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自由(邪)神官、異世界でニワカに布教する  作者: 中文字
五章 枢騎士卿(カーディナルナイト)獲得に挑戦編
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百六話 噂話から、信徒を増やす方法を考えましょう

 各地を点々と移動しながら、布教のたびを続けていたところ、とある噂を耳にした。

 それは、とある村での治療の最中に、一人の噂好きと自称する老婆が、俺に語ってくれた話だった。


「遠征軍、ですか?」

「そうですよ、旅の神官さま。なんでも、ゴブリンの親玉を倒すために、森に入って戦う人を集めているとのことですよ」

「遠征軍は、誰が主導していることなのか、知っていますか?」

「そうですねえ。噂だと、僻地の神官が集めていたり、大きな街の偉い人が集めていたり、あやふやですねえ」

「……なるほど、ためになりました。はい、治療はお終いですよ」

「はいはい。ああー、腰と膝が軽くなりましたよ。ありがたいことで」


 俺を軽く拝んでから、噂好き老婆は立ち去っていった。

 気になる噂を耳にした俺は、この村で自由神への勧誘を行うことを一時中断し、仲間たちを全員集めることにした。

 合計で二十人ぐらいになる面々の中から、聴力に優れるダークエルフとエルフである、エヴァレットとスカリシアに話を振る。


「二人は、こんな噂話を耳にしましたか?」


 老婆から聞いた話を伝えると、エヴァレットとスカリシア共に、頷き返してきた。


「はい、耳にしておりました。ここ最近、よく流れるようになった話なようです」

「こちらも聞いています。でも、人によって話す内容にばらつきがございました。なので、トランジェさまにお伝えするほどのことではないと、判断しておりました」


 二人の話を聞いてから、周囲にいる他の面々にも視線を向けてみた。

 すると、半分ぐらいは知っているような反応を返してくる。

 これで、あの老婆のホラって線は、消えたな。

 なら、遠征軍がどこで編成されつつあるかを、予想してみようか。

 話を振るなら、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒の内情に詳しい、元・異端審問官助手のバークリステだろうな。


「バークリステなら、どこに遠征軍を置き、人を集めますか?」

「わたくしでしたら……軍を二つに分けて、召集を行いますね」

「軍を、分けるのですか?」


 元の世界のなんかの媒体で見た覚えがあるけど、軍っていうのはひとつにまとめて運用するものらしい。

 その方が、数の優位に立ちやすいし、結果的に被害を抑えられるのだとか。

 軍を分けて、伏兵を置いたり、回り込んで攻撃する部隊を作るなんて方法も、たしかにある。

 けどあれは、数で劣る方が勝ち目を生み出すために、仕方なくやるものだったはずだ。

 そんなうろ覚えの知識から、バークリステが軍を二つに分けるといったことに、ちょっと疑問を抱いたわけだ。

 すると、俺の疑問を見透かしたかのように、バークリステが詳細な考えを伝え始める。


「いいでしょうか。この時期に、遠征軍を作る目的は一つ、手段が大きく分けて二つになります」


 よく分からない説明の後で、バークリステは指を一つ立てる。


「まず、遠征軍を作る目的です。それは、ゴブリンによって荒らされた、各地の治安の回復のためです」


 つまり、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスの威光を知らしめる示威行為として、遠征軍を作って運用するわけか。

 なるほど、元の世界での、軍事演習みたいなものか。


「となると、手段が二つとはどういうことでしょうか?」


 俺が周囲の疑問を代弁するかのように言うと、エヴァレットが説明の続きをしてくれる。


「それは、遠征軍が姿を誇示する先が、二つあるということです。一つは聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒の人々、もう一つは彼らの言う異教徒や背教者たちですね」

「なるほど。要は、内と外の脅威に対して、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティスは揺るぎないものと示すわけですね」

「はい。そのどちらの行動も一度で済ませられる方法として、遠征軍を集める場所を二つに分けるのではないか。そう、わたくしは思うのです」

「そこまで説明されれば、後は私にも予想がつきます。片方は聖都ジャイティスから行進パレードし、もう片方はゴブリンのいる森の近くで訓練を先に積ませておく。ということですね?」


 エヴァレットが正解だと頷き、周囲の面々も理解した顔になった。

 一方で俺は腕組みして、エヴァレットの考えが妥当かどうかを考える。

 最近は、業喰ゴブリンの蜂起などで、安心と信頼が揺らいでいた。

 ここで軍の力強いパレードを行ったら、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒たちは、とても安堵することだろう。 

