6話、恥ずかしさ、そして決心
魔法には詠唱文がある。
それはもう知っていると思うが、あれを言って魔法を撃つのは面倒な上に危ない。
そして、第一に恥ずかしい。
多分転生者なら絶対に思うことだろう、中二病だと。俺は中二病と呼ばれる部類の人間ではなかった……と、思っている。
ある程度一つ下の次元を嗜んではいたがそんなにやらかした覚えは無い。
そのためこの詠唱文が、恥ずかしくてしょうがないというわけである。
そこで俺はある事に取り組んでみるととにした。
それは『無詠唱』と言う技術である。
読んで字の如く、詠唱文を省き魔法を撃つ技術である。
「取り敢えずやってみるか。」
俺は、ライトの魔法で挑戦しようとした。
が、全く光が出てくる気配が無い。
その時初めて魔法を使った時のことを思い出した。
「あの時は確か………イメージすることで灯りが前に動いた様な……。」
それを思い出したので、前世のLEDライトのイメージで、魔力を放出してみると……見事にいつもより明るい灯りが目の前に浮かんだ。
「よし!これであの忌々しい詠唱文から解放されたぞ!!」
俺は拳を振り上げ喜んでいた。
それから5カ月程月日が流れ、俺はビーナスの光属性である治癒を覚えることに成功していた。
ビーナスの魔法からは一気に魔力消費量が跳ね上がり、その上独学での会得はとても難しかった。
だがなんとか成功させることが出来た。
俺の誕生日が明日に迫っていた時だった。
ついに、その日の夕方、大分お腹が大きくなってきていた母親ミラルの陣痛が、始まってしまった。
俺はクレイに抱きかかえられて一緒に助産師さんらしい人を呼びに行った。
帰ってくると母はとても辛そうな顔をしていた。
「逆子です!!このままでは母子共に危険です!」
子供の足が見えていた。そして血も出ていた。
クレイは顔を真っ青にしながら、ミラルの手を握っていた。
「誰か治癒魔法を使える人は?」
助産師さんは焦った口振りだ。
クレイもキャリルも魔法はマーキュリーしか使えないらしく、どれも焦っていた。
「俺が使える人を探してくる」
と言ってクレイが立ち上がった。
その時、俺は言うべきか迷った。俺ならミラルのことを治療出来る。
だがここで使ってしまうと……。
俺は考えた。どうすればいい?
「待って、父さん!」
クレイがこっちを向いた。
「俺が母さんと子供を助ける!今彼の者に豊穣の癒しを与えん。治癒!」
クレイとキャリル、それに助産師さんもとても驚いていた。
「なにをしてるんですか!早く母を!」
そしてなんだかんだで、日が変わり、真夜中になった時に、やっと産声が聞屋敷に響き渡った。