第4話
その日の放課後、卓也は担任の高橋に呼び止められた。
「上杉、このあと視聴覚教室で待っててくれ」
「何のようですか?」
「後で話すから」
「わかりました」
担任の言葉を怪訝に思いながらも、卓也は言われたとおり視聴覚教室に行った。教室にはすでに二人の生徒が待っていた。
卓也は後ろのほうの席に座り、高橋を待った。
先に来ていた二人とは同じクラスであったが卓也はあまり知らなかった。
だから話し掛ける気にはらなかったが、二人はこちらを見ながらひそひそと話している。
それが卓也は気に食わなかった。
その内に日も傾いてきて夕日が室内をオレンジ色に染めた。
卓也もそろそろ痺れを切らしていた。その時、教室のドアを開け高橋が来た。
「すまんな、遅れて」
高橋はそのまま教壇に立ち、話し始めた。
「集まってもらった理由がわかるか?」
卓也は心当たりもなく、黙っていると高橋は話を続けた。
「集まってもらったのは佐伯の自殺のことについてなんだ」
卓也は動揺した。
もう担任まで話がいってるのかと思った。他の二人も明らかに動揺していた。
「先生、俺たちとそのことがどういう関係があるんですか?」
卓也は高橋に詰め寄った。しかし、高橋はなだめるように言った。
「言いにくいことなんだが、お前たちが佐伯のあとを追おうとしていると聞いたんだ」
卓也も他の二人もそれを否定しなかった。
高橋はさらに三人に、
「お願いだ。そんなことはしないでくれ。馬鹿なこと考えないでくれ」
と言った。
すると今まで黙っていた二人のうち一人が口を開いた。
「もう遅いんです。約束したんですから。もうそろそろ迎えにくると思います」
卓也は何を言っているのかわからなかった。
約束って何のことだ?迎えにくるって?考えているうちに嫌な答えに辿り着いた。
あの佐伯の遺書…あれは、俺に当てたものじゃなかったのか?この二人にあてたものだったのか?卓也は急に自分が醒めていくのを感じた。
風が変わった。
いやな空気が窓からはいってくる。その窓のほうを指して二人が言った。
「ほら、来た」
卓也は窓のほうを見た。
そこには何かが立っていた。
それは卓也もみたことあるものだった。
いや人というべきか。
佐伯静江がそこにいた。卓也の頭は混乱した。俺は幽霊をみてるのか?
佐伯への、死への憧れなどもうそこにはなかった。
佐伯は手招きをしている。
それに導かれるように二人は窓のほうに寄っていく。
それを制止しようとする高橋。
やがて制止を振り切り、二人が視界から消えた。
卓也の目にはすべての光景が映画のように映っていた。
現実とは思えなかった。
いや、思いたくなかった。
目の前で二人の人間が死んだ。
そのことについては何の感情も沸かなかった。
ただ虚無が広がるばかりだった。
しかし、すぐに恐怖が芽生えてきた。
佐伯がまだそこにいた。まるで卓也を呼んでいるかのように。
「来るなー!」
卓也は叫んで教室を飛び出した。