第23話:アイリスの乱入!
「ツトム殿ぉぉぉ! やっと見つけたぁぁぁぁ!!」
人混みを引き裂くような絶叫と共に、髪を振り乱したアイリスが猛烈な勢いで突っ込んできた。
「アイリス!? 起きたのか?」
驚くツトムの両肩を脱臼せんばかりの力で掴み、アイリスは顔を至近距離まで詰め寄って叫ぶ。
「『私の愛するアイリス』なんだろっ!? だったら私とも! 私ともデートしてくれぇぇぇ!!」
昼下がりの広場に響き渡った、あまりに情熱的すぎる逆プロポーズ。
「……おい、今『愛する』って聞こえたぞ」
「あのアイリス様が、あんな乱暴な口調で……」
周囲の民が足を止め、好奇の視線がツトムたちを包囲する。
ツトムが引きつった顔で隣を見ると、そこにはスッと目を据わらせ、完全に「無」の表情を浮かべたルカが立っていた。
(……あ、これ。昨日より、ずっとマズい状況だ)
王都に足りないのは「甘味」だと思っていたが、目の前の状況はあまりに糖度が高すぎて……いや、修羅場すぎて、ツトムの脳内処理は完全に停止するのだった。
「アイリス! 声が大きいって! これは王都の『視察』なんだ、デートじゃない!」
注がれる視線に耐えきれなくなったツトムは、二人を路地裏の物陰へと引きずり込んだ。だが、それが裏目に出た。
「ふーん。デートじゃないんだ。じゃあ、これは昨日の『埋め合わせ』にはカウントされないってことよね?」
ルカが勝ち誇ったようにツトムの顔を覗き込む。
「ルカ! 話を拗らせるな。とりあえず……ここからは3人で視察しよう。それでいいだろ?」
「いいけどぉ、それならまた別の日に、埋め合わせしてくれるんだよね? してくれるんだよね……ツ・ト・ム?」
逃げ場のない至近距離で、ルカがいたずらっぽく囁く。ツトムが冷や汗を流していると、今度は反対側からアイリスが詰め寄ってきた。
「ツ、ツッツトム殿! とりあえず……『愛する私』と手を繋ぎながら視察する、ということでいいんですのね!?」
「え、いや、それは……」
「それなら私は、腕を組んで視察させてもらうわよ。埋め合わせは『未遂』なんだから、これくらい当然よね?」
右腕にルカの柔らかい感触、左手にアイリスの震える手。 「視察」という名の地獄……いや、贅沢すぎる拘束。ツトムは天を仰いだ。
そんな3人のやり取りを、路地の入り口を通りがかったグライザが横目で捉える。 彼女はかける言葉も見つからないといった様子で、深いため息を一つ吐き出すと、そのまま建築調査へと歩み去っていった。その背中には「ツトム、強く生きろ」という哀愁が漂っていた。
「さて、とりあえず市場へ行ってみよう。王都がどうなってるか、この目で確かめたい」
ツトムが歩き出すが、右にルカ、左にアイリスという「両手に花」状態では、まともに真っ直ぐ進むことすら難しい。そんな彼らの姿を見た王都の民は、感心したように囁き合う。
「さすがは勇者様だ。二人の美女を侍らせてなお、あの堂々たる歩み……」
「あれこそ男の理想だな」 (……違う、これはただの拘束なんだ!) ツトムの心の叫びは届かない。




