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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
六章 復活再臨、そして布教編
140/225

百四十一話 原因と結果の間に、思惑が挟まってます

 聖都にいるエセ邪神教の信者たちも、街中での『偽善』活動を行い始めたようだ。

 もっとも、自由神の信者化ないし神官化しているのは、その教団の教祖だけ。

 なので、市販の薬を渡してみて、それで助けを求める貧しい人々が治らなかったら、教祖が登場という運びになっているらしい。 

 それだと教団の経済にしわ寄せがきてしまうので、エヴァレットが調合した薬を、こっそりと横流しすることにした。

 素材は、各地の村々を巡って布教活動をしていた際に、道中で集めた野草がたんまりアイテム欄にあるので、心配はいらない。

 余っているので、俺も偽装スキルで、調理や調薬で薬を作ってみた。

 前は、調理スキルでの作成で四割、調薬スキルだと八割の成功率だった。

 けど、素材が三つ以下のアイテムに限り、どれも成功率が九割以上になっていた。

 試しに鍛冶や、服飾の作成スキルを見てみると、どれも九割越えになっている。

 四つ以上では前と同じなので、枢騎士卿カーディナルナイトになって得た、自由度の増加の恩恵なんだろうな。

 ありがや、って自由神に祈ってから、素材が三つ以下の薬をスキルで大量に作って、エセ邪神教へ流すことにした。

 なので、エヴァレットには、素材が四つ以上の薬を作ってもらう方にシフトしてもらった。



 さてさて、偽善活動を始めて、四日、五日と過ぎた。

 この頃になると、貧民街と呼ばれる地区では、エセ邪神教の噂でもちきりだ。

 もちろん、噂の中で『邪神教』なんて言葉は出てこない。

 むしろ、『無名の聖者様』なんて呼ばれて、到来を心待ちにされるほどだ。

 助けられたり、噂を聞きつけた人の中には、エセ邪神教を自分で探し出して入信してしまった、剛の者まで出始めているらしい。 

 だけどこれは、貧しい人たちに限った話である。


 ――ということで、済まなくなるのは、当然の流れだった。

 教会に多額のお布施をして、回復魔法をかけてもらえる富裕層は見向きもしないが、真面目に日々を暮らす中流層の人たちまでも、件の無名の聖者様たちを心待ちにし始めるようになってきた。

 なにせ、この聖都では薬が高騰している。

 理由は、遠征軍の再編による、医療品の買い占めが行われているため。

 先の森での戦いにおいて、死傷者がたくさん出た。

 なのに、俺たち以外の神官が、兵士を治すことを渋ったことがあった。

 そのことを受けて、神官の比重を減らし、薬による治療行為に比重を増やすことになったらしい。

 ま、薬は使えばその通りの効果が期待できるので、治療拒否する可能性のある神官より扱いやすいと思ったんだろうな。

 なにはともあれ、そんな背景があるので、聖都およびその周辺の薬屋は、在庫がなくて開店休業状態。

 そんな中で現れたのが、貧しい人を相手に神の奇跡を惜しげもなく使い、薬すらタダで配布する謎の慈善集団。

 薬が手に入りにくい状況の中で、怪我や病気になった中流層の人たちが、その集団を求めたくなるのも当然だった。

 俺が支持を出すより先に、エセ邪神教信者たちは、中流層の家にも現れ始めた。

 もっとも、貧しい人相手のときとは違い、きっちりと代金を要求しているらしい。

 それでも、教会にお布施を払ったり、品薄の薬を闇市で買うより、ずっと良心的なお値段なので、ありがたがられているらしい。

 近況報告を受けに会った、教祖くん曰く――


「お陰様で、教団の資金が二割近く増えましたよ。中には、まったくの手がかりなしで、うちの教団にやってくる強者もいて、驚いてしまいましたよ」


 ――とのこと。

 信者獲得に乗り出していない、生粋黒白きっすいこくびゃく天使ノア・ハブ・クホワ教団でこれだ。

 他の、熱心に活動して信者を勧誘しようとしているエセ邪神教団になると、どれだけ資金と入信者が増えたんだろうな。





 そんな日々が十日ほど続くと、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒のお偉いさんたちも、黙っていられなくなった。

 なにせ、教会にくる信者の数が、日を追うごとに少なくなっているのだ。

 

「このままでは、お布施がなくなって飢えて死んでしまう」


 そう、教会住みの神官や教徒が危機感を抱くに、十分な理由だろう。

 もしかしたら、俺の企みに気が付いた善の神々が、託宣やら夢でのお告げやらで、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒を動かした可能性もなくはないかもしれない。

 なんにせよ、彼らはエセ邪神教信者の活動を、取り締まり始めた。

 ま、予想ができる流れだったので、取り締まりが始まった瞬間から、俺とエヴァレットたちは、ぱったりと偽善活動をやめた。

 知らせていた教祖くんとその信者たちも、活動を休止して地下に潜った。

 他のエセ邪神教団は、活動規模を縮小しても、こそこそと続け、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒に捕まる信者を出してしまったらしい。

