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ぼっちの就活日記  作者: 五条ダン
プロローグ~人工精霊タルパ篇~
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きのこたけのこ戦争


 2013年03月06日(水)晴れ



 昨日は会社説明会という難易度の高いミッションをクリアしたため、今日は一日中気が抜けてほわほわとしていた。


 午前中は、某インターネット巨大掲示板(通称:2ちゃんねる)にて、『きのこの山』と『たけのこの里』どちらが美味しいかを巡って戦争をしていた。第5432次きのこたけのこ戦争である。


 ちなみにボクは『たけのこ派』である。しかし、今日は『きのこ派』のイメージを崩落させるため、わざと『きのこ派』を装い、『たけのこ』の悪口をたくさん書き込んでやった。


 『たけのこ派』の人から、「お前を名誉毀損で訴えてやる」とレスされたので、ボクは恐怖に慄いていた。


 最終的には『アルフォートが一番うまい』ということになり、戦争は無事終結した。ボクはまたひとつ世界を救ったのだ。



 12時頃にようやくベッドを抜け出し、パジャマから普段着に着替えていたら、母が「あら、ずっと部屋に引きこもって……何していたの?」と心配して聞いてくるではないか。


 ボクは胸を張って「グループディスカッションのトレーニングだよ。忙しいんだから邪魔しないでくれるかな」と答えた。母は申し訳なさそうにそそくさと買い物に出て行った。



 13時頃、証券口座を確認してみると、なんと先日購入したM化研の株価が5%も下落していた。Yahoo掲示板には、『機関投資家の投売りに違いない』『これで悪材料が出たらインサイダーじゃないのか?』など、不安の声が書き込まれていた。


 ボクも不安になってきて、結局、M化研は4万6千円の損失を出して損切りした。『損切り』とは、手持ちの株式を売却して損失を確定させる行為のことを指す。



 ところで、ここで少し例え話を出してみたい。



 あるところに、男がいた。男は道で、財布を落とした。財布のなかには、5万円が入っていた。財布は見つからず、男は悲しみに暮れて家路についた。


 一方、あるところに、別の男がいた。男は投資家で、100万円の株式を持っていた。その株式は5%値下りし、男は5万円の損失を出して損切りをした。その後、その企業の株価はさらに10%下落した。男は大喜びし、先見の明でロスカットを決断し、損失をたったの5万円で抑えたことを仲間の投資家に自慢した。



 どちらの男も、5万円をドブに捨てたわけである。しかし一方は気落ちし、もう一方は自信高々になる。これが株式投資の恐ろしいところだ。株式投資は金銭感覚を麻痺させる。


 事実、ボクも(ああ、4万円ちょっとの損失で済んで"良かったな")などとこのとき思ってしまったのである。



※注記:M化研は実在しない、架空の企業である。

※注記:4万6千円は実在する、現実の損失である。(ただし、株価や値下り率は嘘設定なので、くれぐれも証券会社のツールでスクリーニングをしてボクの買った銘柄を特定するのはやめて頂きたい)



 午後はとにかく、小説を書かねばならないと思った。受賞して賞金を手に入れさえすれば、しばらくは就職活動をしなくても生きていけるからだ。モラトリアムのために、ボクは手段を選ばない。


 経済的合理的に行動しようと、数多く存在する新人賞・文学賞の賞金の期待値を計算して比較考察していたら、いつの間にか日が暮れており、原稿はちっとも進んでいなかった。


 ちくしょう、今日ボクはいったい何をやっていたんだ!!



 トイレに廊下へ出ると、母と出くわす。母は一日中部屋に引きこもっていたボクを怪訝な目で見つめた。


「あ、母さん、ボク……今日はパソコンで適性検査を受けていたんだ。まったく、IT化時代の就職活動は大変だよ」


 母はボクの説得に安心したらしく、無言で居間へと戻っていった。



 日雇い派遣のウェブサイトをネットサーフィンしながら、将来の暗い先行きに溜息をつき、今もこうして憂鬱にきのこの山を食べながら日記を書き、きのこの山とビールは相性がいいなと思った。


 日本の未来のために何ができるだろうか、考えていたら不意に眠気に襲われ、ボクは床に就いたのであった。



 (続く)


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