第40話:やっぱりみんな勇者が好き
(確かに……。私はツトムに守られて、美味しいものを食べさせてもらって……そればかりだった)
ルカの拳から力が抜けていく。
(私は……『愛するアイリス』と呼んでもらうことばかりを期待して、ツトム殿が何を欲しているか、考えたことがあっただろうか)
アイリスが自身の不甲斐なさに、騎士としての矜持すら揺らぐのを感じる。
(俺もだ。あいつの知識を借りるばかりで、あいつがどれだけ無理をしてたか、気づいてやれなかった……)
グライザは、ひしゃげたレンチを地面に落とした。
「私たちはいつも、自分のことばかり……。ツトムには、何も……何一つ、ご褒美をあげられていなかったわ……」
ルカがぽつりと呟いた。 まさか、今日会ったばかりの新参者であるハルに、自分たちの至らなさを突きつけられるなんて――。
三人の心に、嫉妬の炎を飲み込むほどの、複雑で痛切な「後悔」と「動揺」が広がっていく。 ハルの決意に満ちた瞳の前に、三人はもはや、言葉を返すことができなかった。
3人が自分たちの至らなさに動揺し、思考停止している隙をハルは見逃さなかった。
「……今でありんす」
ハルは音もなくツトムの部屋に滑り込み、彼が眠るベッドの横へとモゾモゾと潜り込んだ。
「元気になるでありんすよ、ツトム……」
ハルが艶やかな吐息とともに魔力供給を試みようとしたその時、背後から「待った」がかかった。
「……やっぱり、なんかそれは違うと思うの!」
「左様だ! ハル殿一人にご褒美を独占させるわけにはいかん!」
「俺たちだって、もらってばかりじゃないんだからな……!」
ルカ、アイリス、グライザの3人が、ハルの独走を阻止すべく部屋になだれ込んできた。しかし、今夜の彼女たちは一味違った。ツトムを追い出すのではなく、ルカがどこからか予備のベッドを運び込み、強引に連結させて巨大な寝床を作り上げたのだ。
(魔力供給なら、手を繋ぐだけでもできるわよね……?)
ルカは顔を真っ赤にしながらも、眠っているツトムの手をそっと取り、指を深く絡めて握りしめた。他の面々も、ツトムを囲むようにして添い寝の体制に入る。
翌朝。 差し込む朝日に目を覚ましたツトムは、自分の体に感じる「異常なまでの重量感と温もり」に困惑した。
「……ん、えっ? なんで、みんな僕の部屋に……!?」
パニックになりかけ、跳ね起きようとしたツトムだったが、ふと自分の体の異変に気づいた。
「なんだか……体が、驚くほど軽い気がするな」
4人分の魔力が一晩中流れ込み続けたおかげで、蓄積していた疲労は完全に消失し、細胞のひとつひとつが活性化しているようだった。 驚くツトムの隣で、繋いだ手を離さないまま、ルカが眠たげな瞳をゆっくりと開いた。




