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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
五章 枢騎士卿(カーディナルナイト)獲得に挑戦編
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百十二話 おやおや、情勢が怪しくなってきましたよ?

昨日は、大変失礼いたしました。

 村での暮らしが続き、村人たちの多くは、自由神に鞍替えし終えていた。

 残っている村人も、遅かれ早かれ、自由神の信徒となるような雰囲気だ。

 一応、二つの宗教が入り混じる村になってしまっているけど、村人たちの関係はとても穏やかだ。

 なにせ自由神は、自由を尊び、自由こそが教義だ。

 信徒が自由神以外の神を崇めようと、怒るような神様ではない。

 フロイドワールド・オンラインで、祭る神を偽ってもペナルティーがなかったように。

 俺がこの世界で他の神の信者を増やしても、一切のお咎め降ってこなかったようにだ。

 なので村人たちの生活は、改宗する前と後で、全く変わっていないため、軋轢の生まれようがないよな。

 さてさて、そんな平和な村での生活の中で、気になる知らせがやってきた。

 いや、『知らせがきた』っていうのは嘘だな。

 正確に言うなら、知らせが来なくなったというべきだろう。

 そう、遠征軍からの噂という、戦況報告が一切やってこなくなったのだ。

 そのことに、村人たちは不安に思い、彼らが黒い聖女と崇めるエヴァレットに聞きにきた。

 困ったエヴァレットは、俺に助けを求めるような目を向けてきたので、でしゃばることにした。


「はいはい、皆さん。不安なお気持ちは分かります。ですが、『聖女さま』も貴方たちと同じく、この村で暮らしているのです。森にいる遠征軍の詳しい話を、知っているはずがないじゃないですか」


 俺が声をかけると、村人たちは納得しながらも、不安そうなままだった。


「知らないことは分かりました。けど、貴方がたはワシらよりも頭が良い。予想でもいいのです。なにか、わかりませんか?」

「情報が来ないのですから、判断のしようがないのですよ。ですが、そうですねぇ――」


 俺が考え込むように言葉を切ると、村人たちは息を止めてこちらを見つめる。

 村人たちの息が限界になる寸前まで待ってから、続きを話していく。


「――便りがないのは、元気な証拠ともいいます。きっと、噂になるようなことが、遠征軍で起こっていないんでしょう」

「そう、なのでしょうか?」

「きっとそうですよ。ほら、何か悪いことがあれば、すぐ噂になってしまいますよ。どこそこの子供がつまみ食いを怒られたら、この村だと次の日には、誰もが知っているじゃないですか。けど、何事もなかった日の翌日は、流れる噂なんて一つもないでしょう?」


 例を出して説明すると、村人たちは納得してくれたようだった。

 そして、噂が途切れたことは気にするべきことじゃないと知ると、安心したように日々の生活に戻っていった。

 それを見送って、俺とエヴァレットも何事もないように、日中を過ごす。

 日が沈み、俺の仲間たちが借家に集まり終え、食事を取り終えた後で、俺は全員に向かって喋っていく。


「どうやら、遠征軍は良い噂を流せないほど、逼迫した状況にあるようですね」


 村人に語ったのとは、百八十度違う言葉に、エヴァレットは驚いたようだ。


「あ、あの。噂がこなくなったのは、大した問題じゃないのではなかったのですか?」

「まさか、そんなわけないじゃないですか。あれは、村人たちの不安を解消するための、方便ですよ。本当のことを言うと、遠征軍はまずい事態に陥っている可能性が高いです」


 そう告げると、エヴァレットはまた質問してきた。


「情報が入ってきていませんが、どうして遠征軍は窮地にいると、分かったのですか?」

「簡単な話ですよ。遠征軍が森に入ってすぐの頃、皆に言ってありましたよね。軍とは、何事も良く改変してから、情報を流すものだと」


 エヴァレットだけでなく、子供たちも頷いたのを確認してから、続きを話す。


「噂が流れなくなったのは、どうやっても良く改変できないほど、悪いことが起きた。もしくは、森の中でゴブリンや魔物に取り囲まれて、外に情報を流せなくなっていると、そう考えるのが妥当ではありませんか?」


 俺が理解を促すと、ほぼ全員が、その通りかもしれないという顔になる。

 そこでさらにバークリステが、補足説明を入れ始めた。


「恐らく、遠征軍内部で悪い事態に対する緘口令――ようは口止めが、行われているのでしょうね。要らぬ噂を流せば、軍務違反や背教者と認定して、罰を与える。そう脅している可能性すらあります」


