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十二話 偽装スキルを検証しよう

 俺はエヴァレットと一緒に、薬品棚と調合器具がある部屋に入った。

 偽装スキルがこの世界で使えるか試し、ついでに薬が作れるようなら作ってみて、薬の知識があるエヴァレットに鑑定を頼むためだ。


「村人がまたくるかもしれませんから、エヴァレットは少し奥で座って待っていてください」

「はい。役目がくるまで、大人しくお待ちしております」


 なぜか意気込んでいるエヴァレットを横目に見ながら、ステータス画面を呼び出し、スキル欄から常時発動型パッシブの項目を選ぶ。

 その中から偽装スキルを探してタップすると、ずらずらと選択可能職業が出てくる。

 本来の偽装スキルは、他の神の信者と偽る以外では、本業メインの職業に関連する職しか選べない。

 しかし自由神の信徒は、加護で自由度が拡張されているお蔭で、これほどの職業が偽装可能になっているわけだ。

 こんな選び放題なら、自由神の信徒と偽装スキルの組み合わせばかりになるかと思いきや、実は制限がないわけじゃない。

 俺の場合を例にすると、戦神官に関連する職業――戦士や神官なんかはデメリットなしで偽装できてしまう。

 しかし、関係のない職業――商人や斥候レンジャーとか盗賊シーフなんかを選んだ場合、偽装した職業の補正とスキルがなしになってしまうのだ。

 試しに職業を偽装スキルにつけ外ししてみると、その通りの結果が得られた。

 どうやらここまでは、フロイドワールド・オンラインと同じだな。

 さて、では本命の薬師を偽装スキルにつけてみる。

 本職が戦神官という回復魔法を扱える職なので、薬師との適正はやや高い。なので制限は、補正で若干カットされるぐらいで済んだ。

 これでステータス上は薬師(偽)になったわけだけど、見た目には変化はない。

 異世界にきたから、見た目か変わる効果があるかもと、密かに期待していたのに……。


「ともあれ、ちゃんと薬師のスキルかどうか試してみます」


 この世界で初めて偽装スキルを用いた、調薬スキルを試す。

 なにが起こるかわからないので、エヴァレットに注意を呼びかけてから、ステータス画面のアイテム欄を呼び出す。

 この世界特有の植物をいきなり使うのは怖いので、フロイドワールド・オンラインから持ってこれたアイテムを使用することにした。

 なにかにつれて利用法がある薬草をタップすると、選択肢に取り出すの他に調薬の項目が新たに現れる。

 これを押すと、薬草を素材にする薬が候補が現れる。

 ここでも自由神の加護が無駄に発揮され、ポーションから毒薬まで幅広い薬を選択可能になっていた。

 今回は検証なので、一番成功しやすいな最低級ポーションを選択した。

 すると、新たな画面に薬草と共に、作製に必要な水や使用魔力量が表示され、消費するかどうかを尋ねてくる。

 はい、を選択すると成功する確率が出てきて、再び作製するかどうかを選ぶことになる。

 こういった味気ない作製方法なのは、細かに道具や薬を製作するタイプのVRMMOを遊んでいた若いユーザーが、市販薬を遊びで調合して飲んで昏睡した事件が起きたことから、予防措置としてそうなっているそうだ。

 もっとも、細かに製作するVRMMOは凝り性の人に根強い人気があるので、下火ではあるけどなくなってはいなかったはずだ。


「そんなことよりも、製作開始っと」


 指を画面に押して、最低級ポーションの製作を開始する。

 成功確率は、偽装で職業補正が低下しているのにもかかわらず、八十パーセント。ほぼ失敗することはない数値だ。

 製作中を表す時計が表示され、一つしかない針がぐるりと一周して、作製完了。ちゃんと成功していた。

 作製し終えたものは自動的にアイテム欄に移動されるが、出来栄えを見るかどうかを選択できる。

 今回は、異世界で初のスキルによる調薬なので、画面上の説明文と実物で確かめることにした。


「画面上ではごく普通のものですね。取り出してみても――まあ、見たことのある姿ですね」


 硝子ガラスとコルクを素材に使っていないのに、出来上がった最低級ポーションが丸フラスコに入れられてコルク栓をされているのは、この世界でも適用されるようだ。

 液体のまま画面から出てこられても、使いにくいからありがたいけどね。

 最低級ポーションを画面に仕舞おうとして、エヴァレットに止められた。


「神遣いさま、それはなんなのですか?」

「おや? エヴァレットは薬の知識があるのすから、知っているでは?」

「いえ。そのような液体の薬は、作ったことも見たこともありません」


 薬草の調薬に誇りを持つダークエルフだからか、エヴァレットは最低級ポーションに興味深々みたいだ。


「手にとって見てみますか?」

「いいのですか!?」

「もちろんですとも」


 手渡すと、おもちゃをもらった子供みたいに、無邪気な顔でフラスコ越しに中身を眺め始めた。

 その様子を微笑ましく思いながら、本命であるこの世界独自の植物を使った調薬を試そうとする。

 なにを試作しようかなと考え、フィマル草の消炎軟膏にしようと思い立つ。

 画面の中に放り込んだ素材に、フィマル草があったと思い出したのだ。

 アイテム欄のフォルダの中から、この世界のものが入ったものを選ぶ。


「あったあった、これをタップすれば……??」

 

