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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
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百四十九話 真・聖大神の教祖に会いに行きましょう

話が入れ替わっていました。

ご指摘いただいた皆様、申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました。

 真・聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの教祖と、何度か手紙のやり取りをして、こちらとの面会の約束をこぎつけた。

 村の修復も落ち着き、村人たちの宗教に対する考え方の矯正も大まかになし終えた。

 ちょうどいいタイミングだなと、馬車に乗って旅路に出た。

 俺に同行するのは、八人。

 耳の良さから索敵や諜報での活躍を見込んだ、エヴァレットとスカリシア。

 旧来の聖大神の教徒やしきたりに詳しく、真の方との違いを教えてもらうために、バークリステ。

 バークリステと離れたがらないため同行を許可した、リットフィリア。

 俺のいるところが居場所と主張した、ピンスレット。

 戦闘要員として、マッビシュー、マゥタクワ、ラットラを選んだ。

 このメンバーなら、話し合いから殺し合いに至るまで、どんな状況でも対応が可能だろう。

 その他の子たちは、村でお留守番。引き続き、村人たちの意識改革に取り組んでもらう。

 クトルットには、その子たちの目付け役になってもらった。もっとも、名目上そうしただけで、実質的には子供たちの世話役だ。本人は嬉々として受け入れたので、問題はないよね。

 さてさて、大して面白い出来事がなかった道中は、すっ飛ばすとしよう。

 真なる聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスを崇め掲げる町に、到着した。

 道中で聞いた話によると、周囲の村々から集められた年貢の一時保管場所として、大きくなった町なのだそうだ。

 そんな背景があるからか、この世界では珍しい、壁に囲まれた町だった。

 城塞化された町を拠点にするなんて、ここの教祖は上手いことやったな。

 関心しながらさらに町に近づくと、俺の勘ぐり過ぎだと気付いた。

 なにせ、壁のいたるところが崩れて補修中だし、出入り口を塞ぐ仕組みがどこにもない。

 役に立たない壁の姿から、長年に渡って襲撃者が来なかったんだろうなって感じる。

 なんというか、歴史資料や観光に使うために、壁を残している感じもあるんだよなぁ。

 そんなちょっと変な町に入り、中の様子を見ていく。

 石造りの建物。井戸端で話す女性たち。通路をかける子供の姿。

 この世界のちょっと大きな町なら、どこでも見れる光景が広がっている。

 でも、他の町とは少し違う部分があるようだ。


「今日は皆さんに、ご奉仕するぞ。いつもより二割引きで販売だ!」

「この果物は甘くて、食べると幸せな気持ちになれるよ。幸せな心で行動すれば、周囲の人と円満になれるよ!」

「まん丸のガラス玉はいらないか! 綺麗なものを見れば、綺麗な心が身につくってもんだ!」


 商売人がかける言葉の中に、気持ちや心を表す言葉が多い。

 そして、道の途中途中で、首に看板を下げて道を掃除する人がいる。


『私は 妹のお菓子を勝手に食べ ました』

『私は 身勝手な理由で女房を殴り ました』

『私は 夫がいるのに恋人を作り ました』


 上と下の言葉は看板にもともと書かれているしく、筆跡が同じだ。

 そして真ん中の言葉を、自分で書いているらしい。

 あれを首に下げて道掃除をするなんて、刑罰なのだろうか? それとも、罰ゲームなのだろうか?

 よくわからない光景に首を傾げていると、俺のゆっくり走る馬車に並走する子が現れた。


「なあ、お兄さん。あんた、旅の神官か!」

「そうですよ。それがどうかしましたか?」

「なら、いいものやるから受け取ってよ。一日一善しないと、親に怒られるんだ!」


 親に怒られちゃうののかって同情して、とりあえず受け取ることにした。

 

