第37話:魔力供給で最高の土
「イモジョウチュウの人気が凄まじくてな。王都から追加の注文が山のように届いてるんだ。今の収穫量じゃ、とてもじゃないが追いつかねえ!」
「ツトム、手を貸しておくんなんし」
ハルが艶やかに微笑み、その白く細い指先をツトムの手に絡めた。ぎゅっと繋がれた指、重なる手のひら。そのあまりに自然で密接な様子に、ルカ、アイリス、グライザの3人が「いきなり何をしているんだ!」と弾かれたように前のめりになった。
「ちょっとツトム! それはもう、業務の範囲を完全に超えてるんじゃないかしら……!? そうじゃないのかしらっ!セクハラよ!セクハラ!!」
ルカが顔を真っ赤にして詰め寄れば、アイリスもまた悲壮な決意を込めて叫ぶ。
「ツトム殿! 愛する私とも、そんな風に手を繋いだことなどないではないか! 不埒だ、あまりにも不埒すぎるぞ!!」
そんな二人の剣幕をよそに、グライザが鋭い視線をハルへと向けた。
「……魔力を共有することで土の質を良くする、って理屈はわかる。だがな、ハル。魔力のパスを繋ぐだけなら、手を握る以外にも他にやり方はあるんじゃねぇか?」
グライザの至極真っ当な、しかし殺気のこもった指摘にも、ハルは柳に風と受け流す。
「おんや、これが一番早くて確実でありんすよ。それに……ツトムの温もりを感じている方が、わっちの精霊たちも喜ぶのでありんす」
そう言って、ハルはさらにツトムの手を強く握りしめた。
「ツトム、魔法を使っておくんなんし。わっちの力と合わせれば、きっといい土になりんす」
「あ、ああ……分かった。『カルチ』! 『リージング』!!『マルゥ』!!!」
ツトムが呪文を唱え、魔力を大地へ流し込んだ瞬間、彼は異変に気づいてマルチングをするのをやめた。
「なっ……待て。土の輝きが、いつもと全然違うぞ!?」
掘り起こされた土壌が、まるで生命を宿したかのように黄金色の光を帯びていたのだ。 繋がれた手から、エルフの精霊魔法がツトムの魔力と溶け合い、大地へと染み渡っていく。
「弱酸性で、さらに驚くほどフワフワだ……! 僕だけの力じゃ、短時間でここまで完璧な状態にはできない。これは……過去最高に良い土だ。これまで以上の傑作が収穫できるぞ!」
農業を愛するツトムにとって、この「最高の土壌」は何よりも代えがたい喜びだった。
「ハル! すごいぞ、ハル!! 君の力は、僕の魔法を何倍にも引き立ててくれるんだな!」
感動のあまり、ツトムは無意識にハルの手を握り返し、
(ずっとこのまま手を繋いでいたい)とすら思ってしまう。 だが、その至福の瞬間は、再び訪れた「異変」によって打ち砕かれた。
(……まただ。背後から、さっきまでとは比較にならないほど、絶対零度の『何か』が……)
恐る恐る振り返ると、そこには――。 ルカの拳には青白い火花が走り、アイリスの剣からは鞘鳴りが響き、グライザの持つレンチはすでに原型を留めていなかった。
「「「…………(殺気)」」」
「効率」と「成果」を盾に、堂々とツトムを独占するハル。その圧倒的な「正妻候補」感に、3人の忍耐はついに臨界点を迎えようとしていた。




