多重
待ち望んでいた筈の“未来”は
思っていたほど綺麗じゃなくて
焦がれていた筈の“世界”は
灰色に濁って光を失っていた
描いていた筈の“夢”は
いつのまにか現実に形を変えていて
この胸に巣食っていた“絶望”は
ただ一つだけ変わらず、其処に在った
『やっぱり』
『どうせ』
『『『変わらないんだ』』』
『…そうだろうと思ってた』
『知ってたよ』
『識ってたよ』
『分かってたんだ』
『理解ってたんだ』
『『でも、求めたかった』』
『見なければよかったね』
『描かなければよかったね』
『『夢なんて、希望なんて』』
『『『でも、仕方のないことなんだ』』』
『『だって、僕たちは』』
『『所詮ニセモノでしかないんだから』』
『『『『『『『こうでもしなきゃ、存在できない』』』』』』』
「…嗚呼、気が狂いそうだ」
狭い部屋で一人、呟いた
ボクの中に在る、かつて自身だったモノに語りかける様に
ただ一人、言葉を紡ぐ
「なぁ、ボクはどうすればいいんだろうな?
毎日毎日毎日毎日、四六時中お前らの声が頭から離れないんだ
なんなんだ一体?ボクにどうして欲しいのか、まったく見当もつかないよ
それともなんだ、ボクに何かして欲しいワケじゃないのかい?
…いい加減、疲れたよ」
そこまで呟いて、苦笑した
どうやら彼等は、仲間が増えるのが嬉しいようで
いつもより明るい声色で語りかけてくる
『疲れちゃったんだね』
『大丈夫なのかい?』
『じゃあもう此処においでよ』
『ほら早く早く』
『これからは一緒だよね?』
『さあ目を閉じて』
『すっごく嬉しいな』
『『『『『『『いらっしゃい、8人目の成れ果て』』』』』』』
脳内に響く声を聞きながら、目を閉じて暗闇に身体を委ねる
今回の人格は、精神面が少し弱かった
なら次はそこを強化しないとダメかな?
でも、強化しすぎると他の部分に影響が出るし…どうしたものか
いっそのこと、新しい人格を作らないで身体を手放してみるとかどうだろう
…うん、いいかもしれない
「…さーて、それじゃ……お別れ、かな?
バイバイだね。意外と楽しかったよ………なんて、ね」
最後に呟いて、意識を手放した
次はどんな人格が出来るのかな?
今度こそ、失敗作じゃないといいんだけどなぁ
…ま、別に関係無いんだけどね
『…あーあ、また失敗かぁ』
『もう大分増えてきちゃったね』
『そろそろ成功して欲しいんだけどなー…』
『ま、仕方ないよ』
『だって失敗作が作った人格じゃん?』
『失敗のが多いでしょ』
『はは、確かにそうだねぇ』
『でもさ、さすがにそろそろ』
『出来てくれても良いんじゃないの?』
『ボクもう飽きてきたよ』
『いつまで待てばいいわけ?』
『まあまあ、そンなにカリカリすンなって』
『いつかはきっと出来んでしょー』
『そのいつかが知りたいんじゃない?』
『もー、そうやって揚げ足取んなよ』
『…あ、また増えた』
『『『『『『『『『『『『『『『『いらっしゃい、新しい成れ果て』』』』』』』』』』』』』』』』
そうして仮面は増え続ける