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樹海に咲く白い花

作者: Eisei3
掲載日:2026/01/19

 

 それは7月下旬の、蒸し暑い晩だった。開け放した窓から吹き入る風も無く、今夜もまた、盆地特有のじっとりとした熱帯夜かもしれない。

                     

 「どこか、出かけようぜ!」

 私は団扇で首元をあおぎながら、自分のデスクで雑誌を読む田村君にそう声をかけた。

 彼は、今年採用されたばかりの新人の技師だった。


 その夜は、勤める役所の宿直勤務で、私と田村君は課は違うが、その夜は二人とも当番だった。

 二人はその夜、既に仕事も終え、後はもう宿直室で寝るだけだった。


 田村君は専門誌から顔を上げると、私の顔を伺いながら聞いてきた。

 「いいんですか? 宿直中に出歩いても」

 「いいさ。仕事も全部片づいたし。鍵さえ掛けておけば大丈夫さ」

 それは、大らかな風潮が色濃い平成も頭の事で、役所にも、ある意味いい加減な気風がまだ残る時代だった。

 

 「そうですか…。それで、どこに行きます?」

 「樹海! 富士五湖の」

 私はそう、即答していた。

 

 「えっ⁉ あの自殺の名所の? 嫌ですよ! 私、怖いのがだめなんです…」

 「そんなこと言わんで、行こう。たまには気張らしもしんと! 今夜は、どうせもう何も無えら」


 彼はこの四月、配属されたのだが、古株の課長と折り合いが悪く、五月早々何かあると二階の資料室に籠もる様になっていた。

 まぁ田村君も、まだ若くて真面目な奴だから、気難しい課長と少し波長が合っていないだけだった。実際、その後課長とも打ち解け、ばりばりと仕事をしていたから。


 事務所の入口のセキュリティーボックスに暗証番号を入力すると、二人は懐中電灯を手に、田村君の車に乗り込んだ。そして樹海に向け、近くの国道に入り南へと向かった。

 腕時計の針は既に、零時近くを指していた。だが深夜の事、一時間もせずにたどり着くだろう。


 

 「それでさ、何年か前に職場の親睦旅行でフィリピンへ行って、セブ島のコテージに泊まったの」

 「へー、豪勢ですねぇ」

 「昔は景気も良かったし…。毎月給料から積み立てて、毎年、海外へ行ったな。バリ島や台湾へも行ったし」

 

 樹海に着くまで、私達は他愛もない話に盛り上がっていた。

 

 「でも、フィリピンは凄い所だよ。空港の警備の警察官に千円渡せば、腰のオートマチックの拳銃を手渡して見せてくれるんだわ」

 「裏で怪しい商売をしてる飲食店なんか、入り口にマシンガンを抱えた門番が控えていたし。もう、治安がなんて次元じゃないね。ホンと、つくづく日本は平和な国だと思うよ」


 「昼間、射撃場で45口径の銃を撃って、夜はホテルのカジノでスロットマシン。そして後は、若いフィリピ―ナ達のお店で悪さして…。」

 「でね、セブ島のコテージに泊まった夜、部屋の三人で、免税店で買ったヘネシーのXOのボトルを一本空にして騒いでいた訳さ。嫁さんもいない異国の夜だし、酒が入って浮かれてたんだな。プールで泳ごうという事になったの」

 「うん、うん。」田村君は前を見て運転しながら、横顔で相槌を返す。

 「それで?」

 「庭の大きなプールに、三人で、パンツ一丁で飛び込んだの」

 「たぶんスキューバダイビング用のプールで、もの凄く深くて。五メートルくらいあったかなぁ…」

 「暫く泳いでいたのよ、俺たち」

 「そしたらね…」


 「うん、うん。…、そしたら何です?」

 田村君はその先を急かす。


 「溺れたの」

 「え⁉」

 彼は思わず、私の方を見た。


 「だから溺れたのよ…、()()。もう酔っぱらってベロンベロンだもの。無理もないさ」

 「それで? それでどうなったんですか?」


 「溺れる時って『助けてっ!』て、よくドラマでやるでしょ? でも声が出ないの、その時。実際は。俺も無言でアップアップしながらプールの水飲んじまって、もう頭の中はパニクってる訳さ」

