第三話
外はもう明るくなっていた。
夜が明けても興奮は収まらなかった。
卓也は一晩中、佐伯静江のことを考えていた。
まるで夢の中にいるようだった。
「卓也、朝ご飯よ」
卓也はその母の声で一気に現実に引き戻されてしまった。
少し興醒めしながら階段を降りそのまま朝食の席についた。
「今日、学校あるの?あんなことの後なのに」
「朝に説明かなんかするんじゃない?」
卓也は食事を済ませると急いで支度をし、学校へ向かった。
案の定、通学路では昨日の事件で持ちきりだった。
みんなが噂をしている。
卓也は自分だけが佐伯のことを知っていると思い込み、優越感に浸っていた。
「卓也おはよー。見たよな?昨日のニュース。今朝もすごかったぜ、カメラとか来てないかな?」
明雄が興奮気味にまくしたててきた。
卓也は笑みがこぼれるのを押さえて平静を装った。
「見たよ。すごいな」
「何で自殺なんかしたのかね?俺には全然わからないよ」
卓也は、それはお前なんかにはわからないだろうと思い、そんなことも解らない明雄に軽い軽蔑さえ覚えた。
そして、つい言ってしまった。
「俺はよく解るよ」
「嘘だろ?お前おかしいんじゃないの?」
卓也は明雄のこの返事にカッとなってしまった。
「お前は死にたいって思ったことないのかよ!?」
卓也の強い口調に、明雄はたじろいで話題をかえようと必死になった。
そんな明雄を見て、卓也も我に返り明雄と他愛もない話をしているうちに学校へと着いた。学校では朝から全校生徒を集めて、校長が説明を行なっていた。
故人の冥福を祈り、教室へ戻ると卓也の周りの生徒が急に避けるようになっていた。
朝の明雄とのやりとりを同じクラスの生徒に見られていたのであるらしかった。
卓也は元来そういうことを気にするたちではなかったが噂はすぐに学校中に広まった。
死にたがりの卓也として見られるようになった。