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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
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百四十四話 これってお約束なんですか?

 先の会合から三日が経った。

 エセ邪神教の教祖たちは、俺の手によって、真に悪や中立の神の神官――いや、教祖となった。

 その取り巻きの人も、それぞれの神の名のもとに、なりたい職につけてやった。

 もちろん、彼らの要望に合った神を、選んでやっているぞ。

 だからか、教祖たちはとても嬉しそうにしている。


「くくくっ。これが、オレが求めてやまなかった、闇の力なのか!」

「分かる、分かるぞ! 聖都に住み着く、悪しき怨霊の嘆き声が!」


 ……なんだか中二病っぽいことを言っているな。

 ま、彼らが崇めた神の加護の効果が、出ているってことなんだろう。

 うん、そう思おう。


「では、私の出番はこれで終わりですね」


 要件が済んだので立ち去ろうとすると、引き止められてしまった。


「ちょっと待ってくれ、話したいことがある」

「そうだ。まだ帰ってもらっては困る」


 真の教祖になったからか、俺への言葉遣いが一気に荒くなった感じがした。

 不意に強大な力を得た人らしい行動に、内心でせせら笑いたくなる。

 確認のために、発言していない教祖くんに目を向けると、関係ないと言いたげに首を横に振って見せてきた。

 理知的な行動を心がける彼に、好感が持てた。

 その後で、視線を呼び止めた教祖どもに向けなおす。


「……なにか、まだ用があるのですか?」

「ああ、あるとも。我が神から、お告げがあったのだ!」

「こちらもあったとも。悪の神に苦境を強いた善の神と中立の神、そしてその信者を滅しろとな!」


 教祖たちの言葉を受けて、配下たちが護身用の武器を抜いて身構える。

 狙うは、こちらと、教祖くんたちらしい。

 ふむふむ、なるほど。

 邪神教の教祖に、相応しい目的だな。

 けど、ダークエルフもそうだったけど、なったばかりの邪神の僕は、こちらを裏切ろうとするのだろうか。

 あれか? 最初の、神の試練ってやつなのか?

 俺が首を傾げながらも怯えない姿を見て、邪神教祖側がいきり立つ。


「いまや俺たちは、お前と同等の地位にあるんだ! 甘く見ていると痛い目を見るぞ!」

「そうだ。今なら、お前らに悪霊をけしかけて、憑き殺させることだって可能なんだぞ!」


 そんなこと、俺でもできるぞ。

 そう言いたくなったが、代わりにため息を吐き出す。


「はぁ……私たちを殺して、そちらになんの得があるのか、教えてくれませんか?」

「得だと!? ――得、だと??」

「得は、あるのか??」


 自分の行動に疑問を持ったように、教祖たちが首を傾げ合う。

 しかしすぐに、こちらを睨み付けてきた。


「損得の問題ではない! 神がそう求めているのだから、従うまでだ!」

「その通りだ! この世を、悪の神が席巻するため、必要なことなのだ!」


 二人の言い分を聞いて、納得した。

 彼らは邪神の言葉に、踊らされているんだな。

 フロイドワールド・オンラインのプレイヤーやNPCなら、邪神の言うことを真に受けずに、自分の利益になるよう曲解するクセがついていた。

 けど、この世界の多くの人たちは、生まれたときから聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの聖教本に従って生きてきた。

 だから、神からの言葉に素直に従おうとする、そんな気骨が醸造されてしまっているんだろう。

 なんと言って説得したものかと、頭を悩ませる。

 考えて、面倒になり、脅すことにした。


「はぁ……。貴方たちが、私に勝てると、本気で思っているのですか?」


 呆れ果てたように言うと、邪神教祖たちが怒り顔で身振りした。

 それを受け、配下たちがこちらに殺到してくる。

 俺の前に出ようとするエヴァレットとスカリシアを押し止め、俺は彼らに指を向ける。


「誅打せよ」


 ショートカットのキーワードを口から発して、誅打の魔法を発動させる。

 襲い掛かろうとした一人の顔面に光の玉が激突し、彼は顔を仰け反らせた後で失神した。

 この一撃で無暗に襲うのは危険だと判断したのか、その他の人たちはこちらに近寄るのをやめる。

 一方で、俺は誅打の魔法の威力が上がったように見えたことに、困惑していた。

 他の魔法も強くなっているのか、確かめないといけないよな。

 けど、それが今になるのか、後になるかは、あの教祖たちの返答次第だ。


「さて、もう一度、貴方たちに問います。私に勝てると、本気で思っているんですか? ああ、一応言っておきますが、今のは私が使える『一番弱い』魔法ですからね」


 弱いと強調して言うと、教祖たちも配下たちも尻込みした様子になった。

 このまま押せば、引くかなと予想して、俺は悪者風な演技に切り替えることにした。

 うさんくさい笑顔を、さらに濃く深くする。


「いいですか。貴方たちと私では、圧倒的な力の差があります。それは、神に仕えた年月の違いによるものです。貴方たちは、所詮一日二日しか、その邪神に仕えていません。一方で私は、生まれたときから、我が神を崇めてきました。その差がどれほどか、その弱いおつむでもわかりますよね?」


 この言葉に、嘘や偽りはない。

 位階を上げるクエストをこなすために、時間は必要だ。

 それに、フロイドワールド・オンラインでトランジェを作ったときから、自由神を信仰していたこともね。

 さて、年月の差による実力差があると告げると、教祖たちは口惜しげな顔になる。


「神に長く仕えていたからとて――」

「長く仕えていたからこそ、貴方が使えない強力な魔法を、私は使えるのですが?」

「魔法が強くたって――」

「肉弾戦にも自信がありますよ。なにせ、前線で戦ってきましたから」

「あー、えー……」

「言いたいことは終わりですか?」


 くさんくさい笑顔のまま問いかけると、教祖たちも配下も顔を青くする。

 ふふっ、なにをそんなに怖がっているのやら。

 いやまあ、邪神にそそのかされたとはいえ、強い相手に喧嘩を売ったら、そんな顔にもなるよな。

 ふむ。同情すべき点はあるよな、うん。

 折角、世界をより混沌化させる要因を作ったのに、自分で消すことがもったいないからじゃないんだからな。


「さてさて、力の差が分かったところで。私たちはお暇させてもらいましょう。ああ、そちらの教祖くん。途中まで、一緒に行きませんか? 別れるまでの安全は、保障しますよ?」

「あ、はい! 是非、お願いします!」


 指さして呼びかけられた、教祖くんはすぐに配下をまとめると、こちらに急いで逃げてきた。

 では、立ち去ろう――


「待ってくれ!」


 ――として、また止められた。

 いい加減、イラッときた。


「うーんと……死にたいのかな?」


 うさんくさい笑顔で問いかけると、首を左右に振ってきた。


「なら、なんで止めたんですか?」

「いや、あのその……見逃してくれるので?」

「そのつもりですが、見逃さないほうが良かったですか?」


 脅しで手のひらを向けると、手の直線上から退避されてしまった。

 けど、その後の行動に面食らった。


「いえ、その。ありがとうございます!」


 なにせ、全力で頭を下げにきたのだ。

 訳が分からないと首を傾げ、俺は教祖くんと共に、この建物を脱出したのだった。

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