第27話:ジミーナ村の視察へ
翌朝。
「うぅぅ……さすがに昨日は飲みすぎたわ……」
頭を押さえながら、ルカが重い腰を上げた。昨夜の狂乱の宴は、彼女にとっても忘れられないものになったようだ。 そこへ、既に身支度を整えたアイリスが凛とした声で告げる。
「ツトム殿! 陛下が我らを呼んでおられるようだ。すぐに向かおう!」
玉座の間へ向かうと、王は昨日までとは違う、心からの親しみを感じさせる笑顔で一行を迎えた。
「はっはっは! 昨夜は我が息子がまた失礼をした。今朝、黒いビニールに巻かれたまま表に捨て置かれていたと聞いてな……。勇者は実におもしろい。そして、命までは取らぬとは実に慈悲深い」
王は愉快そうに笑い飛ばすと、スッと表情を引き締めた。
「さて、昨日の試食会、実に見事であった。私の権限を使えば広めることは容易かったのだが、あえて口出しはしなかった。……理由、わかるな?」
「……やはり、試されたのですね。僕たちがどこまでやれるのかを」
ツトムは確信していたように答えた。王は満足げに頷く。
「いかにも。勇者一行が、剣以外にどれほどの『力』を持っているのか見たかったのだ。しかし、今回の大成功で王都は救われる。貧困による飢餓という、魔王がもたらした最大の絶望に光が差したのだ。……ひとえに勇者、お主のおかげじゃ。感謝してもしきれん。本当に、ありがとう」
「いえ。とりあえず商業ギルドとジミーナ村、そしてドワーフの街のパイプは作りました。あとは交渉次第ですが、じきに王都にも『ベニ・ハルーカ』が安定して入ってくるようになるはずです」
ツトムは淡々と、しかし確かな手応えを口にした。 ジミーナ村を足がかりに、ドワーフの街、そして王都サイラス。ツトムが歩いた後には、必ず飢えが消え、笑顔が咲く。
その噂は、風に乗って大陸中へと広がりつつあった。
――土魔法を華麗に操り、死地に黄金の実りをもたらす、凄腕の勇者が異世界からやってきた。
魔王討伐という宿命以上に、民の胃袋を掴んだ男の名は、今や伝説の第一歩を刻み始めていた。
「みんな、一度ジミーナ村とドワーフの街に戻ってみないか。状況がどうなっているか気になるしな」
ツトムの提案に、ルカが明るい声で応じた。
「そうね! 私たちの『ホーム』がどうなったか、一度様子を見に行ってみましょう!」
「よし、それじゃあ一瞬で帰るとしましょうか。……『トランス』!」
ルカが呪文を唱えた瞬間、視界が白光に包まれ、次の瞬間には懐かしの土の匂いが鼻をくすぐった。 一行が目を開けると、そこはジミーナ村。しかし、そこで目にしたのは、かつての静かな村の面影を一変させるほどの「てんてこ舞い」な光景だった。
「ツトム様……! よくぞ戻られました!」
駆け寄ってきた村長は、額の汗を拭いながらも、その表情はかつてないほどに輝いている。
「王都の商業ギルドから、大勢の買付人たちが押し寄せてきておるのです。村の広場が荷馬車で埋まるほどに!」
「早速動き出したか。これでジミーナ村も少しは潤うかな?」
ツトムが微笑むと、村長は深く、深く頭を下げた。
「……最初は、ただ明日の飢えを凌げればという思いで、ツトム様からベニ・ハルーカの作り方を教わりました。それが、まさかこれほどの大きな取引に繋がり、村が豊かになるなんて……夢にも思っていませんでした。全てはツトム様をはじめ、皆様のおかげです」
感極まる村長をなだめつつ、ツトムは活気に溢れる村の様子を見渡した。
「本日はぜひ、村の宿にお泊まりください。精一杯のおもてなしをさせていただきます!」




