第31話:エルフの族長・ハル
「どうした!?」
ツトムがドワーフの御者に声をかけると、震える声が返ってきた。
「ま、前方に弓を構えたエルフたちがいて……これ以上は走れません!」
ツトムはすぐに馬車を降り、凛とした態度で前を向いた。
「王都サイラスからの要請を受け、ここへ参った勇者ツトムだ! 敵意はない、道を開けてくれないか」
その言葉を聞くと、木々の間から姿を現したエルフたちが、静かに弓を下ろした。
「これは……失礼いたしました。しかし、この森は精霊の加護に守られており、道を知らぬ者は永遠に辿り着けぬようになっているのです。勇者様とお見受けした今、私めがご案内させていただきます」
一人のエルフが恭しく一礼する。その透き通るような美しさに、背後の馬車の中から「……チッ」という舌打ちのような音が微かに聞こえたが、ツトムは気づかないふりをした。
「助かる。案内をお願いする」
エルフの先導により、閉ざされていたはずの深い森の奥へと、一行の馬車は再び進み始めた。
案内をしてくれたエルフに、ツトムは丁寧な礼を述べた。
「案内ありがとう。もしよければ、この街を束ねる長のもとへも、取次をお願いできないだろうか」
「もちろんでございます、勇者様」
快い返事をもらったツトムは、感謝のしるしとして、アイテムボックス――異空間から自在に物を出し入れできる魔法の収納――から、ベニ・ハルーカを取り出した。 最初は戸惑っていたエルフだったが、一口食べるとその瞳を大きく見開いた。
「お芋……これが? こんなに甘くて、とろけるような食べ物は、森の果実でもお目にかかったことがありません……!」
エルフの顔には久々の笑みが浮かんだが、ふと周囲を見渡せば、街全体に活気がないことにツトムは気づいた。
「ここが族長の間です。私のお役目はここまでとなります……」
エルフが去り、一行が重厚な扉を開けると、奥から聞き慣れない独特な声が響いてきた。
「おんや。主さんが、巷で噂の勇者殿でありんすか?」
姿を現し、中央の台座にゆったりと腰を下ろした女性。
「わっちはエルフの族長でハルと申すものでありんす」
艶やかな着物を崩したような装いに、透き通るような肌。その妖艶な美しさは、これまでの美女たちとは明らかに毛色が違っていた。
(……なんという艶やかさ。毒気にあてられそうだわ)
ルカが内心で舌を巻けば、アイリスは顔を赤くして狼狽える。
(くっ、なんという破廉恥な……! 騎士の私にはあのような格好、逆立ちしても真似できんぞ!)
(……独特の空気を纏っているな。侮れない相手だ)
グライザもまた、静かに闘志を燃やしていた。
「それで……主がわっちの森をお救いになってくださるんでありんすか?」
「そのために来ました。ですが……様子を見るに、エルフたちに元気がありませんね」
ツトムが指摘すると、ハルは力なく、しかし艶っぽく溜息をついた。
「それはぁ……森が魔王の力で枯れかけとるからでありんす。エルフたちは森の魔力で生きる種族。供給が途絶えれば、みんな元気が出ないのは道理……わっちも、この通りでありんす」
「事情はわかりました。ひとまず、開墾されていないような荒地を貸していただけますか?」
「ここから少し行ったところに荒れ果てた地がありんすぎ。好きにお使いになっておくんなはれ」




