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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
149/225

百五十話 エルフな教祖さまは、皆に慕われているみたいです

 エルフな教祖――ハルフッドに勧められて、俺はソファーに着席した。

 隣にバークリステが座り、残りの面々は背後に立つ。

 その様子を見て、ハルフッドが発言する。


「この場所では、種族や身分の差はありません。それで人の間に差をつけるのは悪いことですからね。なので、座ってもいいのですよ」


 どうやら彼は、俺とバークリステが後ろに控えたエヴァレットたちを虐げていると、勘違いしているらしい。

 誤解を解くために、俺は後ろにいる面々に振り替える。


「お言葉に甘えて、座ってもいいのですよ?」


 そう言うと、エヴァレットたちは首を横に振った。


「いえ、ここは初対面の相手の領域のただ中です。警戒は必要です」


 エヴァレットがそう理由を言うと、マッビシュー、マゥタクワ、ラットラも同意する。


「俺も黒い姉ちゃんの言う通りだと思うぜ」

「戦いになったら、守る。座っていたら、できない」

「あたしは座っていても対応できるけど、二人に付き合ってね」


 四人の意見に続いて、ピンスレットとリットフィリアが発言する。


「ご褒美以外のことで、ご主人さまと同じところに座るなんて、とてもできません」

「ピンスレットが立つなら、わたしも立つ。それが大姉さまのためになると思うから」


 二人は、俺とバークリステに奉仕する気で、立つことを選択したらしい。

 最後は、スカリシアだ。


「この場は、神官同士の場だと心得ております。なので、話に加われないわたくしなどは、立ったまま埒外であると示すことで、話が進むと思いますので」


 それぞれが語った意見を受け取り、俺はハルフッドに顔を向ける。


「という理由なそうなので、後ろにいる面々が立ったままなことを、ご了承ください」

「……わかりました。個人の主張を重んじることは、良いことですから。そして意思を曲げることは、悪いことですので」


 たぶん他意はないんだろうけど、後半部分は俺に対しての警告のように聞こえた。

 なんというか、エヴァレットたちの考えを俺が曲げていて、立たせているのは俺の意思であると、そう言いたいのかなと感じたのだ。

 ちょっと過剰反応かなと、とりあえず忘れることにした。

 それよりも、ここに来た用件を話さないといけない。


「今日こちらに来させていただいた理由は、事前に手紙でお伝えしてあると思いますが――」

「聞いております。我が真なる聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの教えを直に聞き、それを村にいる旧来の教徒の方々に伝えたいとのことですね」


 そうだと頷くと、首を傾げられた。


「貴方は別の神に仕える身でしたね。なのに、旧来の教徒を保護しているのですか? それは貴方の神に対する裏切りで、悪いことなのでは?」

「いえいえ、我が神は寛大なお方なのです。隣人が他の神を崇め奉ろうと、笑って許してくださいます。それどころか、その人の信仰を手助けすることすら、私に許してくれるのです」

「それは改宗という意味ではないのですよね?」

「もちろんですとも。その隣人が祭る神を、そのまま深く信じてもらう手伝いをするだけのことです」


 ハルフッドは信じられないという目をしかけ、いけないと首を横に振る。


「人の言うことを頭から疑うのは、悪いことです。ひとまず信じてあげることが、良い行いなのですから」


 彼は自分の不信を詫びるように祈ってから、会話を再開する。


「では、真なる聖大神の教義をお伝えいたしましょう」


 そこからハルフッドは、事細かに教義を教えてくれた。

 俺は最初はふんふんと聞いていたが、あまりの長さに途中から覚えることが面倒くさくなって、要点だけ掴むだけにした。

 ハルフッドがいろいろと語る教義には共通点があり、大まかにいってしまえば、人の内にある正しさを表に出せということだった。

 簡単に言うのが難しいが、共通認識上で人が思う良いことをして、悪いことはやらないって感じみたいだ。

 そんな教義に、俺は一つ質問を抱き、ハルフッドの話の切れ目に差し挟んだ。


「あの、自分が思う良いことを相手にしてあげても、相手は良いことと受け止めない場合があるのではありませんか?」

「たしかにたしかに、その通りです。ですが、我が神の教義には、こういうものもあります。『施しに、感謝や礼を求めるなかれ。下心ある行いは、すべて悪しき行為である』と」

