第36話「裏切らない」
「驚かせてしまってごめんなさいね。村雲さんとお話をしたくて、先生に無理を言って連れてきて頂いたの」
上条さんの猫被りモードは継続しており、予定になかった作り話を始めた。
村雲さんが返事をしてくれた以上、ここは上条さんに任せるのがいいのかもしれない。
そう思った俺は、彼女の好きにさせておくことにした。
『お話……? 学校でも、ほとんどお話してないのに……?』
村雲さんは、上条さんの言葉を鵜呑みにはしていないようだ。
学校でのクールで怖い上条さんの印象は、村雲さんだって強く抱いているだろうし、無理もない。
むしろ、上条さんが温和な態度を取っているのは、自分が村雲さんに怖いイメージを持たれていると、わかっていたからかもしれない。
「それはそうね。でも、今まで話さなかったからといって、それはこれからも話さないということに繋がるものでもないと思うの。特に、世の中には話してみないとわからないことが、結構あるのだから」
『――っ』
おそらく、ドア越しに村雲さんは身構えた。
上条さんが来ている理由は、自分が引きこもりになった理由を聞き出すためだ、と察したのだろう。
まぁ当然といえば当然なのだが、上条さんはどうするつもりだ?
「でも、話さなくてもわかることはある。村雲さんは、とても優しくてまじめで、いい子だってことは、去年あなたを見ていて私は知っているわ」
『――っ』
また、村雲さんの息を呑む音が聞こえてくる。
しかし、先程の身構える時とは違い、嬉しさを含む――誰かに認められていたという、喜びを含む音に聞こえた気がした。
「先生を簡単に信じられないという気持ちが、わからないわけではないわ。私だって、学校にいる先生のほとんどを信じていないから」
突然、教師の俺が隣にいるにもかかわらず、ぶっちゃけてくれる上条さん。
そうだよね、君の学校での態度はほんとそういう態度だよね!
だから他の先生方も君が成績優秀なのに、目の敵のようにしているんだと思うな……!
と思う俺だが、教頭のような先生を知っていると、上条さんの言葉を全て否定することもできない。
そう思って、黙っていると――
「でも、信用できる先生もいる」
――チラッと、俺の顔を横目で見てきた。
「村雲さんには、白崎先生が上辺だけの人に見えているかもしれないわね。だけど、安心して。この先生は、絶対にあなたを裏切らない」







