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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
五章 枢騎士卿(カーディナルナイト)獲得に挑戦編
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百三十話 村を占拠したゴブリンはこうなりました

 村から逃げ出した業喰ゴブリンの後を追い、俺と仲間たちは草むらの中を進む。

 俺たちの背丈を超えるような草が生えているが、こちらにはスカリシアがいるため、業喰ゴブリンたちの位置を『聞き』逃すことはない。

 そうやってしばらく追っていると、スカリシアがこちらに警戒を求める身振りをする。


「追ってくる者がいると知って、反転してくるようです」

「分かりました。各自警戒、二人一組で背中合わせで、同士討ちを避けるていどに距離を開けてください。草で視界が悪いので、耳を澄ましながら、獲物がやってくるのを待ってください」


 俺の指示に従って行動し、全員が周辺に注意を配る。

 このあたりの団体行動は、各地を旅して野良の魔物と戦って磨いてきたから、遠征軍の兵士よりも素早く見えるな。

 皆の動作に満足していると、スカリシアが接近を知らせ、五から指折りして距離が近づいていることを教えてくれる。

 彼女が指を全て折り、刺突剣レイピアにその手を戻してから、ちょうど五秒後。

 近くの草が揺れ、業喰ゴブリンが大口を開けながら飛び出してきた。 


「ギッグアアアアアア!」

「はぁ!」


 その姿を視認した直後、スカリシアは待ち構えていたように、刺突剣を繰り出す。

 剣の刃は出てきたゴブリンの口内に入り、頭蓋の後ろを貫き通った。

 スカリシアが突き刺さった刺突剣を抜く前に、次々と業喰ゴブリンが草むらから飛び出てくる。


「ギッケアアアアアア!」

「ギィギギィイイイイ!」


 視界の悪い草むらの中で波状攻撃を仕掛けられれば、普通なら襲われる方は浮き足立ってしまうだろう。

 けど、こちらは事前に到来を知っていたし、仲間同士でカバーし合っているので、そんなことにはなっていない。


「来たな! おおおらあああああ!」

「ふううんぬううううううううう!」


 マッビシューとマゥタクワが、大斧と大剣で近くで揺れた草むらごと、ゴブリンを切り捨てた。

 他の子たちは、その二人ほど派手ではないが、武器で魔法で着実に攻撃していく。


「なっはっはっ。遅い、遅いね」

「自由の神さま。襲ってくる敵に、痛い打撃を与えてください!」


 草むらの中で、武器が合わさる音や、魔法が輝く光が発生する。

 そのたびに、ゴブリンの絶命を知らせる悲鳴が上がる。

 すると、ゴブリンたちから、責任のなすりつけ合いのような声が聞こえ始めた。


「アタクタ、ディロク! ミパシ、ミパシ!」

「サズレカ、ナイエ! アウタゥ、アウタゥ!」


 言っている内容は分からないけど、不意打ちを仕掛けようとしたところに反撃を受けて、混乱しているようだ。

 ならと、俺は仲間たちに指示を出す。


「警戒しつつ、各自で付近のゴブリンを叩いてください。くれぐれも同士討ちには注意して!」

「「「分かりました!」」」


 元気のいい返事のすぐ後で、ゴブリンたちの絶叫が増えた。

 皆が頑張っている様子なので、俺も背後にいるスカリシアと共に、近くのゴブリンを倒しにいく。

 不意打ちに失敗して焦っているからか、不必要に草むらを揺らしているので、位置が分かりやすい。


「よっと!」

「はぁ!」


 俺は杖の隠し刃で、スカリシアは刺突剣で、一匹ずつ仕留めた。

 死んだゴブリンから吹き上がる血が、草をまだらに赤く染める。

 こちらが終始優位に状況を運んでいると、村で効いた雄たけびと同じ声が響いてきた。


「ギャウザウ! ブッン、メカイ!」


 声がした途端に、生き残りのゴブリンたちが引き上げ始める。

 また逃げる気なのかと、俺は仲間に追う指示を与えようとした。

 それより先に、スカリシアが聞こえたことを報告してくれた。


「仲間の死体を、引きずって持って行っているようですね。何かしらの意味があるのでしょうか?」

「死体をですか……」


 戦力にならない死体を、逃げ足が鈍ることを承知で持っていくからには、それなりの理由がある。

 相手が業喰ゴブリンなので、使用法は自ずと一つに絞られた。


「きっと、仲間の死体を食べて、業喰の神の加護で身体能力を上げる気なんでしょうね」

「……死んだとはいえ、味方の肉を食べるだなんて、怖気が走ります」

「業喰のゴブリンたちにしてみたら、死んだ仲間は他の食糧と大差ないのでしょうね。理解しがたい価値観ですけどね」


 けど、さっき戦ったときより、業喰ゴブリンはパワーアップして戻ってくるのは間違いない。

