【第86話:魔王と封印と黄金の時間】
最上部に天空を望むテラスがある。
外には漆黒の空が広がっている。
そこに立つ魔王は両手を広げ呪文のような言葉を呟いた。
それはオリジナル達の世界の古い言葉だった。
Tamsa apgaubia pasaulį(暗闇が世界を包む)
Šešėlių žvėrys ir demonai švenčia(影の獣と魔が祝宴を開く)
Viskas paaukojama, tampa auka(全てを捧げ供物と成す)
魔王の詠唱とともにレギオトゥニスの一部の機能が開放され、必要なエネルギーを各所から吸い上げていく。
とらえてあった大きなエネルギー保持者もどんどん吸い上げ、主機に力を蓄えていく。
「まもなく‥‥まもなくだ‥‥」
室内を振り向いた魔王ゼルディアスが囁く。
「多くの影獣の中で、セルミアだけが女王として作られたのには理由があったのだよ」
魔王の見つめた足元には、シーツにくるまり震えるセシリアの姿。
「そのレプリカたるお前もな‥‥」
ばん!!
そこにユアがついに到達する。
「そこまでだ魔王!」
ユアは魔王ゼルディアスに指を突きつける。
余裕の笑みを浮かべる魔王が歩み寄る。
コツコツという足音にはなんの迷いもないし、手足の外骨格以外服も着ていなかった。
「よくぞまいった‥‥勇者よ‥‥」
表情をかえず立つ魔王は、身体の一部をぶらんぶらんさせて言う。
「なんで服着てないのよ!?」
真っ赤になって顔を両手で隠すユアは退出した。
他のメンバーは入るに入れず顔だけだして、ガン見していた。
回廊からユアの声が響く。
「まってるから‥‥パンツくらいはいてよぉ」
そういうとドアを閉めるユアだった。
ばん!!
そこにユアがついに再び到達する。
「そこまでだ魔王!」
ユアは魔王ゼルディアスに指を突きつける。
「うむ‥‥よくぞまいった勇者よ」
なんとなく間が悪いふたりであった。
魔王の黒いチェニックが揺れ、真紅の裏打ちのマントが風に吹き流される。
「ユア!逃げて!」
半身を起こしたセリシアの必死な声が響く。
ユアの後ろには女神ラウマと女神ノアのすがた。
「セリシア!どうして!?くそおぉセリシアは返してもらうわ!」
くくくと笑う魔王ゼルディアス。
「何故ラウマとノアが生きている?‥‥まあいい都合はいいな」
きっとユアの目が戦士モードに切り替わる。
「いいもんか!そしてお前は死ね!」
カッとユアの両目が赤光を放ち、右手の短剣が伸長され黄金をまとう。
『勇者を止めろ』
ゼルディアスの声に女神ラウマと女神ノアが動き、ユアを追いかけた。
二人の手がユアに届くその瞬間。
ボヒュウウウ!!
「なに?!」
とっさに避けた魔王の、頭のあった位置に回廊から氷の槍が打ち込まれる。
回廊から現れたのは銀ロッドをかかげるアミュアと、スタッフを向けるエイシスだった。
動揺した魔王の足を、女神ノアが沈み込み足払いで打ち払い浮かせる。
浮いた魔王に茨の拘束魔法が女神ラウマから放たれた。
バシバシっとトゲが魔王にささり毒を撃つ。
そこに届いたユアがペルクールの雷を放った。
ズバアアアァァァン!!
雷神が魔王を撃つ瞬間にユアの身体に変化が起きる。
「なあ?!」
雷神は外に向かわず、魔王とユアの全身を駆け巡った。
ふっと黄金の時間に飲み込まれるユア。
ーーーなぜラウマとノアは我が命にそむける
不思議そうにする魔王の顔にはもう悪意はなかったし、着たはずの衣服もなかった。
ーーあれは女神様じゃないよ。あたしの仲間のラウマとノアだ。
女神様の服をもらってきたの‥‥形見としてね
宙に浮くユアも全裸で下腹部に封印の黄金が3重に輝いていた。
ーーーそうか報告のあったラウマとノアの分霊か‥‥なんともあっけない‥‥
なっとく顔の魔王は穏やかな顔になっていく。
ーーもう諦めた?滅ぶと良いよ‥‥つかれたんでしょ?
パシィ!!
突然ユアの下半身で光りが破裂した。
黄金の世界にさらなる黄金が閃光のように弾けたのだった。
ーーくはぁあぁぁ!!
ユアの上半身が真っ赤になり、苦痛でびくびく震える。
ーーーーそんなに簡単に諦めてもらっては困るな
その声はユアの輝く下半身から響いている。
ーーーなにものだ?
不審そうな顔で魔王ゼルディアス
ーーーーひさしいな‥‥まずは戻ろう
バシィとまた閃光がはしりユアの身体を塵にして弾き飛ばし、そこに漆黒の身体が現れる。
そして黄金の時間が解かれた。
魔王ゼルディアスが震えている。
指差すその先には反転した己の姿。漆黒の肌に真紅の瞳、もえる銀髪が背に流れ純白の衣装に身を包む。
完璧なカラーコントラストで全く同じ顔を持つ者。
「な‥‥なにものだ?」
その放つ気配は尋常ではなく、己と同じ圧と知性を感じられた。
前を開けられた白い衣装の下腹部がすべて見えぶらんぶらんする。
黄金の封印が3つ全て解放され、黄金のルーンとコードをすべらして展開され回っている。
コツと一歩を踏み出すユアだったもの。
そこにユアの成分は何もなく、女ですら無い。
漆黒の男が立っているのだ。
コツともう一歩。
セルディアスをしてかかとが下がる。
『なにを恐れる?我が兄よ』
オリジナルの知識は七星賢者会の持つそれを内包した。
万能の神とも思われるその知識にも、エルヴァニスにより作られた己の身体が、もう一つあったとは知らなかった。
そこに何が宿ったというのか。
『ともに星を越え成し遂げようではないか?悲願を』
オリジナルたるゼルディアスには実際、太古の昔に弟がいたのだ。
この星にたどり着いた時に失われたはずの血縁たる弟。
「アルディオス‥‥なのか?」
『共に誓ったではないか‥‥あの星々の果にて成し遂げようと‥‥』
ゼルディアスの指が下り、瞳に理解が浮かぶ。
「霊子まで分かたれた己を因果に落としつむぎなおした?」
アルディオスの赤い瞳に笑みが滲む。
『ペルクールの雷により滅んだ身を、かの雷神によりて紡ぎ直させる事で、越えたのだよ滅びを』