「つまり、見返りは求めてはいけないと?」

「その通りです。施しを受けた人は他の者に施しを与え、その者はまた他者に施します。それが回りまわっていけば、この世は全て平和になるという教えです」


 元の世界風に言えば、情けは人のためならず、ってことを教義の一つにしているようだな。

 疑問は解消されたので、ハルフッドに他の教義を話してくれるよう身振りする。

 彼が再び語り始めるのを見ながら、真・聖大神教は、なんと素晴らしいのだろうと感じ入った。

 人の役に立つ行動を推奨するなんて素晴らしい、なんてことを言う気はない。

 というか、俺が注目したのはそこじゃないんだよね。

 さきほどハルフッドが語った、他者に感謝や礼を求めるなという部分に、とても魅力を感じたからだ。

 これ、表面上はすごくいいことを言っているように感じるよね。

 けど悪く考えれば、他者のことを考えずに自分が良いと思うことを押し付けろ、という意味に変えることだってできるんだよね。

 とまあ、そんな感じの言い換えを、ハルフッドが語ってくれている教義の多くが、実行可能になっているんだ。

 自分の心に従えという自由神よりも、正しさを標榜した凶行が発生する可能性が思い浮かぶんだよね

 良いことや正しいことだけを行う危うさが透けて見える感じで、ちょっと心が躍る。

 とりあえず、今は敵対する気はないので、ちょっかいを出さずにおこう。

 企ての青写真を心の中にしまった頃、ハルフッドの教義説明が終わった。


「――これが教義のすべてとなります。いかがでしたでしょうか?」

「はい。大変に有意義であったと思います。私は他の神に仕えている身なので、大手を振って賛成、とまではできませんけれど」


 玉虫色の返事を返しながら、視線をバークリステに向ける。

 ハルフッドの語った教義を暗記したかという問いかけなのだけど、万全だと言いたげな頷きが返ってきた。

 なら、もうこの町に用はない。

 正しさだけを信じるような、危ない人ばかりいる町に、これ以上滞在しても意味ないしね。


「それでは、この辺で私たちはお暇させていただきます。大変有意義な時間でした」


 そう言って立ち上がろうとすると、ハルフッドに制止された。


「少々待ってください。こちらも貴方に聞きたいことがあるのです」


 それは何だろうと腰を下ろしなおすと、ある要望が先にきた。


「質問をする前に、貴方の過去を私が覗く許可を頂きたい」


 そういえば、噂にそんなことができるってものがあったな。

 けど、嫌に決まっているだろ。

 なんて拒否することは簡単だけど、その前に俺のどんな過去を見たいかが気になった。


「すべての過去を明かすのは、とても抵抗があります。ですが、どの過去を見たいか教えてくださったのなら、許可を出してもいいと思います」

「……悪い行いをしていないのなら、恥ずべきことはないと思いますが?」

「私の神は大らかですからね。貴方たちが悪いとすることが、許容されることもあるのですよ」


 だから恥ずかしいのだと言えば、ハルフッドはどの過去を見たいか伝えてきた。


「少し前、聖都郊外の演習場にて、遠征軍が戦いの神の託宣を受けたそうです。そこには見慣れない格好の神官が、子供を連れてきていたそうです」


 彼の視線が動く先には、俺の後ろにいる子供たちがいる。

 なるほど、確かにその情報に、俺たちは当てはまる。

 というか、ここにウィッジダとアフルンはいないけど、俺は当事者なんだよね。

 いい勘をしているなって関心しながら、その疑問に答えてやる。


「はい、貴方の考えている通り、私がその場にいた神官ですよ」


 あっさり肯定してみせたが、驚かれたりはしなかった。


「やはりそうでしたか。ですが、過去を見るまで信じるわけにはいきません」

「……こちらが肯定しているのに、過去を見たいのですか?」

「もちろんです。貴方が嘘をついているかのうせいも、なくはないので」


 変なことを心配するなと、俺は許可を出すことにした。


「わかりました。あの演習があった当日の過去を、貴方に見せる許可を出しましょう」

「ありがたいことです。では早速、動かないでください」


 ハルフッドは呪文を唱え始めた。


「おお、真なる聖大神よ。我は求め訴える。目前に座りし者の過去を見ることを。時は、遠征軍に託宣が下りた日。相手の許可は頂いておりますれば、過去視の権能を我に与えたまえ」


