第33話:デートのお約束
「ハルさん! とりあえず、他のエルフたちにもこれを食べさせて魔力を回復させてあげましょう。一刻を争うはずだ!」
ツトムは必死に冷静さを装い、ハルを優しく、しかし確実に引き剥がした。
「そうかぇ……。ツトムがそう言うなら、そうしようかぇ」
名残惜しそうに腕を解くハル。その様子を見届けて、ツトムは背後の三人に声をかけた。
「よし! 他のエルフたちにもベニ・ハルーカを配布しに行くぞ!」
だが、返ってきたのは、凍てつくような沈黙と不貞腐れた視線だった。
「……ふん。もうツトムの言うことなんて聞いてやんないんだから。勝手にエルフさんと仲良くしてればいいじゃない」
ルカがぷいっと横を向き、露骨にいじけている。
「『愛するアイリス』……あの言葉は、その場限りの嘘だったのであろうか。私は悲しいぞ、ツトム殿」
アイリスが今にも泣きそうな顔で剣を杖代わりに地面を突けば、グライザも呆れたように吐き捨てた。
「ツトム。いくらなんでも、あそこまでくっつかれて鼻の下を伸ばすのはやりすぎだぜ」
(……これは、相当根が深いな)
ツトムは覚悟を決め、究極の提案を繰り出した。
「わかった! 今回のエルフの森の案件が終わったら、王都へ報告に行く。その時に、みんなでお出かけする時間を……たっぷりと設けようじゃないか」
その瞬間、現場の空気が一変した。
「ツトム! 今、言ったわね!? 確かに言ったわよね!!」
ルカが弾かれたように顔を上げ、瞳に希望の光を宿す。
「ツトム殿、それは……世に言う『デート』ということで相違ないか!?」
「俺と現代の道具を作るために、じっくり付き合う時間をくれるってことだな?」
「あ、ああ。まあ、そういうことだ!」
ツトムが頷くやいなや、三人は凄まじい勢いで立ち上がった。
「さぁ、そうと決まればさっさとこの森を救うわよ! 邪魔するやつは火あぶりなんだから!」
「騎士の誇りにかけて、迅速に任務を完遂してみせる!」
「効率だ。一秒でも早く終わらせて、王都へ帰るぞ!」
さっきまでのどんよりした空気が嘘のように、三人はフル稼働で焼き芋の配布と開墾のサポートを開始した。その猛烈な働きぶりに、ハルさえも
「おんやぁ……主の仲間は、実にお盛んなことでありんすねぇ」
と目を丸くしていた。
ベニ・ハルーカの驚異的な魔力供給により、エルフたちは次々に活力を取り戻していった。
「精霊よ、再びこの地に慈しみを……」
エルフたちが本来の魔力を取り戻し、祈りを捧げると、彼らの魔法によって土壌が浄化され、枯れ果てていた枝からは瑞々しい新芽が吹き出した。
少しずつ、だが確実に森に緑が戻っていく。 その光景を眺めながら、ツトムは独り、拳を固く握りしめていた。
(……だが、これだけじゃダメだ。やはり魔王を討ち果たさねば、根本的な解決にはならない)
今の自分には、まだ経験も、実力も、仲間も足りない。自分がこうして一つの森を救っている間にも、世界のどこかでは貧困と飢餓に苦しむ民がいるはずだ。ツトムの胸に、己の無力さへの悔しさが滲む。




