第31話「プライド」
「それで……なんとなく予想は付きますが、私にいったいなんの用ですか?」
いつもの校舎裏に着くと、上条さんはめんどくさそうに溜息を吐きながら、俺の顔を見上げて聞いてきた。
おとなしく(?)付いてきたり、こうしてなんだかんだ聞く姿勢を見せたりと、意外と律儀な子ではあるんだよなぁ。
育ての親のおかげかもしれない。
つまり、美鈴ちゃんのおかげというわけか。
……自分で考えていて、さすがにこの思考はないな……、と思った。
「今日も村雲さんの家に向かうんだけど、上条さんも来てほしいんだ」
前に断られているが、俺は再度打診をしてみる。
すると、上条さんは深く溜息を吐いた。
「嫌ですよ、私がそこまでする義理はないので。別に村雲さんと仲が良かったわけでもないですし、私が行ったところで意味なんてないですからね?」
上条さんが嫌がる理由もわかる。
誰だって、面倒事に首を突っ込むのは嫌だろう。
ましてや俺に協力することで、陰湿ないじめをしていた主犯格に目を付けられる可能性だってある。
まだ若い彼女がリスクを嫌うのは、当然なのかもしれない。
「まぁ、私の家で言ってこなかったことは、素直に評価しますが……。先生からすれば、あの人を味方に付けられる家でこの話を切り出したほうが、楽だったでしょうし」
上条さんは言葉通り、少し見直したように俺の顔を見てくる。
実際、その気持ちがなかったというわけではない。
正直言えば、確実に上条さんを味方に付けるために――と、選択肢が浮かんだところではある。
ただそれをしてしまうと、形状は彼女を味方に付けられても、非協力的になってしまうだろう。
逃げ場をなくし、強制的に協力させているようなものなのだから、そうなるのが当然だ。
だから俺は、それを避けることで彼女の不満を買わないようにし、かつ、もう一度向き合って頼む道を選んだ。
わざわざ美鈴ちゃんを味方に付けなくても、上条さんは協力してくれると思ったからだ。
「嫌々協力してもらっても、きっといいことにはならないからね。俺は今日、一歩踏み込もうと思っているんだ。そのためには、上条さんの協力が必要だ」
「先生なのに、生徒に頼るんですか?」
「うん、頼るよ。教師や大人のプライドより、生徒のほうが大切だから」
「――っ」
上条さんの目を見つめながらハッキリと言葉にすると、彼女は驚いたように目を見開き、息を呑んだ。
俺はそんな彼女を見つめたまま、威圧的にならないよう気を付けながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「いじめ問題は、教師だけで解決をするのは難しいんだよ。ずる賢い子ほど、教師に見つからないように手を回し、証拠を残さないからね。ましてや俺は、いじめ問題に関して校内でいろいろと探りを入れちゃってるから、警戒されていると思うし」
「だから、こういったいじめ問題に興味がなさそうな私を、協力させたいということですか?」
そこに意味はない、と言うと、嘘になる。
今回の件で彼女が適任と思ったのは、そういう、冷たくて周りに関心がない子、という印象が、相手の警戒心を緩めるものだというのも確かにあった。
何より、学校では俺に対して他の教師同様辛辣な態度を取ってくるので、いじめっ子も、まさか俺のお願いを聞くとは思っていないだろう。
だから俺も、周りに生徒がいない一人の状況で、上条さんに話しかけているわけだし。
ただ一番の理由は、彼女の頭が良くて状況判断能力が高く、実は周りをよく見ていて優しい子だから、というのだった。
彼女ほど、味方に付けられれば心強い子もそうはいないだろう。
もちろん、この場合の心強いというのは、俺にとってではない。
「上条さんが、このいじめ問題を解決する大切な鍵になると思ったから、お願いしているんだよ。どうか、俺に力を貸してほしい」
俺は、深く頭を下げて上条さんに頼み込む。
ここから先、彼女の協力なくしてこの問題を解決するのは難しい。
だけど俺に今できるのは、こうして頼むことだけだった。







