第3話:二つ目の願い!
ご覧いただきありがとうございます。
本作はR15対象の[異世界ファンタジー]です。
短いお話ですが、お楽しみいただければ幸いです。
「では、二つ目の条件だ。……僕には、この『神域の営農管理』を付与してもらいたい」
「え、なにその長ったらしい名前……。もっとこう『爆裂魔法』とか『聖騎士の加護』とか、短くてカッコいいのはないの?」
焼き芋を口いっぱいに頬張ったルカが、不思議そうに首を傾げる。僕は迷わず、経営者として必要な『生産ライン』の全容を突きつけた。
「いいか、ルカ。農業において最大の敵は『時間』と『労力』、そして『外的リスク』だ。それらをすべて排除する力を求める。まぁしかし簡単に言うと土魔法みたいなものだ。」
僕は指を一本ずつ立てながら説明する。
「まず、土を耕すと同時に、理想的な高さの畝が形成され、そこには既に苗が植え付けられていること。次に、その苗が通常の数倍の速度で、かつ最高品質で育つこと。そして――」
一呼吸置き、僕は最も重要な『リスク管理』を口にする。
「僕の管理下にある農地には、一切の害虫を寄せ付けず、雑草の発生を完全に抑制する。……つまり、農薬も除草剤も使わずに、僕が望む最高級の『べにはるか』だけが整然と並ぶ、究極の生産拠点を構築する力だ」
「……え、それだけ? 魔王とかドラゴンと戦う力は本当にいらないの? 死んじゃうよ?」
「戦いは君の役割だ。僕は経営に専念する」
あっけらかんと言い放つ僕に、ルカは「この人、本気だ……」と呆れたような、それでいてどこか感心したような視線を向けた。
「わ、わかったわよ! そこまで言うなら、その変な……じゃなくて『営農管理』のスキルも付けてあげる! もう、変な勇者様!」
ルカが指を鳴らすと、真っ白な空間が黄金色の光に包まれた。
「契約成立ね! さあ、新しい世界へ行きましょう! 私の……じゃなくて、ツトムの『さつまいも帝国』の始まりよ!」
視界が光に飲み込まれていく。 手に持った焼き芋の温かさと、隣で騒ぐドジな女神の気配を感じながら、僕は意識を手放した。
次に目が覚める時は、新たな事業の「創業日」になるはずだ。
「……待て。もう一つ、重要な工程を忘れていた」
「ふぇ? まだあるの? もうお腹いっぱいだよぉ……(モグモグ)」
僕は人差し指を立て、追加の仕様変更をルカに突きつける。
「畝立てと植え付け。そこに**『マルチング』**の工程を完全に自動で組み込め」
「まるちんぐ……? 何それ、新しい呪文の名前?」
「インフラ整備だ。畝を遮光性の高いシートで覆うことで、地温を安定させ、水分の蒸発を防ぐ。何より、さっき言った『除草』を物理的に完璧なものにするための必須工程だ。いいか、僕が一歩踏み出せば、そこには黒光りする完璧なマルチが張られた畝が完成している……。そこまでやって、初めて『神域』を名乗れ」
「わ、わかったわよ……! こだわりが凄すぎてちょっと引くけど、焼き芋のおかわりをくれるなら、その『全自動マルチ張り』もオプションで付けちゃう!」
ルカがやけくそ気味に指を鳴らすと、僕の脳内にインストールされたスキルの詳細が書き換わった。
【固有スキル:神域の営農管理】
ソイル・リバリュー(土壌改良)
カルチ(一括耕起)・リージング(畝立て)・マルチング(黒ビニール)
グログ(超急速・高糖度育成)
完全防虫・完全防草
「……よし。これで戦える」
僕は満足して頷いたが、ふと思いついてルカに問いかけた。
「ルカ。この『営農管理』スキルを動かすためのエネルギー源――いわゆる魔力はどうなっている? 僕の身体がガス欠(魔力切れ)になって、生産ラインが止まるような事態は避けたいんだが」
「あ、意外と冷静! そうね、ツトムさんの中にもちゃんと魔力はあるわよ。でも、大規模な農地を一気に開拓しようとしたら、たぶんすぐ空っぽになっちゃうかも」
ルカは焼き芋の皮をぺろりと剥きながら、事もなげに言った。
「でも安心して! 私を『役員』にしたのは正解だったわね。ツトムさんの魔力が足りなくなったら、私が横からギュギューっと魔力をチャージしてあげるから! いわば、私があなたの移動式発電機兼、予備バッテリーってわけ!」
「……よし。これでリスクヘッジも完璧だ。外部資本(君の魔力)の注入が可能なら、事業計画は大幅に前倒しできる」
「あはは、ツトムさんって本当にお堅いんだから!」
ルカが能天気に笑う。僕はその顔を真っ直ぐに見据え、最後の一言を付け加えた。
「あと、ルカ。……僕を『さん』付けで呼ぶのはやめておけ」
「えっ? なんで? 丁寧でいいじゃない」
「これから僕たちは、異世界という過酷な市場で生き抜く運命共同体だ。過剰な敬語や遠慮は、判断の遅れに繋がる。……呼び捨てか、あるいは別の呼び方で構わん。君も僕を対等なパートナーとして扱え」
「……へぇ。人間なのに、神様の私に呼び捨てにしろなんて。ツトムって、本当に面白い人ね!」
ルカはいたずらっぽく微笑むと、今度こそ僕の腕を掴んだ。
「わかったわ、ツトム! それじゃあ、私たちの創業初日を始めましょう!」
「ああ。……行くぞ、ルカ!」
黄金色の光が爆発し、僕たちの意識は真っ白な空間から、新たな大地へと解き放たれた。
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