第20話:対決!アレハンドラ将軍②
だが、面白くないのはルカである。
(何よ、あんなに格好つけちゃって……アイリスばっかりズルいんだから!)
ルカは嫉妬心を隠そうともせず、指先にパチパチと魔力を収束させた。
「そうよ、将軍様。ツトムに手を出そうなんて……相応の覚悟はできてるんでしょうね?」
将軍が忌々しげに鼻を鳴らし、白銀の剣を抜こうと柄に手をかけた、その時。
「待ってください! ツトム様に剣を向けることは、私が許しません!!」
アイリスが叫び、盾をツトムの前に力強く展開した。愛する人を守ろうとする、断固たる拒絶。
一触即発の空気。だが、当のツトムは静かに二人を制した。
「二人とも、下がってて。……この人には、こいつで十分だ」
ツトムが右手を突き出し、短く唱える。
「『マルチング』!!」
刹那、将軍の周囲に黒い農業用マルチシートが猛烈な勢いで出現した。
「なっ、なんだこの黒い布は!? うおっ、うわあああっ!!」
シュルシュルと生き物のように動くマルチは、一瞬にして将軍の両手、そして抜こうとしていた剣の柄ごと、彼の体をぐるぐる巻きに拘束してしまった。
「な……抜けん! 手が動かんぞッ!?」
白銀の甲冑の上から真っ黒なシートで固められた将軍は、まるでおかしなサナギのようになり、馬の上で無様にバランスを崩した。
ツトムは、そんな将軍を見上げて不敵に笑った。
「剣も抜けず、両手も使えなければ……流石に勝負になりませんね。ねぇ、将軍?」
先ほどまで「婚約者気取り」だった男の無様な姿に、ルカは「ぷっ」と吹き出し、アイリスは呆気にとられてポカンと口を開けるのだった。
「あらぁ、将軍様。真っ黒なマルチに包まれて……なんだか最先端の芸術品みたいで素敵ですわ〜っ」
ルカは顔を真っ赤にして震える将軍の周りを、ダンスを踊るように軽やかに回った。
「その拘束具、ツトム様の手作りなんですのよ? 一生、宝物になさったらよろしいのに。クスクス……っ!」
「き、貴様らぁぁ……ッ! この屈辱、一生忘れんぞ……! 覚えていろ、ツトム!!」
アレハンドラ将軍は、部下たちに支えられながら、芋虫のように馬上で揺られつつ城へと引き上げていった。その背中からは、殺気と怨念がメラメラと立ち上っている。
「ふぅ……。さてアイリス、これで僕の『偽婚約者』としての役目も、ひとまずお役御免かな」
ツトムが肩の荷が下りたように息を吐くと、隣にいたアイリスが、服の裾をぎゅっと握りしめた。
「……別に、ずっとこのまま……本当に許嫁のままでも、いいんじゃないかしら……なんて」
「ん? アイリス、今何か言ったか?」
ツトムは聞こえていないふりをして、あえて空を見上げた。ここで頷けば、さらに面倒な(そして甘酸っぱい)事態になることを本能的に察したのだ。
だが、地獄耳のルカが黙っているはずがない。
「アイリス! ゼッーーーーーータイ! にダメだから!! 『偽』だからいいのよ、わかってるわね!?」
ツトムの腕をこれでもかと抱き寄せ、ルカは猫のようにアイリスを威嚇する。
「やれやれ……。ツトムも大変だな」
御者席で一部始終を見ていたグライザが、呆れ果てたように深くため息をついた。
(まあ、何はともあれ……これでアイリスへの強引な求婚も、少しは収まるだろう)
ツトムは、ようやく訪れたはずの平穏に安堵した。




