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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
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百五十四話 生きているだけで、もうけもの

 ハルフッドたち真・聖大神の信徒相手に偽装死を行い、村の帰路について十日ほど経った。

 道中で行商の馬車に乗せてもらったりしたので、当初の予定よりも随分早くに村に戻れたな。

 村の中に入り、実りに実った畑を横目に、皆がいるであろう家に向かって歩いていく。

 途中で、鎮痛な面持ちの村人に出くわした。


「こんにちは、どうなさいましたか?」

「え、はい、こんにち――」


 声をかけると、村人が固まってしまった。

 どうしたのだろうと、首をかしげて反応を待つ。

 少しして、その村人は復帰するや、急に俺の全身に視線を巡らしてきた。

 無遠慮に見るなんて失礼だなと思いながら、もう一度声をかける。


「あの、どうかしたのですか?」

「い、いえ! その、あの、失礼します!!」


 村人は大慌てで、近くにある家屋へと走っていく。

 変な態度だなって首を傾げてから、俺はまた歩き出す。

 けど、道々で出くわした他の村人たちも、似たような反応を返してくる。

 畑仕事をしていた人は、信じられないという目で俺を見る。井戸端会議をしていた女性たちは、お喋りを止めてまで、こちらを指さしてくる。

 一体、なんなのだろうと、薄気味悪くなった。

 けど、その気味悪さから逃げるために走ってしまったら、なにか負けたような気分になるな。

 なので俺は、堂々とした態度で、村の中を歩いていく。

 程なくして、自由神信徒たちが集まる、この村の拠点についた。

 さて中に入ろう――として、馬車置き場の方が騒がしいことに気づく。

 なにかしているのなら手伝おうかなって、そっちに回ってみることにした。

 見てみると、どこかに行く気なのか、馬車に物資を運ぶ人の姿があった。

 陣頭指揮を執っているのは、珍しいことにピンスレットだ。

 どこかへ交渉に赴くならバークリステが、諜報に行くならエヴァレットやスカリシアが適任だ。

 そしてピンスレットは戦闘向きなので、どこかに戦いに行くのだろうか?

 戦いになるような話は、ここまでの道中で耳にしてないけどなぁ?

