第42話「かわいい生徒」
「今日も村雲さんのお家に行くけど……いったん、上条さんはお家に送ったほうがいいかな?」
村雲さんのお家に行くのは、不登校だった子のケアという面目があるのだけど、このまま美鈴ちゃんのお家に上条さんを送り届けるのは、正直リスクが高い。
とはいえ、降りて自分で帰りなよ、という冷たいことも言えないので、こうお伺いを立てるしかなかった。
「大丈夫です、私も村雲さんのお家に行きますので」
まぁその辺のことを、この賢い子が考えていないはずもなく、最初から一緒に行くつもりだったようだ。
なんだかんだ、結構負担を掛けちゃってるなぁ……。
「しんどい思いをさせてごめんね」
「かまいません、好きでやっていますので」
「……好きで?」
ちょうど信号に引っかかったので、俺は思わず上条さんの顔を見る。
すると、彼女は『しまった!!』という表情を浮かべた。
そして、すぐに顔を赤くして睨んでくる。
「嫌々で、です……」
「そっかぁ」
やっぱり素直じゃないなぁ、と思いつつ、俺は笑顔で頷いておく。
本当はずっと、村雲さんのことを気に掛けていて、どうにかしたいと思っていたんだろうなぁ。
だから、俺がある程度信用できる、と思った段階で自分から来てくれたんだろうし。
うんうん、なんだかんだ言ってて、上条さんはとてもいい子だよなぁ。
「今すぐその生暖かい目と笑顔をやめないと、私の右手が先生の顔面にめり込むことになりますよ……!?」
かわいい生徒を見守る感じでいると、上条さんがプルプルと体を震わせながら、握りこぶしを作った。
「だからなんで君はそんなに手が早いの!?」
「先生が私を煽るからです……!」
「何も煽ってないのに……!」
そんなやりとりをしていると、信号が青になったのですぐに車を発車させる。
さすがにこの子も、運転中は手を出してこないので、安心だ。
「先生はいじわるな人ですね?」
「えぇ……何も意地悪はしていないと思うけど……」
「ふんっ……」
鼻を鳴らしながら、プイッとソッポを向く上条さん。
子供が拗ねたような態度に、思わず口元が緩みそうになる。
なんだか、年相応の女の子って感じで、かわいらしかった。
普段からこういう感じなら、みんなも親しみやすいだろうに……。
まぁ、気を許せる相手がいないんだろうな。
そう考えると、俺にはこういった子供っぽい態度も見せてくれるので、結構気を許してくれるのかもしれない。
彼女がすぐ手を出すのも、俺だけだし……あれ、喜んでいいのかどうか、わからなくなってきたぞ……?
「…………」
また信号に引っ掛かったので、チラッと横目で上条さんを見てみると、彼女の頬は小さく膨らんだままだった。
うん、学校では絶対こんな顔しないしなぁ……。
打ち解けているってことで、いいんだろう。
生徒とコミュニケーションを取るのはとても大切なことなので、難攻不落っぽい上条さんとここまで距離を縮めることができたのは、良かったと思う。
きっと、何かきっかけがなければこの子は教師に気を許さないだろうから。
まぁ……もう少し、俺にも優しくしてくれたら助かるなぁとは思ってしまうのだけど。
上条さんが拗ねてしまったので、静寂が車内を支配する。
だけど、不思議と居心地の悪さは感じなかった。
多分、上条さんが拗ねてはいても、それは照れ隠しだ、というのがわかっているからだろう。
むしろ触れないでおくのが優しさかな、と思い、俺は黙って車を走らせた。