 先ほどやったときと同じように、フィマル草をタップした。

 だけど、調薬の項目が現れない。

 もしかしてと、他の薬の素材を色々とタップしてみるが、やはり項目は出なかった。

 この世界のものだと、スキルが適応されないのかな。

 そう思って色々な物を選択していくと、たまたま蒸留水を選ぶと調薬の項目がなぜか現れた。

 蒸留水自体は、フロイドワールド・オンラインにあったので、この世界のものでもスキルが使えるのか?

 不思議に思って試しに選んでみると、ゲーム内で見たことのある物に紛れて、ある薬品名が目に入った。

 名前は『謎の毒薬』。

 この世界独自のものを表すそれを選んでみると、他の使用素材に『謎の鉱石』や『真緑の草』など、まだこの世界で見知っていない物が指定されていた。


「……これはどういうことだ?」


 この謎の毒薬という存在のお蔭で、この世界でもスキルによって薬品が作れることは確認できた。

 しかし、この家にあった薬――例えばフィマル草の消炎軟膏は、フィマル草をタップしても調薬の項目は現れない。


「エヴァレット。フィマル草の消炎軟膏の素材の一つは、フィマル草で間違いないですよね?」

「……えっ、あ、はい。そうです。大まかな作り方は、フィマル草をすり潰し、溶かした動物の脂に混ぜます。そこに他の添加物を加えることで効果を上げたり下げたりして、使用者にあった強さに調整してから、冷まして固めます」

「やっぱり素材の一つなんですよね。教えてくれて、ありがとうございました」


 最低級ポーションから慌てて目を離して教えてくれたので、礼を言ってから調薬のスキルが使えない理由を思える。

 ある物には調薬の項目が現れ、他の物には現れない。

 単純に考えるなら、その物品に対応する職業が違っているということになると思う。

 例えば、神官が薬草をタップしても調薬の項目は出ないし、薬師が革をタップしても鞄やコートの製作は出来ない。

 なので、この世界で薬と呼ばれているいくつかは、フロイドワールド・オンラインの薬師の範囲から外れているという風に考えられるわけだ。

 では適応する職業は何なのかと考えて、そういえばヒントがあったことを思い出した。

 説明文にない体力回復量や補助効果パフの情報。そしてアゥロユリのバターだ。

 元の世界だと、科学は台所から生まれた、なんて言ったりするけど。

 試しに料理人の職業を選択してからフィマル草をタップすると、調理の文字が現れた。

 押して確認すると、スープや焼き物に混じって、消炎軟膏を見つけた。

 ということは、さしずめこの世界だと――


「――薬学は台所から生まれた、ってことになるのかな?」


 この世界でもフロイドワールド・オンラインのスキルが使えることに、安心して何の気なしに消炎軟膏を作ってみようとする。

 動物の脂も入れてあったようで、そのまま製作を押した。

 そして押した後で気がついた。

 成功確率が四十パーセントだったことに。


「あっ…………」


 戦神官と料理人は関係性が低いので、スキルは使えても自由神と偽装スキルのコンボで受ける補正で、成功確率が激減することを忘れていた!

 しかし思い出しても後の祭りで、製作は進んでいく。

 どうにか成功していますようにと祈る。

 だが、祈る先が自由度以外には加護がない自由神だけあり、ちゃんと失敗判定が下ってしまった。

 がっくりして出来上がった物を見てみると、『フィマル草の毒軟膏』という痒みとかぶれを起こす毒薬らしい。

 一縷の望みをかけて取り出してみるが、この家にあったた消炎軟膏とは違い、どす黒く見える緑色の軟膏という見るからに毒薬だった。

 ……スキルを使うと確立的に二つに一つ以上失敗するとなると、俺が作るべきじゃないな。


「どうやら、いざとなったらエヴァレットに、調薬をしてもらうことになりそうですね」

「はい、お任せください。しかしながら、フィマル草の毒薬など初めて見ました。研究してみたいので、頂いても構いませんか?」

「ええ、いいですよ。村人には見せられませんから、隠し持っていてくださいね。それと村人に配る薬に混ぜたりしないようお願いしますね」

「もちろん、人目に触れないようにいたしますし、ダークエルフの誇りにかけてこの村では薬に毒を混ぜたりはいたしません」


 なにか、微妙に引っかかる言い方だ。

 安全のために俺もスキルを使わずに、手作業で薬を作るようにするべきか。

 だけどエヴァレットに教えて貰うのだから、全て任せてしまった方が簡単なんじゃないか。

 そんな疑問はあったが、玄関にきた村人が薬を求める声に棚上げして、どんな薬が欲しいか対応しに向かうのだった。


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