 「他の二人は、俺が溺れてる事に気づいてなかったんだな、きっと」

 「正直、もうダメだと思ったよ」


 「それは…。で?」

 「もがきながらもう力尽きて沈むと思った時だったね、目の前に茶色いバスケットボールが流れて来たの。ほんと、俺の直ぐ目の前に。右の方から突然、 “スッ! ” という感じでさ…」

 「藁にもすがるって言うけど、抱きかかえたよ、本当に」

 「へー、それで助かったんですか⁉」

 「そう、運よく助かった。危うく、お陀仏になるところだったけど」

 俺は、田村君の顔色を窺いながら苦笑してみせる。

 「よく、タイミング良くボールが流れて来たものですね?」

 「まあ、偶然だろうが…。何かの力が働いたのか、ただ俺の悪運が強かったのか?」

 「でも本当に、誰かが目の前に、 “そっと ” ボールを差し出してくれた様な感じだったな。周りにボールなんて浮いていなかったし」

 「そうですか。そんな事が…。不思議ですね。…」

 田村君は、ハンドルを手に前を見詰めたままそう言うと、更に言葉を続けた。


 「実は、僕も…。学生の時死にかけたんです」

 「え⁉、君が? 何で? また」

 私は首を傾げ、聞いた。

 「ええ…。夏休みの真夜中、友達と原付で海に行ったんです」

 「その途中で、事故を起こして…」

 「えっ! …事故? どんな?」

 「スピードを出し過ぎて、カーブをはみ出して向かって来たトラックに飛び込んだんです」

 「‼。原付で⁉ そんなに飛ばしてたのか?」

 「ええ。2ストの、レーサーのレプリカで。調子づいてたんです、その頃の僕は…」

 「今の君からは、想像できないけど…」

 「で、それで?」

 私は、田村君の告白に唖然としながらも、更に問い掛けた。


 「意識が戻らずに、昏睡状態が続いて」

 彼は相変わらず、ジッと前を見詰め運転している。

 「あちこち骨折していて、特に左足首は骨が粉砕してしまって、今もまだボルトが入ったままですし」

 

 「それが運よく意識が戻って。たぶん家族も、それに私自身も既にその時、死を見詰めていたと思います」

 私は、彼の言葉に小さく溜息を吐いた。そして遠い目をして、フロントガラスの向こうで点滅する赤信号を見詰めていた。

 

 私にも、自分の死を見詰めた瞬間はこれまで何度かあった。

 その中でも死を冷静に、そして客観的に最も強く意識したのは、東北新幹線の車内でのことであった。

 それは出張で白河市を訪れた日の事で、私は通路側の座席に座っていた。

 「⋯間もなく新白河に…」

 車内アナウンスは、新白河駅に到着する事を告げていた。

 

 「…ん?」

 読んでいた文庫本を閉じかけた時、私は、座席の背中側から湧き上がる小さな違和感に気づいた。

 通路には既に、鞄を脇に抱えたスーツ姿のビジネスマン達が並んでいた。

 

 「…あ‼ 俺、死ぬんだ!」

 突然、私はそう感じた。

 頭の中に “死ぬんだ ”という漠然とした思いが、唐突に湧き上がっていた。

 背中の小さな違和感は、瞬時に全身へと、次第に膨らみながら広がっていった。

 それは、身体の異常を告げる警報装置が一遍に作動し押し寄せたかの様な、私の五感の全てが互いに幾重にも重なり合った、不快極まりない感覚だった。

 そしてその感覚が纏う “死んでしまう ”という強い不安感と、逃れようも無い恐怖心。

 身体の中で不協和音を奏で渦巻く異常な感覚が、私の心を内側からこれでもかと、息もできないほどギュッと締め付けてくる。

 座席で身を丸め、脂汗に固く目を閉じ、死の恐怖が過ぎ去るのをジッと窺っていた私の頭に、その時、心と体の限界を告げる声が響いた。

 