 俺の足元に灰色にくすんで光る円が浮かび、光の粒子が飛び出てくる。

 粒子は俺の頭の周りを漂うと、ハルフッドへ飛んでいった。

 そして、彼の頭に入り込んだ。

 ハルフッドは粒子を受け入れると、ぼぅっとした顔をする。


「おおー、過去が、過去が見える……なるほど、事実であるようですね……」


 夢見心地な目が、段々と冴えてくる。

 ハルフッドの顔が普段のものに戻ると、こちらに頭を下げてきた。


「ありがとうございました。貴方のお陰なのですね」

「私のお陰とは?」


 何かをした覚えはないので首を傾げると、ハルフッドは立ち上がり、卓上にあるベルを手に取った。

 そして、乱暴に振り回し始めた。

 リンリンなる鈴の音に、扉の向こうがバタバタと慌ただしくなった。

 やがて、バンッと大きな音を立てて、扉が開かれる。

 その先には、鎧や剣をみにつけた人たちが立っていた。

 急な戦いの気配に、思わず腰を浮かせかけたが、あえて深く椅子に座りなおしてやった。


「これは、どういう真似なんでしょう? いきなり襲われる理由に、心当たりがないのですが?」


 余裕しゃくしゃくな態度で尋ねると、ハルフッドは語り始める。


「我が真の聖大神は、貴方が戦いの神を蘇らせたことが遠因となり生まれました。そう、裏で糸を引いていた善の神が離れることで、作り上げた当の神々ですら予想しない、偽神が真の神として覚醒を果たしたのです」


 話を聞くに、どうやら戦いの神――航迅の神を皮切りに、善の神が次々に復活したことで、うち捨てられてしまいかけた聖大神という架空の神に神格が宿ったようだ。

 驚くべきことだろうけど、元の世界のラノベによくあるんだよね。

 架空の神や機械仕掛けの神が、本当の神になっちゃうこととってさ。

 現実の異世界に起こっても、『ふーん、そうなのか』としか感じないなぁ。


「ふむふむ。話を聞くに、私は感謝されることはあれど、恨まれる筋はないように聞こえますよ」

「確かに、このことについてのみ、感謝はしたくおもいます。ですが、貴方を倒すのは恨みからではなく、世を正すためなのです!」

「私が倒されることで、この世界が正しい方向にいくのですか?」 

「もちろんですとも。貴方こそ、この世を混沌に導く悪しき神の使いであると、我が神は私に託宣をくださったのです!」

「ここまでの展開を考えると、その託宣というのは『遠征軍に戦いの神の加護を与えた人を殺せ』って感じですか?」


 一歩踏み込んで質問すると、ハルフッドはぎょっとした顔を返してきた。

 美形のエルフがやると、そんな顔でも様になるなぁ。


「も、もしや、我が頭の中を覗き見て――僧兵は直ちに、この者を拘束しなさい!」


 おや拘束だなんて、俺に裁判でも受けさせる気なのかな?

 もしそうだとしてら、悠長なことで。

 ならここは、ハルフッドが望んでいそうな悪党を演じてやるとしましょう。


「ふ、ふふふ、あーはははははっ! 生まれたばかりの神の下僕が、私の命を取ろうなど、片腹痛いわ!」


 俺は近づいてきた僧兵の腕を掴むと、トランジェの屈強な肉体任せに、部屋に押し入ろうとする他の僧兵へと投げつけた。

 もんどりうって、重なって倒れた彼らの上に、俺は移動して踏みつける。


「ぐぅあええええ――」


 うめき声をあげる僧兵らを踏みにじりながら、ハルフッドに顔を向ける。


「私たちはこれからこの町を出ることにします。追いかけてきたいのならご自由にどうぞ――と言いたいところでしたが、そういえば村の場所は知られてしまっているんでしたね」


