百五十二話 倉庫にお邪魔してみました
杖で殴って気絶させた門番の一人を、俺は拘束した後で揺すり起こす。
「うぅ……はっ!? お、お前は!?」
「はい、おはようございます。貴方に色々と聞きたいことがあるんですよ」
起きた門番に微笑みかけると、ものすごく警戒する顔を向けられた。
「お、おれはなにも喋らんぞ。お、お前が、教祖さまが言っていた、この世界に混沌をもたらす、悪しきものなんだろ! そんな奴に加担したら、おれも悪に認定されてしまう!!」
おっしゃる通りですと頷きかけて、俺は小首を傾げた。
なぜかというと、この町の人は怪しげな草を利用した洗脳で意識が希薄な様子だったのに、この門番にはその兆候が見えなかったからだ。
「貴方は、あのエルフ教祖から草を貰っていないのですか?」
「ふ、ふん。答える気はない!」
俺のことを恐ろしく思ってそうなのに、気丈な態度で口を噤む。
そういうことならと、フロイドワールド・オンラインにいる審判の神の、とある秘術を使ってみることにした。
「自由の神の仲介を経て、審判の神よ。質疑応答に非協力な我が前にいる者の口を、自動的かつ正直に開かせたまえ」
俺は『誠答』の魔法――問いかけられたことに本当のことをしゃべってしまう、そんな魔法を門番にかけた。
そのあとで、再度質問をする。
「貴方は、教祖に渡されて町民が使う草を、使っていないのですか?」
「門番は特別だからと、別の草を渡されているのだ――な、なぜ、口が勝手に!?」
驚愕顔をする門番には悪いけど、この際だから色々と聞いてしまおう。
「あの教祖は、前はどんな身分だったか知っていますか?」
「知っているとも。旧来の神の教会に住んでいた人だ。神官の所有物だという噂だった――くそっ、この口め。閉じろ」
「口を手で塞いだところで無駄ですよ。その教祖の教えに、変だとおもう部分はなかったのですか?」
「疑うわけがないし、正しいことを行うことの何が変だというのだ――な、なぜ手を口から放してしまうんだ?!」
「では次です。町民に配る怪しげな草が保管されている場所を、貴方は知っていますか?」
「知っているとも。その建物の警備する仕事が、定期的に回ってくるからな」
「では、その場所を教えてください」
「分かった。場所は――」
門番は目を恐怖の色に染めながら、俺の質問に全て答えてくれた。
怪しげな草の在処も分かったので、門番をもう一度昏倒させてから、確保に向かうことにしよう。
フロイドワールド・オンラインには麻薬の類はなかった。なので、その草はこの世界独自の植物だ。なにかに利用できるかもしれないしね。
教わった建物に向かうと、先ほどの門番と同じような格好をした人が五人、赤レンガ倉庫みたいな場所の出入り口を固めている。
周囲に耳を澄ませると、俺が呼び出したレッサースケルトンたちと町民たちが戦う音が、少し遠くに聞こえるだけだ。
他の住民が近くにいる様子はないな。
それならと、真正面から近づくことにした。
「こんにちは。その建物の中に用があるんですけど、通してもらえますか?」
路上に姿を晒して、気安い足取りで警備に近づいていく。
彼らは俺の姿を見て、ぎょっとした顔になり、手にある槍を俺の方へ向けてくる。
「だ、誰だ、お前は!」
「そ、そんなことよりも、立ち去れ! ここは大事な物が保管されている場所だ! 近づくな!」
そんな説明だと、建物に近づけ、中に入れ、と言っているようなもんだよね?
いや。正しいことをすることを教えとする真・聖大神教だと、その説明で十分に足止めになるのかもしれないな。
けど、俺は自由神の神官なので、警告を無視するけどね。
先ほどの門番を相手にして、町民に毛が生えた程度の強さしかないのは、分かっているから気楽に戦えるしね。
さて――杖で殴って、あっという間に無力化しましたっと。
じゃあ、建物の中に入るとしよう。
建物内は一階部分が倉庫になっていて、二階部分が住居になっていた。
先に住居部分を探索して、人がいないことを確認して、一階に下りる。
倉庫はかなり広いように見えるが、立ち並んだ木箱が視界を圧迫してくるから、狭いように錯覚してしまう。
とりあえず、怪しげな草を探そうと、手近な木箱を開ける。
すると、油紙に包まれて保管されている、乾燥した草らしきものを見つけることができた。
紙を剥ぐと、水分を失った葉っぱがあり、その表面には白い結晶がいくつも浮いていた。
元の世界でテレビ画面越しに見た、怪しげな薬が振りかけてあるような見た目に、ギョッとして包みを戻す。
でも、とりあえず目的の物は見つけたので、入っていた箱ごとアイテム欄に押し入れた。
名称を確認すると、『エピマクリン草の詰まった箱』となっている。
エピマクリン草は、初めて見たこの世界特有の植物の名前だけど、ちゃんと名称が表示されている。
きっと、俺がこの世界にきて初めて滞在した村で手に入れた、薬師のレシピ手帳に名前が書かれてあったんだろうな。
偽装スキルに薬師を付け、調薬スキルで何ができるか確認してみた。
エピマクリン草の調合レシピが、ずらずらと出てくる。
その中には、怪しげな効果をうたう薬もあったけど、目に留まったのは催眠薬や麻酔だ。
エピマクリン草はなかなかに、優秀な調薬素材になるみたいだな。
一箱だけじゃ足りないだろうなと、別の箱を開けた。
するとその中も、エピマクリン草が詰まった箱だった。
幸運を神に感謝しながら、その箱も頂くことにした。
もうちょっと欲しいなと、三つ目の箱を開ける。これもまた、乾燥した草が詰まっている。
三回連続で当たりを引いたことで、俺は変だと気がついた。
ランダムに倉庫内の箱を開けていくと、倉庫の奥から三分の一までは道具や日用品が入っていたが、その他はほとんどエピマクリン草が詰まった箱だった。
おいおい、どれだけの量があるんだよ。
最近できたばかりの教団が、集められる量を超えているぞ。
そう考えて、きっと旧来の聖大神の教会関係者が、ここにためていたんだろうと予想がついた。
それを知っていたハルフッドが、自分の不況に利用したんだろうな。
まったく新旧の聖大神信者ってのは。
心の中で毒づきながら、俺は十箱ほど追加でアイテム欄に収めた。
さて、薬の材料としたらこれぐらいで十分だろう。
そう思って外に出ると、昏倒させた警備を介抱しようとしていた住民に出会ってしまったのだった。
時間が取れなかったので、デカイ男の方は今日もお休みします。
って、こっちに書いてもしょうがないかもしれませんね。




