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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
五章 枢騎士卿(カーディナルナイト)獲得に挑戦編
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百二十話 前線陣地は静かに……

 夜を待って、俺たちは前線陣地に攻め入ることにした。

 といっても、なにも『わーわー』と騒ぎながら、しゃにむに突撃をするわけじゃない。

 元・傷病兵たちにとって、難いのは総大将とその取り巻きの一派だけ。

 同じ兵士たちは、生死を共にした仲間なので、戦いたくないそうだ。

 なので、極力人死にを出さないために、こっそりと制圧することにしたわけだ。

 大勢で動いたのでは、音で感づかれてしまうので、少数だけで陣地に近づく。

 メンバーは、俺、エヴァレット、マッビシュー、ラットラ。そして、身動きが軽い兵士が数人。

 残りの人たちは、馬車と共に少し離れた場所に待機してもらっている。

 さてさて、陣地の様子はっと。

 森からの魔物を強く警戒しているようで、森に向かって多く篝火を焚いているな。

 見張りの兵士も、その篝火の数に見合うだけ、巡回しているようだ。

 逆に、村々へ続く道側には、ほとんどといっていいほど明かりはない。

 見張りもやる気ない態度で、大あくびしながら立っている。

 エヴァレットたちが集めてくれた、情報通りだな。

 俺たちは草むらに隠れ、車座になって顔を突き合わせる。


「エヴァレット。陣地内の様子はどんな感じですか?」

「今まで陣地に魔物の襲撃がなかったからか、兵士たちのほとんどが気を緩めているようです。総大将たちも、テントの中で眠っているようですね」


 元・傷病兵たちの反乱を危惧していた割には、間抜けな警戒ぶりだ。

 けど、偵察を任じていた兵士が、まともに働かずに、適当な報告をしているんなら、当然なのかもしれないな。

 さて、それじゃあ、ここまで連れてきた兵士たちに、役に立ってもらおうか。

 俺が視線を向けると、分かっているって感じで頷き返してきた。

 兵士たちはここまで抱えてきた数本の酒瓶を持ったまま、こそこそとした動きで、陣地の入り口へ向かう。

 当然、見張りの兵士たちに見とがめられる。

 ここからは、人間の耳では聞こえないので、エヴァレットに通訳してもらうことになる。


『止まれ。誰だ?』

『おいおい。この格好を見て、分からないってのか?』

『いや、そうじゃなく。どうして陣地の外に出ているんだって聞いているんんだよ』

『うへへっ。そりゃもう、コレのためさ』


 こちらが送った兵士が、見張りに酒瓶を一本手渡す。


『お、おい、コレって!?』

『しっ。騒いで、あのアホ総大将に聞かれてみろ、酒を全部没収されちまうだろうが』

『そ、それもそうだな。けど、よく手に入ったな』

『見回りの任務中に、こっそり近くの村に出向いて、酒を分けてくれるように話をつけたのさ』

『陣地にある酒に手を付けたら、バレて罰を言い渡されるが。村から手に入れた酒なら、誰も気がつかねえさ』

『はぁ、よくもまあ、思いつくもんだ』


 ここで、送り出した兵士たちが、酒瓶をすべて見張りに手渡す。


『お、おい。こんなに、どうしろってんだ?』

『まったく、鈍い奴だな。見張りを交代してやるから、親しいやつと酒盛りしろってことだよ』

『オレらは、村で一足先にごちそうになったからよ。気にせずに楽しめ』

『おっ、そうか。ま、勝手に交代したところで、見張りさえ立っていれば、誰も咎めねえしな。ありがたく、酒、受け取らせてもらうよ』


 見張りだった兵士たちは、酒瓶を抱えると、嬉しそうな顔でこそこそと、陣地内のテントへと入っていった。

 それから少し経った後で、俺たち側の兵士たちが、陣地に入ってきていいという身振りをする。


「エヴァレット。スカリシアに」

「はい、分かっています。スカリシア、準備が整った。すぐに移動しろ。静かにだ」


 エヴァレットが、少し大きめな独り言のような呟きを放つ。

 これでスカリシアに通じたのか、少し遠くから人と馬車が動く小さな音がしてきた。

 やがて、この場に残りの人たちが集まった。

 馬車はこの場に置くことにして、兵士たちに馬に鞍をつけさせていく。

 その間に、エヴァレットとスカリシアの二人がかりで、陣地内の音から、マニワエドと総大将の居場所を聞き出してもらう。

 もちろん、陣地の形やテントの配置などは、兵士たちから教えてもらってある。


「こう、陣地が丸くあり。マニワエドは、この少し端のテントにいるようです」

「総大将は、取り巻きらしき人たちと、この大きなテントで酒を飲んでいるようですね。かなり荒れている飲み方をしていますね」


 確保するべき人の位置は判明した。


「でしたら、電撃戦といきましょう。馬に乗れる兵士は、騎乗して陣地に向かいます。私たち神官は、魔法で足を速くして向かいます。残りの人たちは、馬が陣地内に入ったら、徒歩で突撃です。陣地内が混乱している間に、マニワエドと総大将、ついでに役に立たない取り巻きたちの、身柄を押さえます」