 捕まってしまった信者はというと、裁判を行うという名目で、牢獄につながれてしまったそうだ。

 その牢獄の中で、どんな取り調べがされるかは、言わなくてもわかる。

 それは俺だけでなく、エセ邪神教に救われた人々も同じこと。


「私たちが困っていたときに助けてくれなかったのに、助けてくれた人を捕まえて痛めつけるなんて!」

「あの神官たちの行いのどこに、正しさがあるんだ。聖教本に書かれている、悪なる行為にしか見えない!」


 ほどなくして、そんな言葉が、貧しい人や中流層から噴出してきた。

 ここでようやく、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官たちも、タダで治す慈善事業に乗り出した。

 けど、そうそううまくいかない。

 貧しい人や中流層に反感を抱かれていたこともあるが、高いお布施を払っていた富裕層からの待ったがかかる。


「お布施を納めなければ、病気の治療をしないと言っていたのは嘘だったのか!」

「これからもタダで貧民どもを治す気なら、今まで払った金額を、すべて返してもらおう!」


 噂に流れてきた抗議文の内容で、これだ。

 たぶん、実際のところは、もっと激しい言い方で糾弾されたことだろう。

 そのため、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの上の方から、慈善行為の中止が言い渡された。

 要は、貧しい人や中流層を切り捨てても、富裕層を保持したままでいたかったんだろう。

 そのことが噂で聞こえてくると、人々はやっぱりと納得した。


「聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの神官は、拝金主義者しかいない」

「利権と財産を守ることしか頭になく、下々の人のことなど考えない」

「生まれたばかりの子供を持っていくことがあったが、きっと子供のいない金持ちに売って私腹を肥やしているんだろう」


 様々な悪感情が聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの教会へ行き、街中にある教会はさらに閑散とした様子になった。

 人心が離れるのを防ごうと、奮闘する神官もいるにはいた。

 それでも、風評という色眼鏡をかけた人々から、白い眼で見られつづけて委縮し、活動を止めてしまう神官が多かった。

 このまま世論の流れを推し進めれば、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの上層部が刷新されるか、教会組織自体が解体されるかになるだろう。

 そう思っていたある日の朝、スキルによる薬の調合をしようと、ステータス画面を開いたときだ。

 アイテム欄に「new」の文字が浮かんでいた。

 なにもクエストを消化していないのにと、不思議に思いながら、タップしてみた。

 新たに手に入っていたのは、『自由神からのお知らせ』というアイテムだった。

 まさか、と思いながら具現化してみると、コピー用紙サイズの一枚の紙だ。

 広げて中を確認すると、自由神からのものだと思われる文字が躍っていた。


『ぷくくくっ♪ トランジェ、君の活動のせいで、善の神が慌てふためいて仲違いし始めたよ★ 聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスにくる祈りの数が少なくなって、一柱ずつの取り分が減ったのに、ある神だけが直接祈りが届いているって、顔を真っ赤にして糾弾しているね◆ あー、可笑しい!! いいぞ、もっとやれ~☆』


 ……なにかと思えば、わざわざ手紙に書くことじゃないだろう。

 そう思って、画面内にしまい直した俺の元に、エヴァレットが勢い込んでやってきた。


「どうしたんですか? いい噂でも耳に入りましたか?」


 偽善活動を休止したので、薬を作らなくてよくなったエヴァレットには、街の噂話をその耳で集めてもらっていた。

 だから、なにかしらの情報を得たのだろうと思い、そう聞いたのだ。

 エヴァレットは勢いよく頷くと、真剣な顔で報告を始めた。


「各地で、善なる神の復活の話が、街のいたるところで語られるようになりました。奴隷商経由のクトルットからも、似た情報がこちらにやってきました」

「マニワエドが崇める航迅の神の話が浸透した――エヴァレットの慌てようをみると、それはなさそうですね」

「はい。復活した神の名は、その名前ではありませんでした。しかも、復活したと語られるのは、一柱や二柱どころではありません。聞いた分でも、十柱を超えていました」


 十も善の神が、このタイミングで復活しただって?

 俺はいぶかし気に眉を寄せようとして、自由神からの手紙を思い出した。

 喧嘩した結果、分かれて独立したのか。

 噂になっているのを考えると、いままでチマチマと溜めた力を使って、隠れ信者たちにお告げでもしたに違いない。

 この神が多数復活した事件で、世界が混乱することが確定したな。

 けど、不謹慎ながら、これは面白いことになりそうだ。

 俺は内心でほくそ笑みながら、心配そうなエヴァレットの頭を優しくなでて落ち着かせてやったのだった。


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[一言] 俺が支持を出すより先に、エセ邪神教信者たちは、中流層の家にも現れ始めた。 支持>指示
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