第19話:対決!アレハンドラ将軍①
「アイリス! 無事か……っ!」
砂埃を巻き上げ、馬を急停止させたアレハンドラ将軍の声は、公務としての安否確認ではなく、一人の男としての焦燥に満ちていた。 彼は周囲の注目も構わず馬から飛び降りると、大股でツトムたちへと詰め寄る。
「だが……その状況は何だ。貴公、アイリスから手を離さぬか!」
その瞳に宿っているのは、不審者への警戒ではない。愛する女を他の男に触れさせていることへの、剥き出しの嫉妬と怒りだ。
「しょ、将軍……。アイリスって、呼び捨て……?」
ツトムがその威圧感に気圧されながらも呟くと、将軍はさらに一歩踏み込み、腰の剣の柄に手をかけた。
「そうだ。アイリスは私が……このアレハンドラが守るべき存在。貴様のような素性も知れぬ男に、その清らかな体に触れる資格などないッ!」
まさに「婚約者気取り」と言わんばかりの宣言。 気絶しかけていたアイリスは、その聞き慣れた(そして少し重すぎる)声にハッと意識を浮上させる。
「ア、アレハンドラ……? 待って、ツトム様は私の正式な……」
だが、アイリスが弁明を終えるより早く、ルカが将軍の視線を遮るようにツトムの腕に「ぎゅっ」としがみついた。
「あら。アイリス『様』を呼び捨てだなんて、将軍様もなかなか隅に置けませんわねぇ」
ルカはわざとらしく驚いて見せ、それから挑発的に口角を上げた。
「でも残念。このツトム様はアイリスの婚約者……そして、私の『旦那様』になるお方。余所見をしている暇なんてありませんのよ?」
「き……貴公……っ! 婚約者であるアイリスを抱き寄せながら、公然と別の女を侍らせているというのか……ッ!? 万死に値する不貞行為だ!!」
将軍の顔が怒りで青白く震える。
(いや、俺まだ何もしてないし、そもそも愛人ってのも嘘なんだって!)
ツトムの心の叫びは、激昂する将軍と、悪ノリするルカ、そして再び知恵熱を出して倒れそうになるアイリスの狂騒にかき消されていくのだった。
「……いいだろう。貴様がアイリスに相応しい男か、この剣で試してやる!」
アレハンドラ将軍は冷徹に言い放ち、傲慢な笑みを浮かべた。
「私が勝てば、アイリスは私のものだ。……貴様が勝てば、アイリスは貴様にくれてやるッ!」
その言葉に、ツトムの頭にカッと血が上った。
「ふざけるなッ! アイリスはまだ将軍のものでもないし、ましてや誰かの所有物でもない! 勝負の景品みたいに言うのはやめろ!!」
「ツ、ツトム様……っ!」
自分を一人の人間として尊重し、怒ってくれたツトムの言葉に、アイリスの胸は激しく高鳴る。恥ずかしさで気絶していたのが嘘のように、彼女の瞳には熱い輝きが宿った。