 自由に喋ることも出来なくなっているかもと知って、子供たちが遠征軍の兵士を哀れむ顔をする。

 その表情を見て、順調に自由神の教義に染まってきているなと、思わず嬉しくなった。

 けど、うさんくさい笑みで、内心の喜びを包み隠す。

 その後で、遠征軍が辿るであろう今後の予想を、語って聞かせることにした。


「大まかに分けて、道は二つですね」


 俺は指を一つ立てる。


「いま直面している悪い事態をどうにか突破し、森の外まで後退する。そして『第一次遠征は終わった。第二次遠征の準備に入る』と、周囲に知らせを流します。けれどそれ以降は、森からゴブリンや魔物が出てこないかの、監視任務に移ることになるでしょうね」


 そして、二本目の指を立てる。


「その悪い事態を解消できず、遠征軍は壊走。落ち延びた兵士たちによって、遠征軍大敗の知らせが、周囲の村々に駆け巡ります。もしかしたら、森からゴブリンや魔物が、逃げた兵士を追って、村々を襲撃するかもしれませんね」


 このどちらかだと俺が主張すると、バークリステがそれぞれの説の補強を入れてきた。


「一つ目の事態になれば、村からまた食料を取りに来るでしょう。二つ目の事態になれば、この村も戦いに巻き込まれ、わたくしたちが戦うことになるでしょうね」


 要は、対岸の火事ではないと、子供たちに教えたわけだ。

 すると、子供全員が嫌そうな顔になった。

 特に、減らず口が多いマッビシューが、一層嫌そうな顔で口を開く。


「本当かよ、大姉ちゃん。そのどっちにしたって、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒が馬鹿した尻拭いを、オレたちがしなきゃいけなってこと?」

「その通りです。嫌でもやらなければ、ここの村人たちが、大変に困ることになるでしょうね」

「うっわ~。すーっごく迷惑」


 マッビシューは嫌そうながらも、村人を見捨てる気はないようで、狩りが得意な面々と顔を付き合わせて、話しこみ始めた。

 漏れ聞こえてくる内容から、狩りで食糧の備蓄をどうにか増やそうと、話し合っているようだ。

 他の子供たちも、あれこれ対策を話し始めている。

 自由神の信徒らしい、自ら行動する姿勢だ。

 俺は少し感慨深く思いながら、席を立って、家の外に出ようとする。

 そのとき、ピンスレットが呼び止めてきた。


「ご主人さま、どこにいくので?」

「村長宅に行くつもりです。村人に先ほど語ったことを聞かせるのは、まだ時期尚早です。ですが、村長だけに知らせ、周囲の村に注意するよう伝言してもらうことを、やってもらおうかと思いまして」

