第32話「意地悪な笑み」
「はぁ……ずるいですね、先生は」
深々と頭を下げる俺の頭上で、上条さんは深く溜息を吐いた。
「ずるいかな?」
「ずるいです、人の良心に付け込んでいるんですから」
苦笑しながら顔を上げると、上条さんは不満そうに眉を顰めていた。
「まぁ、否定はしないよ。上条さんは根がいい子だから、村雲さんを放っておかないと思って頼んでいるわけだし」
「――っ」
俺が『あはは……』と困ったように笑いながら頬を指で掻くと、上条さんは再度息を呑んだ。
その上、今度はなぜか俯いてしまう。
「どうかした……?」
「いえ……期待を裏切って悪いですけど、私、周りに興味がありませんので。村雲さんのことだって、今まで放っておいたわけですし」
顔を上げた上条さんは、呆れたように溜息を吐く。
本人はこう言っているが、本当は周りのことをよく見ているし、気にもしている。
それに、心優しい子だというのも知っているのだ。
どれだけ仮面を付けて冷たい人間アピールをしようと、彼女の日頃の態度を見ていればわかる。
「俺はそうじゃないと思っているけどね」
「先生の勘違いです」
「じゃあ、どうしてわざわざ俺に、村雲さんと元担任の話を打ち明けたのかな? 関わりたくないなら、話さなかったらよかったのに」
俺は、村雲さんが元担任に話していたことを、上条さんが知っているとは思っていなかったし、一度話を聞いた以上、詳しいことを知っているとも思っていなかった。
それなのにわざわざ打ち明けに来たのは、上条さんのほうだ。
本当に村雲さんのことを放っておくつもりだったのなら、俺に言うことはしなかっただろう。
少なくとも、周りに興味がなくて冷たい人間であれば、自分からこの件に関わろうとなどしない。
「それは……」
俺の問いに対し、上条さんは言葉を詰まらせてしまう。
やはり、本心ではなかったんだろう。
「協力、してくれるかな?」
「…………」
念を押すように笑顔で聞いてみると、上条さんは黙り込んでしまった。
そして――
「はぁ……わかりましたよ。どうせ手伝わなかったのを知られたら、あの人に怒られますし……仕方がありませんね」
――なんとも素直じゃない感じで、協力してくれることを認めた。
この子、やっぱりツンデレ属性があるのだろうか?
と、疑問に思っていると――。
「それはそうと、休日に生徒の保護者と遊園地に行くだなんて、どういう了見なんですか?」
突然話を変えられ、とても意地悪な笑みを向けられてしまうのだった。







