あまりにも甘い
2013年06月24日(月) 晴れ
前話のハローワークに行った回(6月10日)から二週間が経った。『ぼっちの就活日記』をあと五話で完結させるべく、話数調整と保険を兼ねて、実際の日時と投稿日時とのあいだにタイムラグを持たせた。
最終話に辿り着く頃には(複数社から内定を得たことに対する)《進路選択の機会》が生じるだろうと考え、章のタイトルを 『~岐路~』と名付けた。
ハローワークなら、内定のひとつやふたつ楽勝だろうと予測したのだった。
甘い――、あまりにも、甘い現状認識だった。梅雨明けの甘い新芽の香りに誘われてナメクジの親子が這い出てくるほどに甘かった。
先に弁明しておくと、新卒応援ハローワーク自体は、とても優れた行政サービスだった。ハローワークの職員さんは皆、親切な対応をしてくださった。求人票に疑問点があるときも、就活に悩みがあるときも、親身な助言をいただけた。
紹介状発行のときは、職員さんが企業採用担当者へ電話をかけ、雇用条件の再確認や面接日程の調整等を代行してくださった。
ハローワークのなかでは時間がゆっくりと流れており、不思議と心地よかった。室内にはクラシックっぽいBGMが流れていた。 営利を目的としない行政機関だからこその、まったりとした雰囲気である。
日本の財政再建のため『ハローワークを民営化しよう』との世論もあり、ボクもこの考えに賛成だったのだが、利用者にとっては民営化しない方が快適なのかなと思わなくもなかった。
ネット体験談では悪評の多いハローワークが、意外にも居心地の良い場所だったことは強調しておきたい。
(もっとも、ファーストフード店とは違い、地域や担当職員によってサービスの質は変わるかもしれないが…)
前話以降、ボクは二つの会社に履歴書を送った。
そしてどちらとも選考落ちだった。ひとつは書類選考で落ち、もうひとつは面接で落ちた。
書類選考で落ちた方は、以前にエントリーした有限会社 K園芸の企業分析の際に知った、同じ園芸系列の株式会社だった。他の園芸店にはない、ある特殊な植物を専門に扱う会社で、ボクはとても興味を持った。
気合を入れて志望動機と自己PRを書いて送ったものの、残念ながら書類選考で落選した。私立文系の学生がお呼びでなかった可能性もあるが、悔しかった。
二社目は、確実に内定を取るために半ば自暴自棄で応募した企業だった。募集職種は事務で、法務や経理とも関連した事業を取り扱う法人である。
確実に内定が取れると見込んだのは、雇用条件が悪いからであった。特定が怖いので詳しくは書けないが、月給・年間休日数・月平均残業時間・就業時間等を参照し、さすがにここまで厳しい雇用環境なら入社希望する人はいないだろう、と判断した。おまけに三ヶ月の試用期間付きであった。
そんなブラックじみた所にエントリーしたのは、汎用性の高いスキルが身につけられ、キャリアアップが期待できたからだ。法律事務にしても会計事務にしても関連する資格は多く、進路設計がしやすい。その法人で実務を磨き、将来は資格を取って独立開業を目指すのも不可能ではないと感じた。
面接では、法学の基礎知識を身につけたことをアピールするために、『法学検定』に合格した話をしたのだが、これがマズかった。
採用担当の方は、「はあ……法学検定、ですか……。よく存じないのですが、それはどのような試験なのですか?」と困惑したようすを見せた。
※『法学検定』
公益財団法人日弁連法務研究財団と公益社団法人商事法務研究会が共同で組織した法学検定試験委員会が実施する法学の知識を評価するための検定試験。
ベーシック〈基礎〉コース、スタンダード〈中級〉コース、アドバンスト〈上級〉コースの三つの難易度から選択して受験できる。スタンダードが標準的な法学部3年次程度の難易度らしい。
ボクは、制度改革以前に試験を受けたため、《法学検定3級》(スタンダード)という微妙な合格証書をもらったが、これのおかげで大学の特別単位付与が認められ、留年を逃れることができた。
択一式の試験で、公式の問題集を使って勉強しさえすれば、合格はさほど難しくない。(合格率は五割超)
ただし、アドバンスト(旧 2級)だけは別格の難易度とのうわさ。
法学検定の知名度はあまり高くないようで、採用においては『ビジネス実務法務検定』の方が有利かもしれない。
法学検定だけではマズイと感じ、さらに学生時代に法学の勉強を頑張ったことを強調した。
――が、話の流れで必然的に、
『弁護士(法科大学院への進学)をあきらめたこと』
『司法書士試験に落ちたこと』
『宅地建物取引主任者試験に落ちたこと』
を説明する流れになり、結局、面接官の心象をますます悪くした。
(しまった…これなら初めから何も言わない方が良かった…!)
面接の最後の方はしどろもどろの苦し紛れで、思い出すだけでも気が塞ぎ、ミミズと一緒に穴の中に潜りたい心境になった。選考落ちの電話が来たときには逆にほっとしたくらいだった。
就職活動をつうじて、わたしは本当に成長できるのだろうか。
自分が何をしたいのか、何を為すべきなのか、何をしているのか――、だんだんと分からなくなってきた。
「五社落ちた程度で弱気になっちゃいけないよ。他の学生は、何十ものお祈りメールを受け取ってもなお、必死に就活を続けているんだ。資本主義世界を生きるとは、そういうことだ」
江安くんが真面目な口調でたしなめる。
「たしかに、ボクは就職活動を甘く見ていた。あまりにも甘い……」
もしもこの日記の読者さんに大学三年生の方がいらっしゃるなら、今のうちに将来のことをよく考え、準備を整えたうえで就職活動に臨んでほしい――。
『就活はスタートアップが大切だよ』というアドバイスを届けたい。
その言葉はブーメランとなってボクの後頭部に突き刺さった。
ぼっちの就活はまだまだ (続く)




