百三十四話 自由神と俺の思惑が進みますね
四つ目の秘密とは、自由神自身と俺の転移に関してのこと。
エヴァレットたちには直接関係ないので、放さなくてもいいかなと思って、伝えなかった部分だ。
手紙によると、自由神は大戦後もある程度信者を確保していて、力を保持していたらしい。
『知能の低いっていうか、本能全開で知性のないような、自由に生きている生き物に、遊び半分に加護を与えていてよかったよー☆』
ってことで、大戦直後は一番力を持っていた神になっていたらしい。
けど、覇権やら頂点に立つことは望んでなかったそうで、その後も勝手気ままに過ごしていたらしい。
善の神が聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスを作ろうと、悪の神が封印されたり滅ぼされようと、高見の見物をしていたそうだ。
そうやって他の神が必死に頑張っている間に、他の世界を自由に覗く方法を編み出したらしい。
近い世界を覗き回っていると、興味深い世界を見つける。
それが、俺の元の世界で作られた、フロイドワールド・オンラインというわけだ。
発見した当初は、イベントという大きな災いが頻発し、人は戦いに明け暮れて死んでも蘇り、魔物がぽこぽこと自然湧きする、修羅の世界だと思っていたそうだ。
似た世界ながら、全く違う世界に、自由神は観察にのめり込んだ。
そしてあるとき、自由神は気付く。
フロイドワールド・オンラインの自由神の信者が捧げた祈りが、この世界の自由神へと流れてくることに。
『同じ存在でも、あの修羅の世界にいる神は架空のニセモノだからね★ 本物が世界を見ていれば、信者の祈りは本物に届けられるんだろうなぁ(^^)』
理由について、そう納得した自由神は、この世界の他の神に隠れて、フロイドワールド・オンラインにいる信者からの祈りを受け取り、自分の力に変えて蓄えていったそうだ。
もっとも、ゲーム内で自由神の信者は不遇扱いで、全体数は少ない。
それでも、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスだけしか、表だった神の存在が許されない世界よりかは、だいぶマシに祈りが集まったそうだ。
さてさて、そうやって別の世界を楽しみながら、自分の力も増やしていった自由神は、とある日ある存在を見つける。
善悪両方の行動をしながら、自由神の教えを広め続ける、とある戦神官――つまり俺、トランジェをだ。
他の人が他の神に乗り換える中、ひたすらに自由神しか崇めない姿に、目を奪われてしまったらしい。
『一つの神だけを崇め続ける一途な姿が、キュン☆キュンだったんだよ~♪ あと、良いことも悪いこともやっていることも、自由の神にとっては、好印象だったんだー☆』
本物の自由神に目をつけられていると知らない俺は、フロイドワールド・オンラインを楽しみ続ける。
自由神はお気に入りの信者の活躍が見れる上に、信者の祈りが届けられて、ご満悦。
そんな関係が続いたとき、自由神はふと思ったそうだ。
『こんな敬虔ないい子を、ニセモノの世界で遊ばせているなんてもったいないよね。ニセモノの世界の仕組みの隙をついて、この世界に招いちゃおうっと♪』
はた迷惑にもそう考えた自由神は、ダメ元で、俺が枢騎士卿への試練を受領した瞬間に、神の力を使って介入した。
『そうしたら、上手く召喚できちゃったんだよねー♪ ホントびっくりしちゃったよー▼』
本当なら、別世界の存在を召喚するなんて、そう安々とはできないそうだ。
失敗していたら、単に集めた神の力が失われるだけだそうなので、一信者としては慎重に使えよなと言いたくなった。
これは俺の予想だけど。
フロイドワールド・オンラインは電子の世界だ。
ボタン一つでたやすく変わり、簡単に世界構成が失われるような、あやふやな仮想現実である。
そこに存在している『トランジェ』というキャラクターも、俺が削除を選べば数分と経たずに消え去る、儚い存在でしかないわけだ。
そんな消えても現実世界には大して影響のない存在だから、自由神が簡単に召喚できたのだと思う。
この予想があっているとすると、問題が一つある。
それは、いまここにいる俺は、ゲームをやっていた人間の俺自身なのか、ゲーム内のトランジェに人間の俺の知識が複製された存在なのかだ。
色々と思い悩みそうな議題なのだけど、手紙の最後に書かれていた自由神のありがたい言葉で、その悩みは払しょくされることになる。
『ああ、そうだ。君を呼ぶのにだいぶ力を使ったから、元の世界には返せないんだ。だから精一杯、この世界を謳歌することが、おススメだよ⌒☆ 何をしようと、この自由の神くんちゃんが、君の行動の自由を許可しちゃうからさ♪ じゃあね、Have a nice future~♪』
終始能天気な神さまだなと、その一文に笑ってしまう。
そして、自分の存在を悩んだところで、今ここにいる自分が俺だ。
我、考えるゆえに、我あり。己が観察することで、世界は成立する。どんなことも、気の持ちよう。
要は、俺は俺でしかないわけなのだから、悩む意味がないわけだな。
さてさて、自由神のありがたい許可をもらえたことだし、この世界を目一杯楽しむ方法を考えよう。
選択肢は無限大。
頼りになる仲間もいる。
魔法だって、この世界の人々の基準で、強力なものが勢ぞろいの、使いたい放題だ。
アニメやラノベではありふれた文句だけど、良いも悪いも、神にも悪魔にも、俺の意思一つでどうにでも変われる。
ま、エヴァレットたちがいるから、あまり派手なことをするつもりはないけどね。
そう、派手なことはね。
なんだか楽しくなってきたなと思いながら、どうこの世界を楽しもうかと、寝転びながら考えることにしたのだった。
次からは新章になる予定です。
ここで終われば、俺の自由(freedom)はこれからだエンドで、あとは想像にお任せしますとして、綺麗にまとまる気もしますけど……。




