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爽やかな風が、薄いカーテンを揺らすある日の午後。

 少女は窓辺近くの長椅子に静かに腰掛けていた。淡い金の髪は風にふわりと舞い、その細い髪が光の糸のように見える。ブルーの瞳は、机に向かう1人の男に向けられていた。


 髪にも髭にも白いものが目立つ、老人といっていい年恰好だ。

 彼は先程から手元を見つめ、熱心に作業を進めている。


 室内には、ときおり鳥の声がする以外、木を削る音だけが響く。


 少女はウサギのぬいぐるみを抱き、その音に耳を傾けながら、彼の様子をじっと眺めていたのだが、ふいに小さくため息を吐く。


「つまらないわ」

 呟くのではなく、老人の耳に届くよう、はっきりと大きな声で言った。


 果たして、少女の言葉は老人の耳に捉えられ、その涼やかな声音に答えが返される。


「ああ、すまない、シルフィー」

 彼は椅子からゆっくり立ち上がると、少女の傍へ歩を進める。

 長椅子の前に膝をつき、目線を合わせると

「足は大丈夫か? 痛まないかい?」

これ以上ないほどの、やわらかな笑みを浮かべて問いかけた。

「痛くないわ。ただ、退屈なだけ」

 老人の瞳をまっすぐに見つめて、シルフィーはさらりと答える。

 その目をはずし、老人は少女の右足に視線を落とすと、苦いものでも飲み込んだような顔をした。


 彼女の右足は、左足とは異なっている。膝から下は「木」である。それは老人が少女に合わせて作り上げた義足だ。よくできてはいるが、不自由であることに変わりはない。


 老人は繊細なガラス細工に触れるように、そっとシルフィーの右膝に手をのせると、

「すまない……すまない、シルフィー」

吐き出すように謝罪の言葉を口にした。

 俯いたままの老人に、シルフィーはいぶかしげに問いかける。

「どうして、あやまるの?」

 彼女は義足となった理由を知らない。いや、忘れてしまっているのだ。

「あぁ……シルフィー。お前が思い出してくれたら! 私は……私は絶対にヤツを見つけ出して!!」

 老人の声が、見えない相手への怒りに震えた。

「ねえ、どうしたの?」

 愛らしい声が、今まで以上に近くで聞こえた。シルフィーが横から顔をのぞき込むようにしている。

「……大丈夫。なんでも……なんでもないよ」

 取り繕うように笑って見せると、シルフィーの頭を優しく撫でながら老人は言う。

「退屈なら……そうだ! お話をしてあげよう」

 言いながら少女の横に座り直す。

「お話? どんなお話をしてくれるの?」

 シルフィーは期待に満ちた目を向けた。

「少し可哀相なお話だよ。とても仲の良い恋人たちの話さ……」

 少女の顔が眩しいかのように目を細めると、老人は語り始めた。

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