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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
五章 枢騎士卿(カーディナルナイト)獲得に挑戦編
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百十八話 人には色々な特技と役割があるようです

 マニワエドを助けに向かうことは決定した。

 けど、その前にしなければならないことがある。

 俺は、兵士たちに告げる。


「マニワエドさんを助けたら、あなたたちは反逆者に仕立て上げられてしまいかねません。もしもそうなったとき、遠くに落ち延びるためには、多く食料を確保しておく必要があります」


 マニワエドを助けるのだと血気に逸っていた兵士たちは、それもそうだと納得してくれた。

 

「それなら、急いで食料集めをしないと」

「俺たちの分だけじゃなく、世話をしてくれた村人にお礼をする分も必要だろ」

「これは、いくら時間があっても足りないぞ!」


 兵士たちは武器を手に、我先にと草原や森へと向かっていった。

 自由神の子供信徒たちも、その手伝いのためについていく。

 彼らの姿を見送ってから、俺はエヴァレットとスカリシア、バークリステとリットフィリアにピンスレットを呼び寄せる。


「いまから、貴女たち五人には、別行動をとってもらいます」


 俺の言葉に五人はすんなりと頷き、何をしたらいいかという目を返してくる。


「やるべきことは簡単なことです。エヴァレットとスカリシアは、持ち前の耳を生かして、前線陣地の様子を探ってください。特に、マニワエドが本当に投獄されているのかを確かめてください」

「はい、分かりました。お任せください」

「かしこまりました。その役目、果たして御覧に入れます」

「バークリステとリットフィリア、そしてピンスレットは、二人の護衛をお願いします。エヴァレットたちは、特徴的な見た目で目立ちます。なので出くわした人の対応も、貴女たちが表に立って対応してくださいね」

「了解いたしました。要するに、先遣隊とその護衛というわけですね」

「大姉さまがいくなら、不満はないかな」

「ご主人さまと離れ離れはイヤなのんだけど、そのご主人様から頼まれてしまっては仕方がないよね」


 ピンスレットの不満を苦笑で聞き流す。


「こちらは、食料が集まり次第、前線陣地に向かうことにします。兵士たちの頑張り次第ですが、二十日はかからずに集まると思います。その間に、何らかの動きがあれば、誰かが知らせに来てください」


 指示を与えると、ピンスレットが手を上げる。


「はいはい! その役目は、このピンスレットにお任せください! なんなら、動きがなくても、ご主人さまに会いに戻ってきます!」

「いやいや。役目を引き受けてくれるのはたすかりますけど、戻ってくるのは動きがあったときだけでいいですからね」


 そう釘差ししてから、五人の顔を見回す。


「この指示の内容について、なにか、聞きたいことはありますか?」


 五人は少し考え込む様子になり、やがてバークリステが手を上げる。


「では、一つ質問を。マニワエドの処刑が早まり、トランジェさまの合流が間に合わない場合は、どうすればよいのでしょうか?」

「なるほど、そうですねぇ……」


 ここでの選択肢、主に二つ。

 マニワエドを助けるか、処刑を見逃すかだ。

 助けるを選べば、バークリステたち五人で救出を強行しなければいけなくて、高い危険が伴う。救った後でも、追撃部隊が差し向けられる可能性もある。

 見逃すことを選べば、マニワエドの命は失われるが、バークリステたちに命の危険はない。けどその場合は、彼を助けられなかった負い目から、この村に滞在中の兵士たちが自暴自棄になる可能性がある。

