第18話:王都サイラスとアレハンドラ将軍
「おいお前ら、着いたぞ」
グライザが馬車を止めると、門番が慌てて駆け寄ってきた。
「ややっ! アイリス様ではありませんか! よくぞご無事で!」
アイリスは頬を染めながら、隣に立つツトムを門番に紹介する。
「ええ……。それで、こちら、私の婚約者のツトムよ」
その瞬間、ツトムが動いた。ルカに教わった「理想の騎士(?)ムーブ」の発動である。
「ああ、我が愛しのアイリス。王都の風さえ、君の髪を乱すのは許さない……」
ツトムはルカに教わった通りの「情熱的なエスコート」を実践すべく、アイリスの肩を抱き寄せ、その端整な顔を至近距離まで近づけた。
「……っ!? つ、ツトム……っ!?」
あまりの距離の近さに、アイリスの心臓は早鐘を打ち始める。ツトムの瞳に真っ赤になった自分が映っているのがわかり、彼女の脳内はすでにパニック寸前だ。
そこへ、背後からルカが追い打ちの爆弾を投下する。
「ちょっとツトム様、アイリス様の前でそんなに見つめ合わないで? 秘書兼『愛人』の私が、夜のお世話をボイコットしちゃいますわよ?」
「え……あ……あ、愛……っ!?」
ツトムの熱い視線と、ルカから飛び出した「禁断の単語」。
純潔なアイリスにとって、その刺激はあまりに強すぎた。
「あ、あわ……あわわわ……ふえぇ……」
アイリスの顔は、熟れすぎたトマトのように真っ赤に染まり、耳元からはシュルシュルと目に見えない湯気が立ち上る。瞳はぐるぐると渦を巻き、視界はもはやピンク色の霧の中だ。
「アイリス様!? だ、大丈夫ですか!?」
門番が真っ青になって声をかけるが、時すでに遅し。
「も、もう……容量……オーバー……ですぅ……」
糸が切れた操り人形のように、アイリスはふにゃふにゃと力を失った。 だが、そのまま地面に落ちることはない。ツトムが抱き寄せた腕の中に、彼女は「すとん」と収まるようにして、幸せ(?)そうに目を回して意識を失うのだった。
それを見た門番は、震える手で門の鍵を開けながら、心の中で叫んだ。
(なんてことだ……。アイリス様が、こんな一瞬で『陥落』させられるなんて……。あの男、恐るべし……ッ!)
「……はっ!?」
ツトムの腕の中で、アイリスの長い睫毛が震え、パチリと目が開いた。 視界に飛び込んできたのは、心配そうに自分を覗き込むツトムの顔。そして、脳裏に蘇る「愛人」という破廉恥な響き。
「あ、アイリス! 気がついたか!?」
「あ……うう……ツトム、……。わ、私、変な夢を……秘書が愛人で、あなたが猛獣みたいに……」
アイリスがふらふらと立ち上がろうとしたその時、王都へと続く大通りから、地響きのような蹄の音が迫ってきた。
「何事だ、この騒ぎはッ!」
威厳に満ちた鋭い声。白銀の甲冑に身を包み、見事な白馬に跨ったアレハンドラ将軍が、数人の部下を引き連れて現れたのだ。
「げっ、アレハンドラ将軍……!」
門番が直立不動の姿勢で敬礼する。将軍の鋭い眼光が、ツトムに抱きかかえられたアイリスと、その横で涼しい顔をしているルカ、そして顔を引きつらせたツトムを射抜いた。