「なるほどです。じゃあ、いっしょに行きます!」


 ピンスレットは椅子を下りると、俺の腕に自分の腕を絡みつかせてきた。

 相変わらず距離が近いなと思いつつ、ちょっと小言を言うことにする。


「あのね、ピンスレット。遊びに行くんじゃないんですよ。この格好で村長宅に行ったら、笑いものになってしまいますよ」

「大丈夫です。村長の奥さんに『旦那を射止めた必殺レシピ』を、教えてもらう約束をしているので!」


 話が通じているようで、まったく通じていない。

 仕方がなしに説得を諦め、俺はピンスレットと二人で、村長宅へと向かうことにした。

 家から出るまで、背中にビシビシと、誰からかの視線が突き刺さる気がしながらだ。





 村長宅に着き、扉を開けてもらうと、夕食が終わって直ぐな頃なのに、村長は寝に入る直前のような格好をしていた。


「いやはや。歳を取ると、夜に寝るのも、朝に起きるのも早くなってしまいがちでしてな」


 俺の姿を見て、恥ずかしそうに弁明しながら、中に通してくれた。

 すると、ピンスレットは俺の腕から離れ、様子を見に来ていた村長の奥さんへと歩き寄る。


「こんばんは。あのレシピを教えてもらいにきました!」

「はい、こんばんは。振舞いたい人を連れてきてって言ってあったと思うけど……もしかして、あの男の人が?」

「はい! あの方と、生涯添い遂げる覚悟です!」


 女性二人が、なんだか不穏なことを話している。

 けど、聞かなかったことにして、村長さんと密談に入ろうと思う。

 村長さんも、自分の妻がはっちゃけている様子を見るのは嫌なのか、彼の自室に案内してくれた。


「それで、何用ですかな?」

「はい。つい先ほど、私たち――自由の神の信徒間で話し合いが行われていたのですが、その結果をお伝えしようと思いまして」

「話し合いの結果ですか。それはどのような?」

「村人たちも気にしている、遠征軍の噂が途絶えてしまった理由についての考察です」


 俺が先ほどと同じ話をもう一度語ると、村長は目を見開いて驚いた。


「まさか! 鉄で出来た森の木が、並んで移動するようと噂された、あの遠征軍が魔物に負けるのですか!?」


 あまりにも大きな声だったので、押さえてと身振りして、トーンダウンさせる。

 村長は、密談だと思い出したのか、ハッとしながら座りなおす。


「まさか、信じられない……」

「私も信じられません。でも状況の判断から、その線が濃厚だと思っています」


 ちなみに、信じられないと言ったのは、嘘だ。

 どんな屈強な兵士を並べても、指揮官が無能なら、実力の半分も発揮できない。

 無策かつ脳筋戦法で勝てるのは、実力と数の差が明らかな状況なときだけ。

 それは、ゲームでも現実でも変わらないはずだ。

 だから、総大将がマニワエドを指揮から外すと予想したとき、このぐらいの事態は想像できていたんだよね。

 もしかしたら、上手くやる可能性も合ったし、俺たちやこの村に影響が出るまで時間があったから、言わずに置いたけどね。

 さてさて、村長には俺の予想を、他の村々に伝えてもらわないといけない。

 けどそれは、他の村が危険だから、という理由だけじゃないんだよね。

 なにせ『他の村の村長に』ではなく『他の村に』伝える。

 つまり、他の村の村人が知るように、この村長に伝えてもらうんだから。

 そんな俺のちょっとした企みに気づかずに、村長は伝言を請け負ってくれた。


「分かりました。では早速、伝書鳥を使って、知らせようと思います。その後、この村の住民たちにも――」

「いえ、この村の人々に伝えるのは、待っていただきたいのです」

「――えっ?」


 不思議そうにする村長に、俺は釘を刺していく。


「あくまで、先ほど話したことは、私たちの予想です。他の村は対策など何もしてないでしょうから、念のために可能性の段階でも知らせておく必要があります。ですが、この村には、私たちがいます。先に語った状態になっても、私たちなら対応が可能です。なので、ここの村人を悪戯に恐れさせる必要は、まだないと思っています」

「は、はぁ。なら、いつ、知らせればよいと?」

「それは、遠征軍の噂がやってきたときです。そのときに実は予想して準備していたと、村長あなたが村人たちに語れば、尊敬を集めることに繋がるでしょうね」


 大半は、口から出任せだ。

 でも、村長は『尊敬を集める』という部分に、分かり易く反応した。

 きっと、最近は村人たちの関心が俺たちに向いていて、少し脅威に思っていたんだろうな。

 尊敬を集められれば、この村での村長の立場は揺るぎないものになる。

 その上、他の村にも事前に知らせを伝えている事実があれば、より説得力が増す。

 いやいや、知らせた他の村の村人たちからも、お礼を言われ尊敬を向けられるかもしれない。

 とまあ、そこまで考えているかは分からないけど、村長は俺の提案を受け入れてくれた。


「分かりました。この村の村人には知らせません。ですが、他の村の人たちには?」

「ご自由にどうぞ。むしろ、危険を知らせるのですから、広い範囲の人たちに伝えてくださいね。この村の人たちに関係ある人は、もちろん除いてです」


 うさんくさい笑みで念を押すと、村長は意気込んだ様子で手紙を書き始めた。

 その様子に、いったい何枚書く気なのやらと、ちょっとだけ呆れてしまった。

 熱中している村長は置いておくとして、この家を辞するために、ピンスレットを回収しないとね。

 村長の部屋を出て、ピンスレットの声がする方へ歩いてく。

 近づくにつれて、段々と良く声が聞こえてきた。


「――なるほど、必殺はいくつも用意しておくんだ!」

「そう、多重攻撃(色んな料理)ができてこそよ。一品だけ美味しくても、いつかは飽きられてしまうわ。それと、好きな人の弱点(好みの味付け)を知っておくのも大事。塩を一つまみ入れるか入れないかで、料理の印象はがらっと変わるわ。その一つまみで、大魚を逃した娘は多いのよ」

「でも、奥さまは」

「もちろん、一発必中。見事に、お腹を射抜いてやったわ」


 ……なんだか、物騒な言葉が羅列している気がするんだけど。

 この世界に来て初めて、謎翻訳機能が上手く働いていないんじゃいかって、疑ってしまいたくなった。

 あと、村長の奥さんに関わらせていると、なんだか怖い事態になるフラグが立ちそうだ。

 嬉しそうに講義を聴いているピンスレットには悪いんだけど、話を切り上げさせることにした。


「ピンスレット、用件は終わったので、帰りますよ」

「はい、分かりました。奥さま、ありがとうございました。まだまだ聞きたいことは、沢山ありますけど、今日はここでお別れです」

「はいはい。いつでも遊びにいらっしゃい。必殺技(一撃レシピ)は、まだまだあるからね」


 俺は不穏な言葉を聞いて、頬を引きつらせる。

 そしてしばらくは、ピンスレットと共に行動して、監視していた方が良いんじゃないかと、本気で頭を悩ませるのだった。


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