 質問はないかと見回すけど、全員がやるべきことを理解した顔で頷き返してくるだけだ。

 なら問題はないなと、準備が終わり次第、陣地に突撃を敢行することとなった。





 見張りと出入り口は、こちらが押さえているため、電撃戦は上々の滑り出しだった。

 騎乗した兵士たちと、俺たち自由神の神官たちが本陣に突入すると、兵士の誰もが反応出なかった。

 俺たちは無人の野を走るように移動しながら、二手に分かれる。

 兵士たちと戦闘力高めの子たちには総大将のテントを包囲させ、その他の俺たちはマニワエドの救出と説得を行う手はずとなっているからだ。

 俺は陣地内を走り、困惑している様子の見張りが一人だけ立つ、あるテントに接近する。


「だ、誰――」


 声を出そうとしたその兵士の首に、俺は杖の隠し刃を抜いて、突きつけてやった。


「しぃ。夜なんですから、静かに。私はマニワエドさんを助けに来ただけです。貴方が騒がなければ、この刃に血はつきません」


 見張りの兵士は、青白い顔でコクコクと頷くと、場所を開けるように横に一歩ずれた。

 俺は念のために、口に指をあてて、黙っているようにと念押しする。

 兵士が頷くのを見てから、テントの出入り口を開ける。

 すると、マニワエドが眠そうな顔でこちらを見ていた。


「お、おお。何か騒がしいと思ったら、どうしたのです?」


 夢と現実の区別がまだあやふやなのか、マニワエドらしからぬ素っ頓狂な質問が飛んできた。

 優秀な人でも人間にかわりないんなんだなと、ちょっとだけ笑ってしまう。

 けど、笑みをこぼしていい状況じゃないので、うさんくさい笑みに表情を変える。


「マニワエドさん。貴方が死刑の憂き目に合いそうだという噂を聞いて、貴方が助けた兵士たちが一斉蜂起して、この陣地に詰めかけています」

「……はぁ? あ、いえ、待ってください」


 自分でも頭が働いていないと自覚したのか、マニワエドは両手で自分の頬を張って、意識をシャッキリとさせたようだ。


「死刑だなんて、そんなこと起こるわけがないでしょう。なのに、そんな噂を真に受けたのですか?」


 これは恐らく、兵士ではなく俺たちに向けた言葉だろう。

 ならと、俺は首を横に振る。


「いいえ、信じていませんでした」

「でしたら――」

「ですが、この噂で兵士たちが動かなければ、総大将は本当に貴方を死刑――いえ、私刑にかける気だろうと思ったのです」


 言葉を遮って俺が言うと、マニワエドはその考えはなかったという顔をする。


「いえ、そんな。でも、たしかに……」


 何らかの心当たりがあるのか、黙り込んで考え始める。

 けど、考え終わるまで待っている時間はない。


「マニワエドさん。この状況を収められるのは、貴方だけです。それはお分かりでしょう?」

「はい。そして、こうなったからには、どうしなければいけないかも」


 マニワエドは気苦労が増えたような顔を一瞬した後で、表情をキリリと引き締める。

 そしてテントを出ると、一直線に総大将が居るテントへ向かう。

 ここでようやく、陣地内の兵士たちが異常に気が付き、武器を片手にテントの外に出てくる。

 ちょうどそのとき、走り寄ってきた元・傷病兵たちが陣地に突撃してきた。

 起き抜けの兵士たちは、状況がつかめないままに、出入り口から入ってくる人を止めようと動き始める。

 その混乱を縫うように進み、総大将を取り囲む人たちに合流する。

 出入り口に向かう兵士たちは、俺たちの方をチラッと見るが、素通りしていく。

 きっと、俺たちのことを、総大将を守るために集まっていると、誤解してくれているんだろうな。

 ここまでは、俺が立てた作戦通りだ。

 でもここからは、総大将の無能っぷりを直に見たわけではないので、どんなやつか楽しみだ。特に、その無能っぷりがどんな具合化がだ。

 ちょっとウキウキしながら、俺はマニワエドとバークリステと共に、総大将と取り巻きがいるテント内に入ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  元・傷病兵たちにとって、難いのは総大将とその取り巻きの一派だけ。 難い>許し難い? 特に、その無能っぷりがどんな具合化がだ。 具合化>具合か
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