第33話「活き活きとしている生徒」
「なっ……!?」
俺は慌てて周りを確認する。
幸いにも、他の生徒や先生の姿は見えない。
まぁ、誰にも見られたり聞かれたりしないように校舎裏に来ているので、それは当然なのかもしれないが。
「焦りすぎです」
「焦るよ……! 誰かに聞かれたらどうするの……!?」
生徒の保護者と恋人のような関係を持っていると誤解をされたら、俺の首が一瞬にして飛んじゃうじゃないか!
教頭から死ぬほど嫌味を言われるし、理事長からもガッカリされるし、知人からは変な目で見られるしで――最悪なことしかない!
「私はノーダメなので」
「そうだね……!!」
ニコッととてもかわいらしい笑みを浮かべて小首を傾げた上条さんに対し、俺は苦笑いを返す。
この子、人を弄る時にいい顔しすぎだろ……!
「でも、美鈴ちゃんも困ることになるし、君自身も変な噂話で嫌な思いをすることになると思うよ……!?」
「大丈夫です、先生があの人の弱みを握って強引に迫っていた、というふうに周りに吹き込み、全責任を先生に取って頂くので」
「君は悪魔か!?」
そこまで俺が憎いのか……!?
と思ってしまうが、実際この子は俺を憎んでいるかもしれない。
なんせ、彼女がかわいがっている大好きな妹は俺にベッタリで、休日の度に遊んでいる。
その上、彼女の家にも行って、そのまま妹の佐奈ちゃんは俺から離れず、妹をかわいがりたい上条さんにとっては面白くないはずで――うん、十分恨まれる要素はあるな……。
俺は少し、冷や汗が出てきた。
「ですが実際、もしあの人が追い詰められたら、先生が責任を被るんでしょ?」
突然、上条さんの表情が変わる。
先程まで楽しそうに笑っていた彼女だが、再度首を傾げ、俺の顔を観察するようにジッと見つめてきた。
「えっ? そりゃあ、まぁ……うん。美鈴ちゃんに悲しい顔はしてほしくないし……俺には守るべき家族も、いないしね」
もし本当に周りに知られて問い詰められるようになったら、その時は俺が全責任を被ったほうが丸く収まるだろう。
美鈴ちゃんには養っていかないといけない上条さんと佐奈ちゃんがいるんだし、旦那さんとの関係を悪くするわけにもいかない。
俺が失うものとしてあるのは職だけだし……最悪、どうにでもなる。
それに、佐奈ちゃんが俺に懐いてくれているだけで、本当に美鈴ちゃんとは何もないんだ。
彼女を追い詰めさせるわけにはいかない。
「そういうところなんでしょうね、あの人が惹かれるのも……」
「えっ? 今なんか言った?」
思考を巡らせていると、何か上条さんが呟いた気がしたので、俺は尋ねてみる。
「先生って、人生損する人ですねって言ったんですよ」
そんな俺の問いかけに対し、上条さんは肩を竦め、仕方がなさそうに笑ってきた。
いや、うん……。
「急に何!?」
なんで俺は、『この人は駄目な人だなぁ』見たいな目で見られているんだ!?
「今までいったいどれだけの損をしてきたんですか?」
「俺が損をしている前提で話を進めるのはやめてくれない!?」
「今更何を?」
「今更!? 今更も何も、全然そんな話じゃなかったよね!?」
この子はいったい何が言いたいんだ!?
話が変わりすぎて、先生付いていけてないぞ!?
「まったく、仕方がない人です」
「ついに口に出してきたんだけど!? 俺呆れられるようなこと、何もしてないよね!?」
「…………」
ツッコミを入れていると、上条さんは唇に人差し指を添えて、天を見上げ――
「私の保護者とデート?」
――また、俺が困る部分を掘り返してくるのだった。