 「倒れる…」

 既に私は、心の限界を超えていた。


 しかし一方で、別の声が聞こえてもいた。

 「恥ずかしい‼ …ここで倒れたら…、」

 死を覚悟しながら、その時私の頭には、倒れた自分が乗客達に囲まれ、救急車で運ばれて行くイメージが鮮明な画像となって見えていた。

 「ぐっ!」

 私は、倒れるのを何とか踏み止まった。死の恐怖よりも恥を厭う感情が、その時私の中では遥かに勝っていた。

 危機に瀕し、心の奥底の本性が目覚めるとは聞く。恐らく私の真の心根は、他者への羞恥という鎧を着込んでいるのだろう。


 私は歯を食い縛り鞄を鷲掴みにすると、よろよろと座席を立った。そして停車した新幹線のドアを、駅のプラットホームに転がり出た。

 たぶん他の乗客の目には、通路を這いつくばる私が、相当身体の具合が悪い病人だと映っていただろう。だが、短い停車時間の中で、()()()()私に安否の声を掛ける者はいなかった。 

 私はふらふらとホームのベンチに倒れ込み、気を失った。

 そして一時間も経ずに、私は目をさました。あれほど強烈だった恐怖と不安は、嘘の様にもう身体のどこにも無かった。

 私はゆっくりと起き上がり、鞄を手に改札に向かった。

 

 後に知ったのだが、それはパニック発作だった。そしてそれは、命の危険は全く無いという事も。

 だがあの新幹線の車内で私が感じた死の恐怖と、死の瞬間に対峙した “死ぬ‼ ”というシンプルな感覚は、たぶん本物だったと思っている。



 私達の車は峠のトンネルと幾つかの隧道を抜け、やがて黒い塊となって見える山間を抜けた。すると視界が一気に開け、右手に夜闇に沈む精進湖が見えた。

 精進湖を過ぎると、直ぐ前方にT字路の突当りの分岐を示す青い標識が現れる。『右:富士宮・本栖、左:大月・富士吉田』。

 信号を左折して長い橋を渡ると、道路の上部に掲げられた『青木ヶ原樹海』の看板が見えてくる。

 左右に鬱蒼と続く深い森の連なりは、既に、悪名高い樹海であった。


 青木ヶ原樹海は、千年あまり前の富士山の噴火でできた、原生林の広大な森である。自殺の場として小説に使われたのを機に、いつしか全国でも有数な自殺の名所となった。


 時刻は午前一時に近かった。すれ違う、そして後を追う車も一台もいない。辺りは人家の灯りも、自動販売機の明かりさえ一つも無かった。


 この闇に包まれた深夜、自分達の車しかいなかった。

 もし車の中に私一人きりだったら、当然私は、ただ前だけを見詰め猛スピードで人家のある場所まで車を飛ばしていただろう。

 例え、膀胱が破裂しそうだったとしても。 


 だがその夜は、独りではなく二人だった。


 「ここら辺で、いいら?」

 道路脇の待避所に、田村君は車を停車させた。

 周囲は真っ暗で、道路に設置されるオレンジ色の外灯の明るい光だけが夜闇の中に点在し、その光の輪の外には夜の闇が広がっている。

 樹海の森を南北に切り裂く国道の上の空には、左右の黒い森から木々の梢が大きく被さり、梢の底から見る夜空は狭く、ピンホールの星々の光が微かに黒い夜空の中に煌めいているだけだった。