 これほど頼もしい存在が、我々を守ってくれるんだと、そう考えるからだ。

 そして、森に住むゴブリンを粛清して回れば、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒の敵ではないと宣伝できる。

 この世界は、電話やメールなんてない。情報伝達は口コミが全てだ。

 先に部隊を展開してゴブリンを殺しておけば、より早く多くの住民たちに、ゴブリンは敵ではないという情報が伝わることだろう。

 これでさらに、住民は安心し、聖大神ジャルフ・イナ・ギゼティス教徒の地盤が安定する。

 さらに、進軍してきたもう片方が合流して、さらなる戦果をたたき出せば、教徒の敵はいないと錯覚まで起こすことだろう。

 考えれば考えるほど、エヴァレットの回答は、完璧に近いものに思えた。


 ここで問題が一つ。

 それは、エヴァレットと同じ事を考える頭のいい人が、遠征軍のトップにいるかどうかだ。

 俺の勝手な偏見だけど、遠征軍を編成するような人は、権力欲は強いけど権力を握る能力がない、凡人か馬鹿だろうな。

 そして、そんな見栄っ張りな人が考えるようなことは、一つだけ。

 自分の力を誇示するために、他人を利用すること。

 今回の遠征軍の場合でなら、凡人や馬鹿は人々が噂しやすいように、集めた全部の人員を人口が多い町を狙って移動させるだろうな。

 となるとだ、エヴァレットの案と俺の案の、どちらが遠征軍の指揮官であっても、こちらの利益になるような策を考えないといけない。

 利益というのは、もちろん、自由神の信徒を増やすことだ。

 俺の案が当たっていた場合は、遠征軍の行軍速度が遅くなるはずで、対応する時間が作れると思うので、ひとまず棚上げしておこう。

 ここでは、エヴァレット案――賢い指揮官が率いていた場合についてのみでいいだろう。


「それでは、その遠征軍の活動を利用して、どう自由の神の信徒を増やすかを考えていきましょう」


 俺が議題を促すと、真っ先にピンスレットが手を上げた。

 その目は、俺の役に立ちたいと、言葉なくても雄弁に語っている。

 若干、嫌な予感がしつつも、彼女を指すことにした。


「では、ピンスレット。意見をどうぞ」

「はい! 遠征軍を、皆殺しにするんだ!」

「……それで?」

「え? それで終わりだよ? ゴブリンも皆殺しにした方がいいの?」


 キョトンとしながら、物騒なことをピンスレットが言う。

 業喰の神の信徒で、狂戦士だった影響が残っているのだろうか?


「あのね、ピンスレット。皆殺しにして、どうやって信徒の数を増やすのですか?」

「あっ、それもそうだった。えーっとね、怖がってくれたら、言うことを聞かせやすいんじゃないかなって、いまそう思いました!」

「ああ、えっと、うん。そういうことも、可能だとは思いますよ」


 ぽっと出の考えを言っているようだけど、ピンスレットの意見は、方法としてはありではある。

 遠征軍を壊滅させた腕前を見せびらかして、『自由神を信仰しなさいよ。しなきゃ死なすよ』って感じに、強権的な布教をするわけだ。

 でも、遠征軍が何人いるか知らないけど、少なくともここにいる二十人ばかりより多いに違いない。

 手間と時間と危険性を考えると、実現的じゃないため、却下することにした。


「でも、ちょっと難しいので、止めておきましょう」

「ええぇ~。いい考えだと思ったんだけどな~」


 俺に意見を突っぱねられて、ピンスレットは拗ねた。

 次の考えを聞かせてもらおうと、目を巡らす。


「では、次に考えがある人」


 呼びかけると、突拍子もない意見が一番先に出たからか、次々と他の人の手が上がった。

 ピンスレットのお蔭ともいえなくもないので、拗ねている彼女の頭を、俺は慰めで一撫でしてやることにした。

 ピンスレットは、飛び上がるほど驚いた後で、混乱した様子で俺がなでた場所に手を触れている。

 その姿が、寝こけていた猫が、人に触れられて驚いているように見えて、とても微笑ましく思った。

 それはさておき、考えを聞いて欲しそうに手を上げる面々を、一人ずつ指して話を聞いていくことにしようっと。


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[一言] 各地を点々と移動しながら、布教のたびを続けていたところ、 たび>旅
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