第一話:駄女神降臨!
拙い文章ではありますがご覧いただきありがとうございます。
本作は一応全年齢対象の[ハイファンタジー]です。
お楽しみいただければ幸いです。
そしてちょこっとでも農業にも興味を持ってもらえたら嬉しいですな。
「とてもいい香りだ」
助手席に置いた『べにはるかの焼き芋』が、蜜の甘い香りを車内に充満させている。
僕の名前はツトム。三十九歳。 さつまいもの製造から販売までを一貫して手掛ける、中小企業の社長だ。
今日は横浜で開催された『日本さつまいも学会』の帰り道。 愛車の真っ赤なポルシェを走らせ、横羽線から東関東道へと抜ける、いつものルートを走っていた。
異変は唐突だった。
背後から猛スピードの大型トラックが迫り、低い車体を突き飛ばした。 身体を芯から揺さぶるような、凄まじい衝撃。
バランスを失い、独楽のように回転したポルシェは、中央分離帯へと激突した。 視界が上下に揺れ、愛車が鉄屑へと姿を変える嫌な音が響く。
……そこで、僕の意識は途切れた。
「うーん……ここは、どこだ?」
気がつくと、僕は手に『あのお土産の焼き芋』――茶色の包みをしっかりと握りしめていた。 潰れた愛車から漏れ出していたはずの、鼻を突くガソリンの臭いはもうない。
重い瞼を開けると、そこには果てしなく続く、静寂に包まれた真っ白な空間が広がっていた。
「あっ! 起きました!? 起きましたね! おはようございます、さつまいも……じゃなくて、ツトムさん!」
弾んだ声に顔を上げると、そこには透き通るような銀髪を揺らす美女が立っていた。 豊満な胸元を包むドレスは、まるで磨き上げられたさつまいもの皮のように、鮮やかな赤紫色に輝いている。
(いい色だ。これは……最高級のべにはるかの皮の色を想起させるな)
しかし、彼女の腕には山積みの書類が抱えられ、今にも崩れ落ちそうだ。
「えーと、私の名前は女神のルカです! あなたは死んじゃったので、これから異世界に行ってもらいます! 異論は認めません、えへん!」
胸を張った拍子に、抱えていた書類がバサバサと床に散らばった。 ルカは「あわわっ」と情けない声を出しながら、慌てて四つん這いになって書類を拾い集めている。
僕はため息をつきながら、書類拾いを手伝わされた。 (こんな取引先だったら、挨拶もそこそこに真っ先に帰るな……)
三十九年間の人生と、さつまいも農家としての日々で培った冷静な目で、目の前の「ちょっと抜けた」女神様を眺める。
「あのね、ツトム! あなたには異世界で勇者になってもらいたいの!」
ルカは散らばった書類を適当に束ねると、ぐいっと身を乗り出してきた。
「今、ツトムが行く異世界は魔王に支配されてて、みんな貧困でお腹ペコペコなの……。だから、ツトムの力でなんとかして欲しいんだよぉ!」
三十九歳の経営者に対して、あまりにざっくりした事業説明だ。 僕は思わず、こめかみを指で押さえた。
だが、ルカは構わず人差し指を立てる。
「そこで初期投資! じゃなかった、特典として能力なんだけどねっ! 『こんな力が欲しいよー!』っていう希望があれば、一つだけ特別に付与してあげられるよ! 何がいいかな? 聖剣? それとも規格外の大魔法?」
期待に目を輝かせるルカに対して、僕は一度目を閉じ、愛車の助手席にあった『べにはるかの焼き芋』の香りを思い出した。
戦う力などいらない。 僕が求めたのは、農業経営者として世界を根底から変えるための『力』だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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