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ぼっちの就活日記  作者: 五条ダン
第一章~五条ダン篇~
13/48

意識の高いボク

 2013年03月16日(土)晴れ



 モザイクロールを熱唱する夢で目が覚めた。「愛したっていいじゃないか!」と叫ぶ自分の寝言に起こされた。びっくりした。誰かを愛せる日が来るといいなと思った。


 時刻は午前四時だった。ニコニコ動画で、リトルバスターズというアニメを観た。素晴らしかった。感動して、パソコンの前にひざまずき、何度も手を合わせて拝んだ。棒立ちする木の役でもいいから二次元(アニメ世界)のなかへ入りたいと思った。


 午前五時から九時までは、お金のための文章を書いていた。6,000文字ほど書いた。原稿を納品したら、クライアント様がとても喜んでくれたので、なんだか報われた気持ちになった。いつもは金に目がないボクも、この瞬間は純粋に嬉しかった。

「報酬を2倍にしていただけませんか?」と提案したら、「じゃあスマイル2倍で。^^ ^^」と返ってきた。笑顔が怖かった。


 その後はピアノの練習をした。猫踏んじゃったを10ループしたところで、母が「もうやめて!」と絶叫した。



 午後はネットサーフィンで、『就活をしない学生』について調べていた。話によると、内定を取るために100社近くにエントリーしてスケジュール帳を真っ黒にしている学生がいる一方で、リクナビに登録さえしていない意識の低い学生がいるようだ。就活が二極化しているのではないかとの意見もあった。ボクはリクナビとマイナビに登録をしたし、M化研への会社説明会にも行ったから中間層だなと安心した。


 そのほかは、雇用契約と業務委託契約の実務上の違いなどを調べていた。業務委託契約で働く人を募集する求人情報もいくつかあった。しかし、『営業開拓』といった文字が多く見受けられ、現実は甘くないなと悟った。何社か調べてみたが、事業モデルから見てもブラックなところが多々あり、寒気がした。非上場企業は、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書を公開してくれない会社が多いので、企業分析が難しい。ウェブサイトのソースを分析したり、判例データーベースで企業名を検索して恐怖に震えるくらいのことしかできなかった。


 就職活動は、難しい投資だなと思う。株式投資であれば、必要最低限の情報は開示ディスクロージャーされているし、仮に投資した企業が倒産したとしても、出資したお金を失うだけで済む。

 一方、就職活動は、就職先の対象となる企業の99%が非上場企業で、財務状況や事業内容を調べようと思っても判断材料が得られない(情報の非対称性が生じる)ケースが多い。入社した企業が倒産したときは、自身の生活が脅かされる。したがって、経営破綻のリスクが低く、成長性のある会社を選択し、入社するのが最も合理的だ。しかし、そういった企業には人気が集まり、就活生同士が高い倍率のなかで内定の座を巡って争う。学歴シグナルやコミュニケーション能力なしで勝負を挑んでも敗北は目に見えている。とはいえ、どんな学生でも採用する(入りやすい)企業では得てして逆選択が生じ、学生側が不利に立たされるだろう。

 つまり、人的資本ヒューマン・キャピタルの少ない学生にとって、就職活動はハイリスク・ローリターンの賭けとなる。では、能力の低い者が、良い企業に入るためにはどうすれば良いのだろうか。例えば、自己資金の少ない投資家が、自己資金よりも株価が高額な銘柄(企業)を買うときは、信用買いといった手段を用いる。信用買いを使えば、証券口座に100万円しかなくても200万円の株式を売買することができる。実質的には証券会社からお金を借りることで信用買いは可能となる。

 この信用買い制度を人的資本に適用することはできないだろうか。人的資本、つまり地位や能力を貸し借りするのだ。果たしてそんなことが可能だろうか――。


 あれ、これは小説のネタにしたら面白そうだな。と考えていたらあくびが出た。

 あくびをしたら何を考えていたか忘れてしまった。


 何だかとても意識が高いところにあった気がする……まあいいか。



 夜、おばあさまから電報が届いた。『シサツニイキマス』とあった。

 刺殺に行きます、いや視察に行きます、か。どちらにしても怖い。ボクがあまり積極的に就職活動をしていないのがバレたのかもしれない。


 明日からは何らかのアクションを起こさなくてはいけないな、という漠然とした使命感、不安感、焦燥感に包まれて、ボクは眠りについた。



 (続く)


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