 なにか、俺が知らないことでも起こったのだろうかと、ピンスレットに近づき肩に手を乗せた。


「ピンスレット、どうしたんです――」


 声をかけるやいなや、思いっきり手で払われた。

 驚いていると、ピンスレットが親の仇のように睨んでくる。


「ご主人さまへの恩を忘れた、貴女たちのような腰抜けとは袂を分かつと――」


 ピンスレットは語気荒く吠えかけ、俺の顔を見て、発言どころか動きも停止した。

 またこの反応かと苦笑していると、ピンスレットがノロノロと動き出す。

 こちらの手を取ってきたので、なにをする気かなと放ってみると、俺の手の平が彼女の頭に乗せられた。

 撫でろってことかなと、いつものように撫でさすってやる。

 すると、ピンスレットの顔がくしゃっと歪んだ。


「ふええええええー。ご主人さま、ご主人さまー!」


 泣きながら、俺の胸に飛び込んできた。

 なんで泣かれているのかわからずに、とりあえず頭を撫で続ける。


「どうしたんですか、ピンスレット。そんなに悲しいことがあったのですか?」

「そうじゃないんです~。ただ、ご主人さまが死んだって、そんな話を聞いて~」


 ぐすぐすと泣きながらの返答に、村人たちの反応に合点がいった。

 そりゃそうだ。死んだと噂になった人物が、当たり前のように村の中を歩いていたら、ギョッとするよな。

 真・聖大神の町の出入り口が崩さて、外との交流が絶たれていた。なので、もうちょっとはあの噂が流れるまで時間があると、思っていたんだけどなぁ。

 それにしても噂だけでここまでピンスレットに泣かれるなら、道中の村か町から、無事だって伝える文の一つでも出してやればよかったな。

 悪いことをしたなと、彼女の撫でていると、家の中からバタバタとした足音が聞こえてきた。

 顔を勝手口に向けると、武器を手にした自由神の信徒たち全員が、外に出てきた。

 そして、ピンスレットに抱き着かれている俺に切っ先を向けようとして、あんぐりと大口を開ける。

 驚かれているなと思いながら、俺はうさんくさい笑みを浮かべた。


「ただいま、みんな。それで、どこに攻め入る気なんですか?」


 おどけて言うと、急にやっぱりと納得した表情になって武器を下してくれたのだった。





 家の中に入った俺は、信者全員から問い詰められていた。

 特に、ピンスレットとエヴァレットから、強く詰問された。


「ご主人さまが生きていたことは嬉しいのですが、事の次第を教えてください!」

「そうです! トランジェさまらしき人が、あの町で死んだというのはどういうことなのですか!」


 二人の猛攻からの助けを求めて、比較的興奮していない様子である、スカリシアとバークリステに向ける。

 けど、にっこりと笑い返されるだけで、助けてくれる様子はない。

 なんでそんなに怒られているのかよくわからず、とりあえずあの町であったことを伝えた。

 当初は、俺を殺そうとしたハルフッドたちに、皆は怒っていた。

 けど、俺が死を偽装しようとした辺りで流れが変わり、見事死亡の偽装を果たした頃に話が及ぶと、露骨なまでに仕方がないと言いたげな態度になる。


「やはり、トランジェさまはトランジェさまですね」 

「生きておられると固く信じていましたが、まさか死を偽装する方法を持っているなんて」


 エヴァレととスカリシアがため息を吐く。

 続けて、バークリステとアフルンが発言する。


「ご自身の死すら、手段の一つにするなんて。普通の考えを持つわたくしたちでは、予想もできませんよ」

「ピンスレットったら、噂を真に受けて、復讐するんだって言ってきかなかったのよぉ?」

「そ、それはその、ご主人さまがいなくなったと思ったら、居ても立ってもいられず……」


 アフルンの苦言に、ピンスレットは真っ赤な顔で俯いてしまう。

 彼女の性格を考えると、俺の生存を信じ切れなかったことを恥じているんだろうな。

 気にするなと、俺はピンスレットの頭を撫でる。

 なにせ、俺を信奉するピンスレットが信じるぐらいに、俺の演技は他に疑われていなかったということの証明だからな。

 そうやって慰めていると、エヴァレットから質問が飛んできた。


「それで、トランジェさま。どうして、ご自身の死を偽装するような真似をしたのですか?」


 周囲を見ると、他の人たちも知りたがっている様子だ。


「ちゃんと目的があったのですよ――」


 と言葉を始めて、真・聖大神教団を陥れる仕組みを語る。

 その説明に、あの倉庫から回収した、乾燥した葉が詰まった箱も、呼び出したステータス画面のアイテム欄から出現させた。

 それを聞いて見て、皆は納得したようだ。

 しかし、バークリステだけが難しい顔をしていた。

 俺自身では完璧だと思う作戦だったのだけど、賢い彼女にはそう思えなかったのだろうか?


