第34話「知らされる真実」
「まだそれを言うの……!? てか、あれは佐奈ちゃんと遊びに行っただけで、美鈴さんとデートしたわけじゃないから……! そもそも、旦那さんがいるのに、デートとかできるわけないでしょ……!」
俺はやっと、言いたいことを言えた。
今言ったことは嘘ではない。
本当に美鈴ちゃんとはデートで遊園地に行ったのではなく、娘の佐奈ちゃんのお願いに付き合っただけだ。
上条さんは絶対本当のことを知っているはずだけど、ここはちゃんと断言しておく必要があると思った。
しかし――
「はぁ……?」
――なぜか、上条さんから過去にないほどの呆れた表情を向けられてしまう。
なんなら、どうしようもなく駄目な奴――いや、ゴミでも見るような目だ。
「な、何、その目……?」
殺意さえ含まれているんじゃないかと思うほどの、あまりにも迫力がある冷たい瞳に、俺はたじろいでしまう。
人を一人殺してきた、と言われても信じられそうな目だ。
「私、人にここまで呆れたの、人生で初めてかもしれません」
「そんなに!? 別に変なこと言ってないでしょ……!?」
「はぁ…………先生ってよく、今まで生きてこられましたね……?」
ツッコミを入れると、とても深い溜め息と酷い言葉が返ってきた。
「まだ追い打ちをかけてくるの!? いったい何がそんなに駄目だったわけ!?」
容赦のない言葉ばかり言ってくる上条さんに、俺は我慢できず切り込んでみる。
すると――
「あの人は、一度も結婚をしたことがないですよ? 旦那さんなんて、いるはずがないじゃないですか」
――とても衝撃的なことを言われてしまった。
「えぇえええええ!?」
「驚きすぎです。本当に気付いていなかったんですね……」
再度、心底呆れたような目を向けてくる上条さん。
俺……今日一日で、この子の中でかなり株が下がっているだろうな……。
「い、いや、だって、佐奈ちゃん……!」
上条さんと美鈴ちゃんが本当の親子じゃないことは、既にわかっていた。
でも、佐奈ちゃんはどうなんだ……!?
あの子はとても幼いので、上条さんと結構歳が離れている。
その理由が、上条さんは何かしらの理由で美鈴ちゃんが引き取っただけで、美鈴ちゃんと旦那さんの間に生まれた子が佐奈ちゃんであり、だから二人の歳は離れているんだと思っていた。
ましてや佐奈ちゃんは上条さんと違って、美鈴ちゃんのことを本当のお母さんのように慕っている態度なのだし。
「あの子は、本当に私の妹ですよ? ただ歳が離れているだけです。そして両親を事故で亡くし、叔母であるあの人に引き取られたわけです」
「うっそぉ……」
想像もしていなかった展開に、俺はガクッと膝からくずおれる。
まじかよ……道理で、美鈴ちゃんは平気で休日の度に俺を家にあげるわけだ……。
そりゃあ旦那さんがいないのなら、何も恐れるものはないよな……。
俺はただ一人、馬鹿みたいに毎回怯えていただけのようだ……。
「むしろ、旦那さんがいると思っていたのに、よく家にあがってきてましたね? メンタル鋼ですか?」
「うっ……! あれは、佐奈ちゃんからのお願いを断われなくて……! だって、断ろうとしたら泣きそうになるし……!」
「だとしても、普通の人は断りますよ? なんせ、自ら修羅場に飛び込むようなものなんですから」
上条さんの正論パンチに、俺は言葉を失ってしまう。
まぬけとは、俺のような人間のことを言うんだろうな……。
頭が痛くなってきた……。
「そもそも、学校にある書類を見れば、旦那さんがいないことなんてすぐわかったでしょうに」
「わざわざ調べたりしないよ……」
「元カノのことって、調べたくなるものじゃないんですか?」
「そ、それは、男なら確かにそういうことも……てか、正直俺だって気になりはするけどさ、私欲のために生徒の情報を漁るとか絶対したら駄目だから……! 俺はしないよ……!」
上条さんの言う通り、書類で確認すればすぐにわかったことだ。
しかしそれは、私欲による職権乱用となり、許されることではない。
だから俺も我慢をしていたのだ。
「ビビりですね」
「せめて真面目と言ってくれない!?」
なんでこの子はすぐ俺を馬鹿にしてくるんだ……!
いや、ここまで醜態を晒していたら、馬鹿にされても仕方がないのかもしれないけど……!!
「というか、上条さんももっと早く言ってくれたらよかったのに……!」
この子、絶対最初の頃は、俺が勘違いしていることに気が付いていただろ!
それなのにあえて言わなかっただけの気がする!
だからこそ、俺も文句を言ったのだけど――上条さんは、肩を竦めて鼻で笑った。
「そんな義理はございません」
「それもそうだね……!!」
うん、この子ほんとこういった話だと活き活きするな……!
正直口喧嘩だと勝てる気がしないよ……!
「まぁそれにしても……先生は、本当に気を付けたほうがいいんじゃないですか? 知らぬ間に、とんでもない詐欺に引っかかりかねませんよ?」
よほど俺のことが駄目人間に見えたらしく、先程まで意地悪な笑みを浮かべていた上条さんが、心配そうに忠告をしてきた。
「さすがに、そんなのに引っかかることはないと思うけど……」
今まで一度たりとも、詐欺メールなどに引っかかったことはないんだし……。
「自分は大丈夫だって思っている人って、詐欺に引っかかりやすいそうですね~」
「うぐっ……!」
「それに、気が付いた時にはもう手遅れ、ということも世の中にあるんですよ?」
「なんで俺は、生徒に教えられる立場になってるんだろ……?」
「自覚もなく、いろいろと首を突っ込むからじゃないですか?」
「…………」
「心当たり、ありますよね?」
「はい……」
「以後、気を付けてくださいね?」
「はい……」
――こうして、どちらが先生かわからないようなやりとりをすることになったが、上条さんはちゃんと村雲さんの家に付いてきてくれることとなった。
それにしても……美鈴ちゃん、結婚してなかったのか……。
そっか……。
まぁでも、生徒の保護者だから、結局は関係を持つことなんてできないんだけどね……。







