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ぼっちの就活日記  作者: 五条ダン
第一章~五条ダン篇~
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ゴーストライター

 2013年03月12日(火)晴れ



 さーて、今日から真面目に就活するぞー!!


 と張り切ったボクは、さっそくヤフー知恵袋で就活のやり方を調べた。

 どうやら、リクナビやマイナビといったサイトに登録をすれば良いとのことだった。


 登録してみると、メールボックスに企業からのメールがどんどん届くようになった。


 これはすごいぞ! たくさんの企業がボクをヘッドハンティングしたがっている。これなら会社探しには苦労しないだろうとほっとして、午前中はニコニコ動画でアニメを観て過ごした。


『あいまいみー』というアニメで、かわいい女の子が「FX実況が見たいよー。FXであり金ぜんぶ溶かした人の顔が見たいよー」と言っていたのがとても面白かった。


 暗転したパソコンのモニターには、青ざめた男の顔が映っていた。



 もちろん、リクナビに登録した程度で満足するほどボクは馬鹿ではなかった。午後は大学に行き、就職課を訪れた。そして、「就職活動ってなにをすればいいんですか?」と聞いた。


 就職課のおじさんは「君、もしかして二年生? えらいねー、今のうちから準備をしておくのはすごくいいことだよ」と言って、就職活動の方法について丁寧に教えてくれた。


 褒められたボクは、鼻が高かった。ボクが今春、大学四年生になることは黙っていた。



 そのあと、大学の図書館に行き、就職活動に関する書籍を読んで、もっと勉強しておこうと思った。

『自己PR・エントリーシート文例集』『必勝! 内定獲得術』『就活の王道』など、役に立ちそうな本が棚一面に並んでいた。棚の一番隅に、真っ黒なカバーの本があり、興味を持ったボクは何気なしに手にとってみた。


 『就職先はブラック企業』というルポルタージュの本だった。"ブラック企業"というかっこいい響きに惹かれて、さっそくその本を読んでみることにした。



 読了後…………、就職なんて絶対にしないぞ、という気分になっていた……。




 家に帰ってからは、恋愛小説を書いていた。一応、ゴーストライターのバイトである。

「金のため」「金のため」と頭のなかで唱えながら、ボクは作中のキャラクターに「お金なんて関係ない! 愛さえあれば、どんな試練でも乗り越えられるさ。だから、結婚しよう!!」という台詞を言わせていた。


 まったく、皮肉なもんだなあ、と思った。『著者の気持ちを述べよ』なんて問題は、答えられるはずもないのだ。


 じつは、今回の案件に関しては、ボクの方からもクライアント様にいくつかの提案をしていた。

 たとえば、「主人公をナメクジにしたらいかがでしょう。きっと読者の受けはいいですよ」とか、「恋愛小説をご所望とのことですが、ラストシーンでゾンビを登場させて、みんな食べられちゃう、という展開にしてもよろしいでしょうか」などなど。


 残念なことに、提案は受け入れられなかった。

 クライアント様は、「こちらの提示するとおりのストーリーで宜しくお願い致します。代わりの者はいくらでもおりますので、もしご不満でしたらご辞退頂きますようお願い申し上げます」と、つれない様子だった。


 ゴーストライターは比較的レアなバイトだったため、ボクは「冗談に決まってるじゃないですか、是非、小生にお任せください!!」とバイトを引き受けた。



 ボクは、「己の快楽のため」もしくは「お金のため」にしか文章を書かない。お金のために書く文章は、不自由であっても割り切って書くしかなかった。


 その案件は文字数によって報酬額が決まるタイプのものだったので、ボクは主人公の名前を『グランデルマーク=ハイヤ・トルメイス・アリア』という長いネーミングにし、『かんじをできるだけつかわず、ひらがなやカタカナをおおく』して、必殺技を『超暗黒抹殺波動剣シュバルツバルター・イレイサー~具現せよ、混沌カオスの下僕たちよ!!』にしたりして、文字数を稼いだ。


 実際、クライアントであるAコンテンツ株式会社も、『質より量』で大量の作品を安価で買い集めてコンテンツとして、主に広告収入によるフリーミアムコンテンツ配信モデルで儲けようとしていたようだから、ボクの書いた作品など、まともに読んではくれないだろう。


 コンテンツ業界では、作品の質ではなく文字数によって評価されることが往々にしてある。速筆で大量に書ける物書きが重宝されるのだ。



 もちろん、いくら金のためとはいえ、そんな内容の薄い作品を読者のもとに届けるのは、良心の呵責があった。自称ライターを名乗る以上、自分の作品には責任を持とうと思った。


 だからこっそりとバレないように、物語のなかに一匹のナメクジを忍ばせておいた。



※Aコンテンツ株式会社は架空の企業である。ほとんど創作であり、内部告発や情報漏えいを意図するものではない。


※一時期、ステルスマーケティングが話題になったが、WEBライター募集の案件にはこういったものも多い。



 と、いうわけで、今日も一生懸命に就職活動をしたし、江安くんも安心してボクを見守ってくれているだろう。


 布団にもぐってウトウトとしかけていたとき、声が聞こえた。



「やあ、そろそろ僕の出番のようだね」




 (続く)


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