティは不満そうだ。


「もう、最初ぐらいは偉そうにしたっていいじゃんかー。トランジェさまー、エヴァレットったら酷いんだよ、なぐさめてー」

「はいはい、前にも増して甘えん坊になりましたねー」


 少し棒読みで相手をしてあげると、キルティは満足そうな顔になって離れた。


「よっし、元気でた。それじゃあ、トランジェさまたちの歓迎会をしないとね。みんな、準備よろしくー」

「「「はい、すぐにご用意いたします」」」


 キルティに命じられて、部屋の中にいたメイドの人たちがさっと出ていく。

 一人だけ残ったメイドが、俺たちを部屋にある椅子に案内してくれ、お茶とお菓子を出してくれた。

 キルティも空いた椅子に座り、行儀悪くお菓子とお茶を飲みながら宣言する。


「じゃあ、準備が終わるまで、お互いに近況報告しあっちゃおうー。なんか、トランジェさまが各地で大暴れしているって噂があるんだけど。それが、本当かどうか知りないなー」


 にこにこと笑いながら求められたので、お土産代わりにここまでの俺の主な活動を、話してあげることにしたのだった。


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