第25話:農業が王都を救う②〜ヒロインのメイド姿有〜
北の大地に降り立った3人。ツトムは懐から、グライザが試作した魔導通信機――通称**『スマーホ』**を取り出し、王都を単独で視察していた彼女を呼び寄せた。
「よし、全員揃ったな。……始めるぞ!」
合流したグライザが見守る中、ツトムは大地に手を触れ、矢継ぎ早に農業魔法を放つ。
「『カルチ』!『リージング』!『マルチング』!」
死んでいた土が瞬時に掘り起こされてふかふかになり、美しい畝が作られ、黒いシートで覆われていく。ツトムの魔法はただ耕すだけではない。土壌の質を、ベニ・ハルーカが最も好む**「弱酸性」**へと劇的に改良していくのだ。
最後にツトムが「『グロウ』!」と叫ぶと、マルチの隙間から瑞々しい緑の芽が勢いよく噴き出した。そこへルカが「『ウォーター』!」で清らかな水を注げば、ベニ・ハルーカは見る間に大地を覆い尽くしていく。
その傍らでは、グライザとアイリスが息の合った連携を見せていた。グライザが設計した簡易型焼き芋製造釜を、アイリスが聖騎士の力で瞬く間に組み上げていく。
「ルカ、点火だ!」
「任せて!『ファイヤーボール』!」
ルカの魔法によって釜に命が吹き込まれ、収穫されたばかりのベニ・ハルーカが次々と運び込まれる。
「陛下は美味しいと知っていても、民に刺さるかまでは確信が持てなかったんだろう。だったら、僕らが先に実績を作って見せるだけだ」
香ばしく、暴力的なまでに甘い香りが周囲に漂い始める。 アイリスが釜から熱々のベニ・ハルーカを取り出すと、4人は意気揚々と王都の市場へ向けて出発した。
背後に広がるのは、もはや死の大地ではない。 黄金色の宝物を抱いた、王都最強の農園へと変貌した「希望の地」であった。
「さて、王都に着いたな」
ツトムの号令と共に、作戦が開始された。
市場に漂い始めたのは、これまでの王都には存在しなかった、濃厚で暴力的なまでに甘い香り。活気のなかった市場の民が、一人、また一人と鼻をひくつかせ、吸い寄せられるように集まってくる。 だが、ツトムの仕掛けはそれだけではなかった。
「ルカ、アイリス、グライザ! これを着てくれ! **『メイドコスチューム』**だ!」
「ツ、ツッツトム殿ぉ! この、ヒラヒラした恥ずかしい格好は何だ! 私はこれでも騎士だぞ、ふざけているのか!?」
アイリスが顔を真っ赤にして叫ぶが、ツトムは現代知識をフル稼働させて説得する。
(昔、テレビでメイド喫茶が流行っていたはずだ。女性は甘いものに目がなくても、男性客を確実に取り込むには視覚的なフックが必要だ……!)
「私にこんな格好させるんだから、当然『埋め合わせ』はあるんでしょうね!? ご褒美よ、特別なご褒美がなきゃやらないんだから!」
ルカは不満を漏らしつつも、ちゃっかり自分を可愛く見せるポーズを鏡で確認している。
「……このような装束は初めてだが、ツトムが戦略だと言うなら従おう。効率的だ」
グライザはクールに言い放つが、その完璧な着こなしはもはや芸術の域だった。
最強の「美女」メイド3人が揃い踏みした市場は、瞬く間に阿鼻叫喚の熱狂に包まれた。
「俺はアイリス様から芋をもらうんだ!」
「バカ言え、ルカ様だろ!」
「あのクールな方の視線がたまらん……!」
ビジュアルの破壊力は絶大だった。だが、一度口に含めば、今度はその『味』が人々を虜にする。
「なんだこれは! 芋の概念が崩壊するぞ!!」
騒ぎを聞きつけた商業ギルドの関係者も、一口食べるなり衝撃に打ち震えた。 そのタイミングを見計らい、グライザが速攻で組み立てた簡易商談ブースへ彼らを誘導する。
「この『ベニ・ハルーカ』はジミーナ村から。そして、この芋から作った酒『イモジョウチュウ』はドワーフの街から安定供給が可能だ。具体的な卸値は、村長や技師長に直接交渉させよう」
ツトムの理路整然とした提案に、ギルドの連中は二つ返事で食いついた。 試食会は大成功。空腹に喘いでいた市場の民の顔には、久々の笑顔と、そして熱狂が戻っていた。