 ならと、周辺に敵がいなくなった今のうちに、俺は仲間たちの衣服と武器に補助魔法パフを乗せることにした。


「自由を愛する我が神よ。戦いに臨む私と仲間たちの装備に、類いなき切れ味と、無理を押し通るに必要な身硬さ。そして、前に進むための腕力と速度をお与えください」


 呪文を唱え終わると、広域化した最上級攻撃用補助魔法ハイトップ・アサルトパックが発動。

 俺を中心に、仲間たちがいる範囲まで、巨大な光の円が足元に現れた。

 その円から、色とりどりの光の粒子が飛び出し、俺と仲間たちの武器や衣服に染み入っていく。

 光が消えると、俺が手に持つ杖が、空のペットボトルように軽くなっているように感じられる。

 それは仲間たちも同じようで、戸惑うような声が、草むらの中から聞こえてきた。


「うおっ、なんだ、武器だけじゃなくて体が軽いぞ!?」

「ねえねえ、ちょっと服を軽く叩いてみなよ」

「えいっ。って、硬い! なにこれ、鎧以上に硬いよ!?」


 そうだろうそうだろう。

 なにせ、司教と戦司教の職にあるものだけが使える、攻撃力と防御力を上げることに特化した補助魔法だからな。

 このどんな補助呪文でもかなりの広域化が可能なのは、戦神官職のみにある強みだ。

 もっとも、神官職の場合は回復魔法の広域化に優れている。

 だからこそ戦司教である俺は、最上級回復魔法が単体限定なわけなんだけどね。

 さらに言ってしまうと、フロイドワールド・オンラインでは魔法の連発が可能なため、補助魔法をかけるよりも、的確に味方全体を回復できた方が重宝される。

 なので、戦神官よりも神官の方が、需要が高いんだよなぁ。

 とはいえ、戦神官は神官よりも回復待機時間が長い特徴があるため、回復担当神官ヒーリングマネージャーの回復管理を混乱させるのには重宝するんだけどね。

 そんな回想をしているうちに、業喰ゴブリンたちの飲食による強化が終わったようだ。

 草むらを派手にかき分けながら、こっちに向かってくる音がしているしね。


「みんな、ゴブリンがきますよ!」

「「「分かってまーす」」」


 補助魔法で身体能力が増して余裕がでたのか、仲間たちの返事が軽い。

 慢心していないか心配だな――なんて心遣いは、余計なお世話だったようだ。


「うひょおおおお! らっくらくだぜ!」


 マッビシューが振るった大斧が、ゴブリンを真ん中から二つに分ける。

 彼と背中合わせに立つマゥタクワも、大剣を風船の剣のように軽々と振り回す。

 それでいて、剣の切れ味は前よりも上がっているので、刃に触れた草むらが、ひとりでに散るかのように斬り裂かれていく。


「草を切り落としてしまおう」


 マゥタクワは呟くと、視界を開けるために、周囲の草むらを大剣で拓き始める。

 草むらに隠れて隙を窺っていたゴブリンが、運悪く剣の刃に巻き込まれて、切り口鮮やかに首と頭が分かれた。

 他の子も、この二人と似たような状況だ。

 短剣を振るえば、皮膚、筋肉、骨も関係なく斬り裂いている。杖でゴブリンの頭を打てば、棒で豆腐を力いっぱい叩いたときのように爆散する。

 食べ物を得て加護を強めたゴブリンたちも、負けじと武器で歯で爪で反撃してくる。

 けど、どの攻撃も、こちら側の防具を突破することはできない。

 これは補助魔法で強化しし過ぎたかなと思いながら、俺は杖の先でゴブリンの腹を突いた。

 空の段ボール箱に棒を突き刺したときみたいに、少し硬い手ごたえの後に、ずぼっと奥まで入る感触がした。

 確認するまでもなく、ゴブリンの腹の中に、杖の先が埋没している。

 俺は杖に刺さったゴブリンを蹴り剥がしつつ、そっとため息をつく。

 うん、ゲームのときよりも、強化具合が上がっているや。

 こんなに強化されるなら、もう一段低いものでも、十分に役割が果たせる。

 あっさりと敵を倒せるものだから、仲間全員が調子に乗っているようだし。

 これからは、よっぽどのことがない限りは、最上級の補助魔法は使わないようにしようっと。

 そんなどうでもいいことを考えていると、いつの間にかゴブリンたちの襲撃は止んでいた。


「スカリシア。生き残りはいませんか?」

「はい。えーっと――いますね。一匹が、この場所から逃げようとしています」


 一匹だけという部分に首を傾げかけ、そういえば業喰ゴブリンの親玉は見てなかったなと思いだした。

 誰かに追わせてもいいのだけど、親玉だけあって隠し玉を持っている可能性もある。

 補助魔法の強化で浮かれている子たちに任せるには、ちょっと危ないかもしれない。

 なので俺が行くことにして、追撃の補助としてスカリシアを連れて行こう。

 残りの子たちは――


「――マッビシュー。貴方が統率して、草むらにいるゴブリンたちを一ヶ所に纏めておいてください。終わればその場に待機です」 

「ええー……。ちぇっ、分かったよ。おら、みんな、やるぞー」