「わかりました、受け取ります」

「やった! これあげるね! じゃあね!」


 その子は御者台の上に、何かの紙を置いて去っていった。

 手を伸ばして拾い上げると、これまた珍しいことに、皮紙ではなかった。

 植物の葉を重ね織った紙で……パピルス! そう、博物館にあった、再現で作られたパピルスに似た感じの紙だ。

 その植物紙の上には、文字が書かれていた。

 なになに――『親の言うことをよく聞きましょう。正しいと思えば取り入れなさい。間違っていると思えば忘れなさい』。

 ……ふむ。どうやら、真・聖大神の教義の一部が書かれてあるらしい。

 視線を巡らすと、似たような紙を配る人が目についた。

 どうやら、チラシ配りで町人の教化を図っているらしい。

 効果があるのかなと首を傾げかけて、首に看板を下げた人をもう一人見つけた。


『私は 道に物を捨て ました』


 それを見て、道にゴミ箱は設置されていないことを確認する。

 なるほど、チラシを受け取ったら、家に持ち帰らないといけないわけだ。

 それなら、否が応でも内容が目に入るな。

 子供が俺にチラシを押し付けてきたのは、布教活動をする信者の真似で、家にあるいらないチラシが善行に使えると考えたからだろうな。

 なんて知恵が働く子だ。

 自由神の神官の立場から言わせてもらうと、将来が楽しみで仕方がない。

 益体もないことを考えながら馬車を進ませ、手紙で指定された建物までやってきた。

 旧来の聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス神官が作らせた、立派な教会がそこにあった。

 やっぱり、教祖や神官と会うのは、教会しゅうきょうしせつじゃないとだよな。





 事前に伝えてあった日時に教会にやってきたので、真・聖大神の教祖への連絡はスムーズに行われたようだ。


「確認が取れました。馬車は、こちらに入れることになっております」


 信者らしきローブ姿の男性の指示に従い、馬車を進ませた。

 駐車場らしき場所に止め、馬車に車輪止めを置いてから、エヴァレットたちを下していく。

 その最中、案内してくれた男性が、こちらをじっと見てくる。とりわけ女性陣の方をだ。

 彼女たちの美貌に見惚れた、という感じでもなさそうだ。


「なにか、気になるものでもありましたか? 馬車内には、旅に必要な最低限な物しか積んでいないはずですが?」


 とぼけて質問すると、男は首を横に振った。


「い、いえ。遠いところから来られたので、同行者の多くが女性だとは思わなかったものですから」

「女性だと、なにかまずいことでもあるのですか?」

「問題ありません! では、教祖さま――ハルフッドさまのお部屋に、案内いたします!」


 こちらの質問を断ち切るように言って、男は先に歩き出していく。

 失礼だなと思いながらも、追及されるとまずいことでも抱えているんだろうと考え直した。

 どうやら、正しい行いを標榜する裏で、何かをやってそうな気配に、ちょっとワクワクしてきた。

 俺はエヴァレットたちを引き連れて、男を追った。

 教会の中は広く、とても静謐な空気が流れている。

 そんな建物の奥まった場所まで、案内された。


「教祖さま。お客さまを、お連れいたしました」


 案内してくれた男が扉の向こうに声をかけると、返事が返ってきた。


「通達の通りですね。時間厳守、大いに良いことです。入ってきてください」


 ずいぶんと若く聞こえる声だった。

 これが教祖の声なのかと疑問を抱いているうちに、案内してくれた男が扉を開け、俺たちを中へと導く身振りをする。

 彼自身は、入らないらしい。

 それならと、俺が一番最初に中に入り、仲間たちも続く。

 全員が入り終わると、扉が閉められた。

 部屋の中には、フードをかぶって紙に何かを書く人と、俺たちだけになった。


「お待たせすることは、悪いことですね。一時中断としましょう」


 独り言なのか、それとも俺たちに知らせるために行っているのか、その人――ハルフッドという名前らしき教祖が、ペンを机に置いた。

 そして、フードを取り払う。

 その顔を見て、俺は少しの驚きと、深い納得を感じた。

 ハルフッドは、美女のように整った顔を持つ男性で、顔の横には『長い耳』がついている。

 そう、彼はエルフだ。

 噂によると、彼は奴隷だった。つまり奴隷のエルフであっということ。

 そして奴隷のエルフは、上流階級に報酬として支払われた、生きた財宝である。

 その報酬の仕組みは、きっと聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒上層も適用されていたに違いない。

 ハルフッドがそういった境遇のエルフであるなら、見た目通りの年齢というわけではないだろう。人の寿命より長く生きている可能性の方が高い。

 そして、執務能力の高いバークリステが感じ入るほど、部流の手紙の書き方がうまいことを考えると、彼は上層部の仕事を手伝ってきたのだろう。それも長年。

 そうなると、旧来の上層部の悪い部分を見てきたはずだ。

 なるほど道理で、奴隷出身のぽっと出の教祖が真・聖大神教を立ち上げたのに、旧来の聖大神教徒たちが糾弾する噂が聞こえてこないわけだ。

 下手に喧嘩を吹っかけて、過去の悪事を彼に喧伝されでもしたら、失墜しかかっている旧来の聖大神の立場がより悪化してしまうもんな。

 それいしても、まずいことになった。

 相手がエルフだとは、想定外にもほどがある。

 こうなると分かっていれば、手紙で「貴方はエルフですか?」って聞いたのに!

 そんな内心の葛藤を、うさんくさい笑みで覆い隠し、俺は右手を差し出す。


「面会の許可、ありがとうございます。自由の神に仕えさせていただいております、トランジェと申します」

「挨拶は人の関係を円滑にするいい行為です。お応えしましょう。真なる聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスに、教祖となるよう命を下され、教祖などという不相応な立場に座らせていただいている、ハルフッドと申します。種族はこの耳を見てわかる通り、エルフです。もっとも、貴方の同行者にも同族がいるので、ことさらに言わなくても良かったのかもしれませんね」


 ずいぶんと長々とした言葉の後で、ハルフッドは握手に応じてくれた。

 俺はしっかりと握り返しながら、なんとなくやりにくそうな相手だなと感じていたのだった。


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