 その他、こまごまとした要素と実行した後の実現性を考え、俺は決断する。


「その場合は、マニワエドさんの救出をお願いします。けれど、貴女たちの命が第一です。命の危険があるのであれば、救出に固執せずに、撤退してください」


 俺としては見知ったばかりの人よりも、関わりが長い人の方が大事だ。

 けど、一応は助けようとしたという建前があると、マニワエドに助けられた元・傷病兵たちの説得もしやすくなる。

 そんな考えでも、折衷案となった。

 さて、そんな思惑が俺にあると知ってか知らずか、エヴァレットたちは嬉しげな顔になった。

 どうやら、俺が彼女たちの命が大事と語ったことが、歓喜のツボにはまったらしい。

 エヴァレット、スカリシア、ピンスレットの三人は、特に俺の心配が嬉しかったようで――


「わかりました。そのときがきたら、我々の命を危険にさらすことなく、マニワエドを救います」

「うふふっ。たしかに、こんな場面が今生の別れでは、絵になりませんものね。死ぬなら、愛しい人に抱かれての方が、浪漫がありますもの」

「ご主人さまを喜ばせこそすれ、悲しませるような真似はいたしませんとも! 必ず元気な姿を、見せてさしあげますから!」


 ――とまあ、変な風に受け止め、それぞれ違った覚悟を決めてしまっている。

 この三人の様子に、送り出して大丈夫かなって、つい思ってしまう。

 でも任せるしかないので、俺は五人に飲食物を積んだ馬車を預け、この村から送り出したのだった。




 兵士たちの食料集めは、かなり意気高い調子で行われていった。

 草原や森に現れる獣を次々に狩り、目を皿にして草花の収集を行っていく。


「そっちに逃げたぞ!」

「普通の大きさのウサギとはいえ、逃がすなよ!」

「焼いただけの肉では、量が食えなくなる。薬味となる草も集めるぞ!」

「野生の芋は味気ないが、ないよりはマシだ。見つける端から掘り起こせ!」


 鬼気迫る表情で、それこそ一切合切獲り尽くすんじゃないかという勢いで、食料集めをしている。

 上手に役割分担ができているようで、どうやら出身がバラバラな寄せ集めの人たちだったことが、逆に幸いしているみたいだ。

 エヴァレットたちには、二十日はかからないと言ってあったけど、この調子だと十日もかからずに集めきれるんじゃないかな。


 一日が過ぎ、翌日には目に見えて彼らの狩りの腕前は上がっていた。

 腕前の上昇は一日毎に続いているようで、食料集めの日数の短縮は、できて当り前のように思えてきた。

 彼らは狙う獣の種類を、大型のものに絞って行うようになり、猪や鹿などがどっさりと獲ってくるようになる。

 より多くの獲物を狙って森の奥に入っていくようになる。

 すると、魔物が襲ってくる。

 だけど、食べられる種類ものとみるや、こぞって倒して、食料として集めていく

 持っていく食料がかなりの量集まると、兵士たちの中から別の働きをする人が現れ始める。

 馬車に積み込む水を、村の井戸を使って集める兵士。

 世話になった村人たちへの恩返しに、畑仕事や麦わらでの道具作りをしていったりする。


 そんな風に兵士たちが慌ただしく動く中、俺はマニワエドの窮地を知らせにきた、彼の友人という兵士を観察していた。

 彼は、他の兵士たちと同様に狩りにでかけ、村人と交流している。

 マニワエドを助けてくれといってきた割に、余裕があるように見えて、ちょっとだけ不自然に思えた。

 いや。俺たちが、マニワエドの救出しようと頑張っているのを見て、急く心の中を見せまいとしている可能性もあるか。

 どちらにせよ、俺が心を許してもいいと思うに値する行動を、彼からは見ていえない。

 気にし過ぎかなとも思わなくはないけど、彼のことを総大将の回し者だと、仮想しておくことにしよう。

 そんな彼にどんな考えがあるのかを、俺は子供たちの誰かを使って探ることにした。

 その役目を引き受けてくれたのは、樹花人アルラウネの先祖返りだと俺が予想している、アフルンだった。


「実は、男性から話を聞き出すの得意なのよねぇ。この体からでる甘い匂いで、うっとりしながら喋ってくれるわぁ」


 見ててと、アフルンは子供特有の爛漫さを全身に貼り付けて、あの不審な兵士に抱き着く。

 久しぶり会った父親に甘える子のような感じで、あれこれと話しかけているようだ。

 最初は困った調子で対応していたが、次第にぼーっとした感じに変わっていった。

 その後は、アフルンが尋ねるすべてのことに、素直に答えている様子がうかがえた。

 やがて、アフルンは子供っぽく手を振って別れを告げると、こちらに戻ってきた。


「うふふっ、色々と聞けちゃったわぁ」


 毒婦のように笑いながらの言葉を聞いて、俺はアフルンを子ども扱いするように、彼女の頭を撫でてやった。

 すると、子ども扱いが不満そうな、ぶすっとした子供らしい顔つきになった。


「ちょっとぉ、あんまり頭撫でないでよぉ。髪の毛が乱れちゃう」


 そうは言いながらも、俺の手を払い除けない。

 なので、ツンデレだと思うことにして、頭を撫で続けた。


「それで、あの兵士はシロでしたかクロでしたか?」

「そのことなら、間違いなくシロよぉ。本当に、マニワエドと旧友みたいで、心配しているわぁ。けど、面白いこともわかったわぁ」

「おや、それはどんなものです?」

「どうやらあの人、マニワエドの窮地を、見知らぬ兵士から教えられたそうよ。しかも、一人だけでなく数人からよぉ」

「ほほぅ。ということは、総大将の企みに、あの兵士はまんまと乗せられた可能性が高いですね」

「その通りよぉ。ふふーん、このわたしの聞き出す手腕があってこそなんだから、感謝しなさいよぉ」


 偉そうにふんぞり返るので、偉い偉いと頭を撫でてやる。

 すると、アフルンは照れで顔を真っ赤にしたアフルンが、ぽかぽかと軽くこちらを殴り始めた。

 もっとやれってことかなと、さらに頭を撫でてやりながら、俺はあの乗せられた兵士を利用して、遠征軍総大将側を罠にはめる作戦を企てていくのだった。


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