第9話:ドワーフの村ときゅありんぐ?
「……よし。村長、上出来だ。魔法抜きでも、だいぶ甘い『ベニ・ハルーカ』になったな」
掘り出したばかりの芋を割り、その品質を確かめて僕は深く頷いた。 僕の魔法がなくても、この土地と人々の手で、この品質が維持できることが証明されたのだ。
「ようやく、一つのビジネスモデルが形成されたか……。この村は、この芋を武器に、これからどんどん発展していくだろう」
僕の独り言に、村長は涙を浮かべて「勇者様、勇者様!」と何度も叫びながら、地面に額をこすりつけて頭を下げた。 ……勇者、か。僕はただ、利益と持続可能なスキーム(仕組み)を作っているだけなのだが。
だが、経営者の仕事に「安心」という文字はない。僕は隣のアイリスに視線を向けた。
「アイリス、一つ確認したい。この土地にも、凍えるような寒さが来る時期はあるのか?」 「……いや、この近辺であれば、降雪するほどの寒さにはならない。氷が張るようなことも稀だな」
アイリスの言葉に、僕は手帳をめくる手を止めた。
「『稀』ということは、起こる可能性がゼロではないということだな。さつまいもは10度を下回れば腐り始める。温度、湿度を管理する貯蔵庫を作り、翌年の伏せ込み(苗作り)のための種芋を守る倉庫を建てる必要がありそうだ」
「倉庫……ですか?」
「ああ。現代では**『キュアリング』**という工程を行うんだ。収穫直後の芋を高温多湿の環境に置くことで、傷を自己修復させ、保存性を飛躍的に高める。……だが、この世界でそんな精密な管理ができる施設を作れるだろうか」
僕が腕を組んで考え込むと、アイリスが解決策を提示してくれた。
「……それならば、隣の街に住むドワーフたちに相談してみるのはどうだろうか? 彼らは石工と熱管理の達人だ。貴殿の望む『きゅありんぐ』とやらを実現できる者がいるかもしれん」
「ドワーフか。……面白い。外部の技術者との共同開発か」
僕はスーツの襟を正し、まだ見ぬ異世界のエンジニアたちとの商談に向けて、胸の高鳴りを感じていた。
アイリスに案内され、僕たちは隣町のドワーフ居住区へと足を運んだ。 周囲には金属を打つ音と、熱気が立ち込めている。だが、そこにいたドワーフの技師長は、僕の提案を聞くやいなや鼻で笑った。
「温度管理だぁ? キュアリングだぁ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねえ。俺たちの火をそんな得体の知れねえ芋のために貸せるか。……あーあ、仕事の後の『一杯』でもありゃあ、話は別なんだがな!」
ドワーフたちは口々に「酒だ! 酒を持ってこい!」と騒ぎ始めた。 僕はそれを見て、ふっと口角を上げた。やはり、昔見たアニメの知識通りだ。彼らという種族は、技術と酒には目が極端にない。
(ドワーフの熱管理技術と、僕の『ベニ・ハルーカ』……。これなら「アレ」が作れるはずだ)
「アイリス、この国では酒を飲む習慣はあるのか?」 「……もちろんあるが、ビールやワインなどは極めて希少だ。上流貴族や王族が、金貨を積んでようやく口にできる代物だぞ! 私のような騎士でさえ、祝辞の際になんとか舐められる程度だ」
アイリスの言葉に、僕は勝利を確信した。




