第13話:ドワーフの技術者とジミーナ村のキュアリング
「何だと? 話が違うぞ、契約違反だ!」 僕が即座に契約の不履行を追求しようとすると、技師長はニヤリと笑って一人の人物を呼び寄せた。
「だから、わしと同じ技術とスキル……いや、精密作業に関しちゃわし以上の腕を持つ、娘のグライザを連れて行け。こいつがわしの代理だ」
奥から現れたのは、ドワーフにしてはすらりと背が高く、褐色の肌にプラチナブロンドを短く切り揃えた、利発そうな女性だった。大きなハンマーを軽々と肩に担いでいる。
「……親父の代わりに来た、グライザだ。アンタが例の『面白い図面』を書いた商人か? よろしく頼むよ、社長さん」
「……娘、か。また女性社員が増えてしまう……。だが、建設の遅れを取り戻し、キュアリングを成功させるには、背に腹は代えられないな」
僕がやむを得ず承諾すると、背後から突き刺すような鋭い視線を感じた。 アイリスとルカ。二人の「また増えた……」と言いたげな、氷のような視線が背中に刺さるが、僕はあえて無視した。
「よし、グライザ。君の技術力には期待している。ジミーナ村へ移動し、即座にキュアリング倉庫の着工だ。――アイリス、ルカ! 睨んでないで出発の準備をしろ!」
こうして、聖騎士、女神、そしてドワーフの技師。 異色の「専門家集団」を率いて、僕はジミーナ村の拠点強化へと乗り出した。
ジミーナ村の広場。僕は地面に広げた図面を指さし、グライザと細部の打ち合わせをしていた。
「……なるほど、ここに断熱材代わりの空洞を設けるわけか。あんたの言う『きゅありんぐ』には、ただの倉庫じゃなく、温度と湿度を一定に保つ『魔法瓶』のような構造が必要なんだな」
「その通りだ。さらにこの位置に換気口を配置して、空気の対流を制御したい。ドワーフの熱管理技術なら、この排熱計算も可能だろう?」
「へっ、面白い。その計算、乗ったよ社長。この村の石材と俺の組石術を合わせれば、寸分狂わぬ設計を実現してやるさ」
グライザと僕が、現代の建築論と異世界の建築技術を戦わせ、意気投合していく。専門用語が飛び交い、現場に心地よい緊張感が走るが……それを快く思わない視線が横から突き刺さった。
「……ちょっと、さっきから二人で盛り上がっちゃって! 私のこと忘れてない!? 私だって、魔法を使えば換気も温度調節も一瞬なんだからね! 私も手伝うわよ!」
ルカが頬を膨らませて割り込んできた。いつもの「駄女神」モードではなく、メインアシスタントの座を脅かされるのを恐れる「必死な社員」の顔だ。
「私も、微力ながら協力させてもらおう。責任……いや、昨日の失態の挽回もしたい。石材の運搬や基礎工事なら、私の筋力と闘気が役に立つはずだ」
アイリスも、昨日の「責任取れ」発言を思い出したのか、耳まで赤くしながらも必死に自分を売り込んできた。
「……いいだろう。グライザ、現場のマンパワーと魔力リソースは揃った。この三人を『建設ユニット』として編成する。君は現場監督として、彼女たちに的確な指示を飛ばしてくれ」
「了解だ、社長! ……よし、そこの騎士姉ちゃん、そのデカい岩を基礎まで運べ! 女神様は、石材の結合部を魔法で焼き固めてくれ! 精度が命だ、気合入れろよ!」
「お、重い……だが、これも修行だ!」
「なっ、使い走りにする気!? ……でも、ツトムが見てるならやってやるわよ!」
アイリスが重い石材を軽々と運び、ルカが魔法でそれを接合していく。 グライザの精密な指揮のもと、僕の描いた「キュアリング倉庫」が、驚異的なスピードで姿を現し始めた。
(……素晴らしい。異業種交流によるシナジー効果だ。これなら予定より三割は早く竣工できるな)
僕は活気づく現場を眺めながら、完成したばかりの「熟成ベニ・ハルーカ」をどうやって市場へ流すか、次なるプロモーション戦略に思考を巡らせた。