 考えなしに意味深な言葉を発しながら、俺はエヴァレットたちに身振りで移動を促す。

 彼女たちが僧兵を踏みつけて部屋を脱出し終わってから、俺はいま思いついたかのような顔をする。


「そうだ。追いかけてこられないよう、全滅冴えておく方がいいですよね。うんうん。ではそうするとしましょう。いでよ『スケルトン』!」


 ショートカットのキーワードを唱えて、魔法を発動させる。

 足元に開いた黒く光る円から、レッサースケルトンが五体現れた。


「さあ、惨劇の始まりですよ。スケルトンたち、目につくものを破壊しろ!」


 無差別攻撃の指示をだして、俺はエヴァレットたちに合流する。

 すると、エヴァレットから質問が飛んできた。


「トランジェさま。どうこの町を滅ぼしましょう?」


 その言葉に、目をぱちぱちさせる。


「あの、先ほどのは冗談で、本当に滅ぼす気はないですが」


 言うと、全員から驚きの顔が返ってきた。

 まったく、皆は俺のことをどう思っているんだよ。

 俺はそれほど好戦的な性格じゃ――うん、ないとは言い切れないかもしれないなぁ……。

 なにはともあれ、俺がさっきあんなことをいったのは理由がある。


「ハルフッドたちの目的は、私だけのようですからね。ああやって私だけに敵愾心を集めておけば、エヴァレットたちは見逃してくれるはずです。少なくとも、この町を脱出するまではね」

「まさか、トランジェさま!?」

「はい。ここからは私一人だけで、この町で戦います。なので、皆は馬車に乗り、素早く村へ引き返してください」


 当然のように言うと、ピンスレットから待ったがかかった。


「ご主人さま、せめてわたしだけは同行を認めてほしいのですけど!」


 申し出はありがたいけど、首を横に振る。


「私を抜かした中で、ピンスレットが一番の実力者です。全員を無事に村に返し、私が戻るまで村の防衛に尽力してください。頼みます」

「……もう。ご主人さまに頼まれたら、断れないじゃないですかぁ」

「他のみんなも、私が帰るまで、村のことを頼みます。ここで私がビシッと釘を刺して、村に手出しをする気を起きなくさせます。ですが、エヴァレットはダークエルフだからと、スカリシアは同族の女性だからと、ハルフッドが追う可能性があるので気を付けるようにね」


 二人に言葉をかけ、戦闘役の子たちにも道中の無事をお願いしてから、彼女たちだけを馬車に乗せた。

 馬車が猛スピードで遠ざかるのを見送ってから、後ろに近づく足音に振り替える。

 さて、ここからは悪の神官ぽくふるまっていこう。

 戦闘に苦戦したらしいハルフッドと僧兵たちに、嘲笑を浴びせかける。


「ふふふ、あははは、はーっはっはー! どうやら、動く骨ぐらいは壊せるらしいな! 見事見事と、褒めてやろうではないか!」

「先の魔法で、貴方を悪であると再認識しました。そして貴方を倒すことが、良い行いであることも確信しました」

「そうかそうか。だが、その人数で私の相手は足りるのかな? 動く骨など、いくらでも補充できるぞ?」

「そうなのでしょうね。ですから、非常事態宣言を発令させていただきます」


 ハルフッドが身振りすると、教会の鐘が荒々しく鳴りだした。

 顔を上に向けると、鐘楼の中にいるひとが、気が狂ったかのように鐘につながる紐を引き戻ししている。

 あれに何の意味があるんだ折ると思っていると、バラバラとこちらに走ってくる音が聞こえた。

 不思議に思って周囲を見回せば、包丁やらハンマーやら、武器になりそうな日用品を持った人たちが、教会の周りに集まりつつあったのだった。


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[一言] 「そうだ。追いかけてこられないよう、全滅冴えておく方がいいですよね。 冴えて>させて
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