「なにか懸念でもあるのですか?」


 少し心配になってそう尋ねると、バークリステは首を横に振った。


「いえ、懸念とは少し違います。トランジェさまは、ご自身の影響力を過小評価されているのだなと、思ったのです」

「そう思いましたか?」


 自覚がないので問い返すと、力強く頷かれた。


「はい。トランジェさまは、ご自身が誰かに殺された場合、主に旧来の聖大神教徒たちにのみ影響があるように語りました」


 思い返してみると、確かにその通りなので頷いて、話を進めてもらう。


「しかしそれは誤りです。トランジェさまは、多くの異なる神の復活を果たされた立役者。貴方さまが死ぬと、神の復活を恩に感じる勢力が、一斉蜂起するはずなのです」

「……少し、大袈裟じゃありませんか?」


 バークリステは過程をいくつか飛ばす悪癖があるが、それを差し引いても、ありえないだろうと思った。

 けどそれは俺だけだったようで、周囲のみんなは納得するように頷いている。

 俺が信じがたく思っていると、バークリステは例を出してくれた。


「遠征軍のマニワエドとその一族は、長年の悲願であった航迅の神の復活を、トランジェさまに成し遂げてもらいました」

「それは確かにその通りです」

「悲願は長年蓄積された分量だけ、叶えた人への恩に、変換される特性があります。さて、マニワエドの一族は何年悲願を蓄積したのでしょう?」


 神の大戦が起きて以降だから、おおよそ何百年という単位だろうな。

 つまりその年月の分だけ、俺に対して恩に感じてくれているということか。

 そういう事情なら、どうにか納得できるな。

 しかし、バークリステの説明は続く。


「加えて遠征軍の多くの兵士は、わたくしたちに助けられた人が多いです。トランジェさまをわたくしの配下だったと認識している人が多いでしょうけれど、治療してくれた恩を返したいと思う人は一定数いることでしょう」

「となると、私の弔い合戦に遠征軍が動くと?」

「その可能性は極めて高いかと。それと、エセがとれた邪神教の教祖たちも、復讐に動くと思います」

「うーん。そうは思えないのですが?」


 なにせ邪神教の教祖たちと俺は、利用し利用されるだけの関係だ。

 俺が死亡しようと、関係なく布教活動を行うと思うけどなぁ。

 ここでもまた、バークリステは首を横に振る。


「トランジェさまを殺すことが正しいことだと、真の聖大神の信徒たちは喧伝しています。正義は我にありと」


 正義という言葉を持ち出されれば、なんとなく続く言葉が予想がついた。


「邪神教にとって、正義は倒すべき敵でしたね。その上、立役者の一人が殺されたとあれば、大義名分が立ちますね」

「はい。彼らはトランジェさまの死を利用し、勢力拡大に動き出すことでしょう」


 復讐だという名分で真・聖大神と戦争をして勝つことで、その教団の力を周囲に見せつけることでだな。

 ちゃんとした邪神教らしい、悪どい方法での拡大の仕方だな。

 そう感じ入っていて、ふと疑問がわいた。

 当初の予定では、真・聖大神教から噂が流れたら、俺が生きている情報を流して、ハルフッドの信憑性を失墜させるつもりだった。

 けど、バークリステが語った通りなら、俺が生きている情報を流したら、蜂起しようとする人たちに水を差すことになりかねない。


「もしかして、世間的に私が死んだままの方が、方々にとって都合がいいのでしょうか?」


 考えもしなかった事態に、俺はバークリステに質問した。


「トランジェさまが生きているという真実を流しても、復讐だと動き出した人の行動は止められません。彼らに必要なのは、真実ではなく、真なる聖大神を叩き潰す大義名分なのですから」

「となると、私が生きていると喧伝しても、意味は特にないないのですね?」

「いえ。真・聖大神教を追い詰める材料になりはします。トランジェさまが生きていることを認めれば、先に流した話が嘘になり、信用の失墜を招きます。認めなければ、大義名分が成立して、各方面から攻められる未来が待っています」


 その確定に近い未来を知って、俺はどうするべきか考える。

 死んだままにすると、各地にいる俺と接触した人が、不安に思うかもしれないよな。さっきのピンスレットみたいに。

 なら早いうちに、死亡説を打ち消す噂を流しておいた方がいいよな。

 どっちみち、真・聖大神教は終わりに近づくらしいしんだから、遠慮する必要もないし。

 

「私が生きているという噂を流しましょう。その後で、各地の状況を静観します」


 そう方針を伝えると、さっそくバークリステが中心になって手配してくれた。

 漏れ聞こえる内容から、どうやらクトルットを利用した奴隷商経由で、商人連中に噂が流れるようにしてくれるようだ。

 この世界では、各地の流通は行商人任せな部分があるので、あっという間に各地に話が伝わることだろう。

 さて、この一手でどう世界が動くだろうか。

 なんて思ってみたりするけど、もうすでに俺の予想の範疇を超えて、事態は動いているんだよね。

 あとは野となれ山となれ、なんて気持ちで村の復興を手伝って、各方面が動き出すまでの暇をつぶすとしようかなっと。


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