 私は助手席のドアを開け、道路に降り立った。

 運転席で周囲の気配を目だけで窺っていた田村君も、やっと観念して私に続いて車を降りるとドアをロックした。


 標高が高い富士の麓の深夜は夏の盛りとはいえ、半袖シャツの腕に触れる夜気は冷たく、肌寒かった。

 周囲には鳴く虫の()も無く、シーンとした静寂が辺りを支配し、夜の闇と混ざり合い私達を包んでいる。

 

 「少し歩いてみるか」

 「そうですねぇ…」

 彼はもう、周囲の闇が醸し出す雰囲気に、既に飲まれかけている様だった。


 走る車も、当然誰もいない()()を、当てもなく懐中電灯の光で足下を照らし、ただふらふらと歩いていた。

 左右に広がる樹海の森は、纏わり付く様な陰湿に湿った空気を放ち、その暗い森の梢に懐中電灯の光を向け、木々の梢の隙間を窺い見ようとする気には、間違っても決してなりはしなかった。 

 樹海の奥底に際限も無く広がる闇の世界から、そこに潜む何かが、今にも飛び出して来そうな気配を周辺に漂わせていたから。

 

 暫く歩くと、左手の木々の連なりが切れた場所に、未舗装だが車が通った轍跡が残る林道の様な道が口を広げていた。

 「せっかく来たんだし、ここに入ってみるか?」

 私は、後ろに続いて歩いている田村君を振り向き、そう言った。

 「え?、えぇ…」

 その私の問い掛けに、彼は顔を引きつらせているのが分かった。


 今思い返しても、その夜の私は、確かにどうかしていた。


 ここは自殺の名所として知られる、あの『青木ヶ原樹海』である。

 毎年、地元の警察や消防が、多くの自殺者の遺体を回収していた。

 そして実際、国道との境には、

 『命は両親から頂いた大切なもの。一人で悩まずに』

 『命の電話番号:05……』と、

 記された何枚もの看板が設置され、暗闇の中から無言で呼び掛けている。


 恐らく、私達が今いる場所の数十メートルの範囲には、亡くなった方の遺体が横たわっているはずだった。そして今まさに命を絶とうとする人が、私達の気配に身を固くして、ジッと耳をそばだて我々が行き過ぎるのを窺っているかもしれない。

 もし霊がいるのなら、この闇の中から私達をジッと見詰めているのだろうか。

 果して既に、私の両肩にはもう、黒い影が憑いているのかもしれない。


 私はその砂利道に懐中電灯の光を向けると、何の躊躇もなく踏み込んでいた。

 

 懐中電灯の光で道の奥を照らすと、光の届く限りの範囲では、その道はそのまま真直ぐ樹海の奥へと続いている様に見えた。

 道の左右には太い灌木の木が所々道に沿って生え、その周囲には背の低い藪の茂みが、樹海の深部へと向かって黒く続いている。


 私は時々、後ろに続く田村君に、

 「暗くて、怖えぇなぁ…」

 「ヤバいわ、ここ。大丈夫か?」 

 と、意味のない言葉で話しかけながら歩いていた。


 正直、その時の私の心の中は、身震いするほどの恐怖で一杯だった。とてもこの樹海の闇に独りで居られる様な心持ちでは無く、本当に、一本のか細い糸だけで心のバランスが繋ぎ止められているだけの心細さの中にいた。 


 その時、遠くの方から私のことを呼ぶ声が聞こえた。

 「えっ?」

 思わず立ち止まり、足元を丸く照らし出す懐中電灯の光の中に佇み、その声に耳を澄ませた。

 

 「もういいです‼。帰りましょう。

         もう止めましょう、本当に!」

 ()()()()から、泣き声交じりに聞こえてくるのは田村君の声だった。

 