 強化した体で暴れたりないのが見え見えな態度で、マッビシューが指示を出していく。

 他のみんなも動き出すのを見てから、俺はスカリシアと共に、業喰ゴブリンの親玉を追いかける。

 強化したのは移動速度もなので、あっさりと親玉に追いついた。

 それどころか、うっかり追い抜きかけてしまう。


「よっと!」


 制動がてら、杖の隠し刃を抜いて、親玉ゴブリンの片足を切り落とした。


「ギャアアアア、グベェ――」


 足を切り離された痛みに叫びながら、走る勢いを止められずに、そのゴブリンは頭から地面に突っ込んだ。

 そして、足と顔を片手ずつ押さえて、とても痛そうにする。

 親玉だから、少し注意して様子を観察する。

 けど、隠し武器を持っているようでも、こちらを欺く演技をしているようでもない。

 どうやら、とんだ警戒のし損だったようだ。

 隠し刃を振り上げて止めを刺そうとすると、親玉ゴブリンはこちらの押しとどめるように、手のひらを向けてきた。


「ギギィ! マッテ、マッテクレ! オレ、オマエ、マエニ、アッタ!」


 知り合いだと主張するが、生憎と俺は、久しぶりに会ったゴブリンの顔を区別できるほど、人相判別に長けていない。


「そうですか、では――」

「オレ、ダーギャノ、トモ。オマエ二、カミサマ、オシエテモラッタ!」


 ダーギャという懐かしい名前に、振り下ろす手を一時止める。


「おや、ダーギャのお供だったのだったゴブリンですか。それはそれは、お久しぶりですね」

「ヒ、ヒサシブリ」

「ダーギャは元気ですか? 会いに行ってみたいので、どこにいるか教えてくれませんか?」

「ダーギャ。ニンゲンノ、アツマリカラ、ミッカ、モリ、イッタトコロ、イル」

「そうなんですか。その場所の目印とか、ありませんか?」

「ウー、ウー。オオキイ、キ、アル。ニホン、ネジレテ、アワサッタ、ヘンナキ! ソノチカク、チイサイ、カワ、アル!」


 こちらが攻撃する気がないと誤解しているのか、親玉ゴブリンはペラペラとよくしゃべってくれる。

 そうかそうかと頷いて、これ以上の情報はいらないと判断して、俺はその首を刎ねてやった。

 ぽかんとした顔のまま、親玉ゴブリンの頭は地面を転がる。


「さて、業喰の神を崇めるゴブリンの集落のありかなんて、マニワエドへの、いいお土産ができましたね」

 

 喋りながら刃の血を振るって杖に収めると、スカリシアが熱っぽい目をこちらに向けていることに気が付いた。


「どうかしましたか?」

「はっ!? い、いえ、その。トランジェさまの容赦のなさを見て、こう背筋にゾクゾクとしたものが……」


 気恥ずかしそうにいうスカリシアを見て、ピンッときた。

 その予感を確かにするため、俺は彼女の顎を掴んで、無理矢理目と目を合わせさせる。

 するとスカリシアは、怖がりながらも、何かを期待する瞳をしていた。

 どうやら、スカリシアには被虐の気があるようだ。

 それならって、ここまで聴力を生かして頑張ってくれたお礼として、ちょっとしたサービスをしてあげよう。

 俺は唇を奪い取るような乱暴なキスをして、舌もスカリシアの口内を凌辱するかのように激しく動かす。


「ん゛~~! ん゛、んぅ、んんぅぅ~~~……」


 最初は驚き暴れたけど、次第に体の力を抜いて、俺にされるがままにされる。

 しかしそれが気持ちいいかのように、スカリシアの白い肌が上気して、目がとろんとしたものに変わっていく。

 散々に口を嬲った後で、俺は口を放し、膝頭でスカリシアの股間を強く押し上げた。


「はぁ~~~んぅ!」


 スカリシアは、電撃を食らったかのように背を仰け反らせる。

 そして何かを期待する目で見てくる。

 俺は応えるように、そっと彼女の耳元に口をよせ、囁く。


「望み通り、後で乱暴に抱いてやる」


 普段とは違う乱暴な口調の後で、スカリシアの薄い胸元を、力強く握る。

 あ、補助魔法の効果時間が過ぎているやって、そのほんのりと柔らかな感触で自覚した。

 そんな間の抜けた感想を抱いた俺とは違い、スカリシアは嬉しそうな顔で、こっちにしなだれかかってきた。


「はあぁぁ~ん♪ トランジェさま、トランジェさまぁ~♪」


 何かのスイッチが入ってしまったようで、瞳の中にハートマークが見えそうな感じで、スカリシアが縋り付いてきた。

 ゴブリンの死体の横でハッスルする気はないので、ぐいっと彼女の体を引きはがす。


「待て、お預け! 後でって言いましたよね」

「そんなぁ~。でも、待ちます。待ちますから~」


 後で滅茶苦茶にしてほしいと情熱的に訴えかけられて、俺は悪ノリが過ぎたなと、少し前の自分の行動を反省したのだった。

 もちろん、ちゃんと行動の責任はとるつもりけどね。



明日は更新をお休みする予定でいます。


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