 「えっ⁉。何で?…」

 私は、後ろに居る田村君を振り返った。

 だが、そこに彼の姿は無かった。真っ暗闇の林道の真ん中で、丸く周囲を照らす懐中電灯の光の中に、私だけがただ一人ぽつんと立っていた。

 そこに居るはずの田村君は、ここからはもう遥かに離れた場所となった国道の林道への入り口で、手にした懐中電灯の光を頭の上でぐるぐると振り回しながら、私に向かって泣き声交じりの叫び声を上げているのが小さく見えていた。

 気がつかない間に、私は一人きりで林道を、もう七、八十メートルほども樹海の森奥深くへと入り込んでしまっていた。


 「()


 「⋯おい…。本当かよ⁉。勘弁してくれよ…」

 その時、本当に泣きたかったのは、私の方だった。


 入ってきた国道からの入口を、後ろを振り返りながら照らした懐中電灯の光の先には、白く闇の中に浮かび上がる白い花束の束が、林道の脇に生える太い灌木の根元に置かれていた。  

 しかも、それは一本の木の根元だけではなく、ここから見える林道の左右に並ぶ何本もの木の根元に、それぞれ、幾つもの白い包に包まれた花束があった。それらの花束は、懐中電灯が照らす光の環の中に白く、くっきりと真っ白いその姿を浮かび上がらせて見えている。


 それらの花束は全て、国道から入る時に見える側ではなく、今、樹海の森の奥から振り返り始めて見える木々の裏側に、まるで隠すかの様に置かれていた。


 「ここで、何があったんだ?… 此処は⁉…、…」


 木々の根元で、ひっそりと白く闇の中に浮かび上がるそれら数多の花束は、一体どういう理由からだったのだろうか。

 だが、当然それが分かっていれば、この場所に、今こうして独りで立ってはいなかったのだが。


 

 その瞬間、全身に()()()()押し寄せた恐怖心に、私はパニックを起こしていたのだろう。

 脇目も振らずただ国道へと、私は足下の懐中電灯の激しく揺れる光の環だけを見詰め走っていた。灌木の木立の根元に置かれた、白い幾つもの花束の間を。


 国道の街路灯が照らす光の下に、半泣きで立っている田村君がいた。

 私は、肩でしている息を整えながら言った。

 「お前なあ…。何でここにいるんだ? てっきり俺の後ろに付いて来ていると思ってたんだ!」

 「俺独りだったら、こんな所に入って行く訳ないだろうが‼」


 「そっちこそ、おかしいですよ‼ こんな場所、入って行ける訳ないじゃないですか!」

 「ここに立っているだけでも怖くてたまらないのに。どんどん、勝手に歩いて行ってしまうから! …」

 当然、そう彼に詰られても、私は言い返せる言葉を持ってはいなかった。

 

 私は彼に、木立ちの裏に隠す様にあった花束の話をしたのだが、あまりの恐ろしさに、心底もう興ざめしていた。田村君も余計に青ざめるだけで、そのまま二人車に乗り込むと、逃げる様に元来た国道をただ真直ぐに事務所へと帰ったのだった。

 二人とももう、互いに口を聞かずに。


 たぶん、あの国道から樹海の中へと続く林道は、樹海で発見された遺体を運び出すための、運搬車両の進入道路ではなかったかと思う。

 人目に触れることなく密かに、遺体の収容作業ができるだろうから。

 

 樹海で死ぬ人達は、森の奥深く分け入る人は少なく、多くが樹海のほんの入り口で、事を遂げると聞く。 

 亡骸となった自分を、早く誰かに見付けて欲しいとの心情が働くのだろうか。

 誰しも、虫だらけになって無残に溶けていくことを望みはしないだろうから。


 それとも、あの幾つもの花束は、あの幾本もの木で、実際にこれまであった事故の証だったのだろうか。



 今でも、あの樹海の暗闇の中で、懐中電灯の照らす丸い光の中に、真っ白く夜闇に浮かび上がる幾つもの花束と、走りながら足下で激しく揺れ動いていた白い懐中電灯の光の輪の残像は、恐怖の感情とともに深く私の脳裏に焼き付けられている。 

 

 (了)

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